第5章
名前変換
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別にやましい事考えとらんから。
そう言いつつ私の制服の上着をスルッと脱がす。
「えっ、待って!自分で」
「ほら、怪我人は大人しくしとき」
メッ!、とまるで子供を優しく叱りつけるように私に言い放つ忍足君。
思わず笑うと、彼もまた微笑んだ。
泣いた顔も可愛いけど、やっぱ笑った顔のが可愛ええで、
なんて上手な事を言ってのける彼。
手は素早く私の制服を脱がしていく。
私は特に恥じる様子もなく、ただ淡々と脱がされていく。
だってノースリーブ着てるし、ね。
彼は私のカッターシャツのボタンをプツリプツリと開けて、
シャツ自身をはぎとると、私の青ざめた腕が露になる。
こ、これは。
自分で見るのも嫌になり、目を背けた。
「・・・こりゃ足よりひどいかもなあ」
確かに足より酷く、赤い部分もあれば、青紫になっているような部分もある。
バスケットボールって堅いから。
ちょっと当たっただけの衝撃も重いし。
だけど投げつけられたぐらいで、これほどになるとは思わなかった。
忍足君はこんな傷でも素早く手当をし始める。
彼にこんな事をやらせてると思うと
胸が苦しくなる。
「・・・ごめん」
「フフ、お礼に今度デートしよな?」
え
突然の爆弾発言に、思わず私は彼の顔を見た。
だけど彼はその発言を取り消す動作もなく、
ニコリと微笑むとそのまま手当てを続ける。
本気だ・・・。
忍足君、本気だよ。
私のことを好きじゃないのにデートって・・・。
あ、でも別にいいのか。
ずっと前にリナとデートと称して遊びにいったし。
ん?なんか良く分からなくなってきた・・・。
「ほら、できた」
そういうと、忍足君は私に服を着させてくれる。
ありがとう、と呟くと彼は
どういたしまして、と笑った。
彼は私の頭を撫でる。
優しく、壊れやすいものを扱うように丁寧に。
それは私の心の鉛さえも簡単に取り除くよう。
だけど彼の大袈裟さに私は思わず微笑んだ。
「・・・。ええ雰囲気や」
忍足君がぼそっとつぶやいたせいか、全然聞き取れなかった。
なんて?
私が首をかしげると、彼は何でもない、と言ってブラウンの瞳に熱を籠らせた。
何でもないならいいか、と私はベッドからゆっくり降りシーツのシワを直す。
彼もそれに従ってベッドから降りた。
「なぁ聖」
へっ?
えっ、名前呼び?
馴れない呼び方に驚いてして後ろを振り向こうとしたが、
それは惜しくも叶わなかった。
それは忍足君が私を後ろから抱きしめてきたから。
ど、どうしたんだろ?
それから同時に5時限目終了のチャイムが鳴り響いた。
「聖は俺のこと、どう思っとる?」
後ろから囁かられれば、私の身体がピクンと反応する。
お、忍足君の事を?
どう思ってるか?・・・えーと。
私がプチパニックに陥ってる中、
当然のように頭に浮かんできたワードで答えを返した。
「仲のいい友達、だよ」
うん。私たちは友達。
その事に嘘は無いし。
まずどう思ってるなんて考えたこともない。
あるとすれば、優しい人だなとか?
「そうか、聖は今好きな人とかおるんか?」
思わず首を横に振り、否定した。
きっと彼の言う好きな人は恋愛において、という意味だろう。
生憎、恋愛はよく分からない。
リナ曰く、
毎日がドキドキして超楽しい!!
らしい。
・・・やっぱり、分からない。
「私、恋とかしたこと無いの。よく分からなくて・・・」
私が伏せ目がちにそう言えば、彼は安堵のため息をつき、私を解放した。
すれば、熱の籠った瞳で私を見下ろしてくる。
私は一瞬ドキリとしたあと、思わず目を反らした。
なんとなく、見つめにくくて、目を反らした。
忍足君からは度々あのような瞳で見つめられることが多かったけど、
どうも慣れない。
すごく眼差しが熱くて、取り込まれてしまいそうになる。
彼は少し、本当に少しだけ頬を染めて照れ臭そうに頭を掻き始める。
「あんなぁ、えっ、と」
言葉まで彼らしくない、曖昧で意味のない単語が流れ始める。
動きも普段に増して挙動不審。
その普段の彼と今の彼とのギャップを感じ、思わず笑ってしまう。
そんな私に彼が目を見開き、それから微笑むと、
いつも通りの調子で吐息に言葉を乗せた。
「あの、な。初恋まだやったら、いっぺん俺と付き合うてく・・・」
「倉永ーーーーっ!!大丈夫かっ!?」
えっ?
保健室の扉を思いっきりバンッ!と開けて
大ジャンプで飛び込んできたのは向日君だった。
忍足君が勢いよく振り返ると、地を這いそうな深いため息。
「がぁくぅとぉぉぉおお・・・!!」
「跡部から聞いたぜ、何があったんだよ!・・・そんな傷だらけで!!」
「あ、えっと・・・」
向日君は怒っている忍足君を他所に、私の肩をガッと掴む。
どう答えようかオロオロ困っていると、また第三の刺客が送られてきた。
「うわぁぁぁん!!聖ーーーっ!!」
「リ、リナっ!」
リナはべそをかきながら向日君を突き飛ばし、私に抱きついてきた。
そんな向日君はクルクルと回りながら飛んでいったあと、
無事(?)忍足君に保護され、彼から制裁を受けていた。
岳人・・・、お前、良いところで邪魔しおって。
は?え?お、おい!止めろって!!
ぎぃやぁぁああああああ!!
彼の悲痛な叫び声を背景にしてリナは私に抱き付きながら泣きじゃくった。
「ごめっ、ごめん!聖!!私がっ、私が付いてるって、守るっていったのに!!」
「大丈夫、ありがとうリナ。泣かないで」
「だって!私知ってたの!朝、ファンクラブの子からメールが来てっ・・・!」
え?
彼女の言葉に一瞬、慰めの手が止まる。
聖が体育倉庫にお昼休みに呼び出されてる事、知ってたのに!!
私、嫌な予感がして、付いて行かなくちゃって、思って、
でも委員会で大きい仕事任されてたの、忘れててっ!
私はそんな彼女の言葉を止めた。
「もういいから。・・・ありがとう」
「良くないよぉっ!私のせいで、こんな目に」
大丈夫、私は大丈夫だから。
心配しないで。
リナのせいじゃない。
私はそれだけを言い続けてリナを落ち着かせた。
次第に落ち着きを取り戻していく彼女に私は安堵した。
私は本当に彼女を責めるつもりはなかった。
私は微笑み、彼女に言う。
「本当に、大丈夫だから。心配してくれてありがとう」
「・・・うん。聖もありがと」
鼻をすすり、微笑む彼女に
私は最高の友達だ、と思った。
私のことを心の底から心配してくれて、泣いてくれる子。
そんなリナに出会えてよかった。
「お取り込み中のとこ悪いんやけど、もうそろそろ6時限目始まってしまうで?」
忍足君の言葉に、保健室に置いてある時計を確認すると、
確かに6時限目が始まってしまいそうだった。
「行こっか」
そう言って、4人で保健室を後にする。
リナは即座に忍足君にくっつき、私はガクブルと震えている向日君を介抱する。
そんな光景を客観的に見てふと笑う。
もう終わった。
『そう思っていた。
だけど、これが始まりだったんだ。
と、それほど遠くない未来に思うことになる。』
私はこの日の出来事をギュッと胸の奥にしまいこんだ。
二度と思い出さない為に。
第5章 END 2013/12/26
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