第6章
名前変換
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ぶつけた?
ボールを?
・・・倉永に?
一瞬頭が真っ白になる感覚に陥る。
そして真っ赤に染まる俺の心。
激しく鼓動を打つ心臓がうるさい。
すぐさま身体がカッと熱くなる。
何も、考えられない。
俺は他のクラスが授業中であることも忘れ、怒りを露にした。
「ぶつけただとっ!?お前らっ・・・そんなことをして、
その上花瓶まで落としたというのか!!」
「でもすっきりした。最後まで泣かなかったのは気に食わなかったけど」
他の奴らは俺の態度に怯えるが、
コイツは薄ら笑みを浮かべながら涙を流した。
ぶん殴ってやりたかった。
頭をかち割るくらいに。
血しぶきが飛び散るぐらいに。
それぐらい今の俺は怒りに燃えていた。震えていた。
しかし、不意に我に返る。
どうして俺はこんなに怒っているのだろう。
はっきり言ってしまえば、これはただの他人事。
こんな事、サラリと受け流してしまえば余計な時間も取らなくて済むのに。
俺の周りで起こった出来事だから?
いや、それは多分違うだろう。
俺のファンクラブの中の騒動だから?
ソイツも今更感が強いから違うな。
ああ、どうして自分の感情、思いですら分からなくなってしまったんだ。
昨日からおかしい。
いちいち感情的になってしまう。
こんな情けない男では無かったはずだろう?俺は。
こんな気持ち、初めてだ。
それは、その原因は・・・、ぁあ、分かった。
だからか。そうか。なら、良かった。
俺は自分の胸の内に問いかけ、出てきた答えに納得した。
妙に清々しくなる。
全ては倉永のため。
だが、それを納得すればするほど、俺は怒りで激しく燃え上がる。
やはり、コイツらは許せない。
しかし、今殴ったところでどうなる。
コイツらは殴られたことで罪を償おうとはしなくなるだろうし、
俺も後悔しか残らない。
そして誰よりも傷つくのは・・・
倉永だ。
俺は淀みなく流れ出てくる真っ赤な怒りを必死に殺し、拳を強く握った。
爪が食い込んで痛みも伴うぐらいに。
「お前ら今日中に反省文提出、そして自宅謹慎処分だ。
先生には俺から伝えておく。・・・十分反省しろ」
はい・・・。と抑揚のない嗚咽混じりの声が揃って聞こえる。
数人が生徒会室を出ていくと、静寂が訪れる。
だが、一人退出していない奴がいた。
リーダー格の女。
ソイツだけは威勢の良い態度で俺を見つめていた。
「なんだ」
「・・・。跡部様は、どうしてあの子をお友だちに?」
「テメエには関係無えだろう」
「教えてください」
似合わない真剣な眼差しで俺を見つめる女に俺はため息混じり答えた。
昔からどんな奴か気になっていた、
新学期たまたま同じクラスになったから絡んでみただけだ。
と。
俺がそう言えば女は神妙に目を細め、“昔、とは?”と聞いて来やがった。
それを教える価値はテメエには無えと思うが、と毒を吐けば、妙に素直に納得する。
「・・・好き、なんですか・・・?恋してるんですか」
はあ?ったく、女ってものはすぐにそっちへ持っていきやがる。
俺が倉永の事を?
ハッ!そんなのあるはずがねぇ。
俺は今まで1度も恋なんて下らない物をしたことがない。
告白こそ、これまでに数え切れないぐらいされたが、全員フってきた。
理由は簡単だ。
まず、俺が相手の事を好きじゃない。
しかも、この俺様にふさわしいと思う女でもない。
・・・部活の、テニスの邪魔の何者でもない。
それに、妙な期待させても、な。
「好きとはどんな感情だ」
気づけば俺はそう問うてた。
何故だか分からないがそう、問うてた。
するとそいつは急に切なそうな顔になって、胸のを愛しそうに押さえる。
「ある特定の人だけに芽生える感情です。近くにいると胸が高鳴ったり、
笑顔を見せてくれると鼓動がより早く刻んだり・・・。
時にはその人に近づく異性に対抗心を燃やしたり、はたまた嫉妬したり。
人によって様々だと思うのですけれど、やはり共通する部分は
“守りたい、一緒にいたい”などだと思います。
・・・すみません、説明下手で」
「いや、いい。十分理解した」
今なら痛いほどに分かるその気持ち。
本当に図星を突かれた。
まさかとは思っていたけど、な。
俺はまた椅子に座り、青い空を仰ぎ見た。
そうか、そういう事だったのか。
俺は倉永に恋をしている。
そう胸に問いかければ、鼓動の早さで返答される。
この気持ちが恋だったとは。
思わず笑ってしまう。
思えば倉永の事ばかり考えている。
あいつの笑顔が脳裏を離れない。
そして、忍足と楽しそうに話しているところを見ると異様に腹が煮えくり返る。
俺様の前だけで笑ってろよ。
他の奴の前で笑うな。
そう思わずにはいられなかった。
初めて異性に沸き上がる独占欲。
きっかけはいつだっただろうか。
もしかすると“昔”からその気持ちはあったのかも知れない。
あの出来事から。
フンと鼻で笑えば、清々しい気分になれた気がした。
この晴れわたる空のように。
その雲一つ無い心のように。
「・・・跡部様、本当に申し訳ありませんでした」
女は深々と頭を下げる。
俺が行けと命令すれば、傷ついたような笑みで退出する。
ようやく一人になれ、ふうと一息を入れる。
今は授業中だから樺地はいない。
俺自ら席を立ち、紅茶を入れた。
そうしても良いぐらい良い気分だったからだ。
紅茶を入れ終われば、俺は深くソファに座り込む。
紅茶を口に含めば、温かで香ばしいお茶が喉をゴクリと鳴らす。
そんな中でも俺は倉永の事を考えていた。
彼女の事を考えていると、あの笑顔を見たくなってくる。
あの小さく可愛い口から流れる言葉を聞きたい。
そして細く柔らかな手に触れたい。
俺様の全ての五感を使って彼女の全てを思う存分感じていたい。
まあ、この王様と呼ばれる俺様だけがこんなに倉永を想っていても
面白くねえし、未来は無えよな。
俺がニヤリと笑えば、もう紅茶は飲み干していた。
彼女にも俺を溺愛するほどに惚れ込ませてやろうか。
もちろん彼女を大切に守りながら。
このいつまでも冷めそうにないこの熱い気持ちと共にな。
第6章 END 2013/12/30
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