第4章
名前変換
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彼女たちの言った言葉を受け止め、私は考え込む。
そんな私の態度が気に入らなかったのか、
端にいた子が盛大に舌打ちをし、ボールの入っている籠をたぐり寄せた。
・・・あ
気づいた時にはもう遅かった。
咄嗟に見上げた私の視界にはバスケットボールの寂れた橙色しか見えなかった。
「ッあ・・・!くふぅっ」
情けない声と共に、頭に衝撃が走るのを感じる。
ジン、と激しく痛む頭。
悲しくなんて無いのに涙で霞んで見える地面。
倒れ込んだ床がひんやりと私の身体を冷やす。
笑い声と共に次々と飛んで来るボール。
当たった箇所は猛烈な熱を出し、私をさらに襲う。
ボールが当たる度に漏れる私の声は、彼女たちに更なる興奮と喜びを与えた。
そんな状況の中、私は痛みに身を任せ、時が早く過ぎるように
必死に願った。
必死に。
自分でこの流れを止めようとする私は、もう消えていた。
すべてを時に委ねよう。
その想いが通じてか、笑い声も止み、時折来る衝撃も無くなる。
お、終わった・・・?
そろそろと顔をあげると、いくつもの冷たい瞳が私を出迎えた。
「とにかく、もう跡部様に近寄らないで」
「マジで目障りなんだよ」
一方的に言うなり倉庫を後にする彼女たち。
憐れな彼女たちの背中を見、私は思った。
“出た杭を打つ”のはこういうことだと。
跡部様ファンクラブというものは
本質的に互いを見張っているような感じなのだろう。
抜け駆けをさせないために。
有らぬ一線を越えさせないために。
そういう知らず知らずの義務が彼女たちの中にあるのかもしれない。
相手の視点にしてみたら、その集団の一員ではない私は、
とても邪魔で憎い相手なんだと感じた。
自分の想いを彼に伝えても拒絶され、行き場の失った想いで攻撃してくる彼女たちは、
とても憐れで純粋な汚れだ、とも思った。
身体を起こし、立ち上がろうとすれば至るところに鈍い痛みが走る。
それでも何とか持ちこたえて立ち、覚束ない足取りで倉庫を出た。
跡部君のところに行って、断ろう。
彼女たちの言う通りになる気は無いけど、今日はもうお腹に入れれない。
入りそうにもない。
ただひたすら歩くと噴水が視界に入る。
彼らはいた。
跡部君と忍足君。
不幸中の幸いか今日は二人だけだった。
「遅いぞ」
二人は待ってくれていた。
お弁当も食べずに、何分も。
あ・・・。
冷えきった心に熱いものが込み上げて来るのを感じる。
私の知っている彼らの心地よさ。
私の大好きな温かさ。
流れそうになる雫を堪えながら私は震える声を出した。
「ごめ、ん。今日は、一緒に食べれな、い」
途切れ途切れになる私の言葉に、彼らは微笑み、私を柔らかく受け止める。
私は彼らの温かさを知ってしまった。
故に、より辛い。
「ほんなら倉永、顔色悪いし保健室行こか?」
「っ、ううん。だいじょ、ぶ」
本当は大丈夫じゃない。
それは自分の声で丸わかり。
だけどプライドか、単なる見栄か。
私の望みを押さえ込む。
「おい、全然大丈夫じゃねえだろ。忍足の言う通りにしろ」
俺もついていくから、と彼は立ち上がり私の前をさっさと歩く。
ほんなら俺も、と言って忍足君までついてきた。
二人の優しさに本当に甘えたくなる。
泣きたくなる。
だけどそれはグッと堪えて、跡部君の後についていった。
校舎に沿って無言で淡々と歩く。
そうでもしないと嗚咽と共に、なにかを吐き出してしまいそうな気がした。
きっとそれは醜い物だから、飲み込む。
でも、彼女たちに言われたばかりなのに、
まだ彼と一緒に行動している自分が可笑しかった。
あれだけひどい目に合わされたのに、まだ懲りずに。
意識するとジン、と
自己主張し始めた腕などの痛みを思わず手で押さえる。
それと同時に彼の叫び声が聞こえた。
「危ねえ!!」
目の前で歩いていた跡部君が私を思いきり引っ張る。
えっ?
彼の腕の中に収まり、覆い被さられた瞬間、
ガシャアアアアアアアアン!!!!
ガラスが砕け散る音が、すぐ後ろで聞こえた。
な、に?
彼はすぐに私を離し、鋭い目付きで校舎を見上げた。
後ろを確認すると、砕け散ったカラフルなガラスに、水、そしてやつれた花。
「誰や・・・、花瓶、落とした奴・・・」
かびん、花瓶?
ワナワナと足が大きく震え始める。
もし、
もし、これが当たっていたら・・・?
フッと張っていた糸が切れる感覚がし、私は地面へと崩れ落ちた。
「大丈夫か、倉永!!」
忍足君がすぐに私の身体を支えてくれる。
彼の心配そうな顔が私の視界に映る。
大丈夫、少し気が抜けただけ。
そう言おうとしても私の口から出るものはただの荒々しい呼吸だけだった。
「忍足。倉永を保健室へ連れていけ」
彼の顔は逆光で見えない。
だけど声色は、とても普段の彼とは思えないような低い声で、荒々しく、
冷たかった。
「分かった。跡部はどないするんや」
「俺は、やることがある」
彼はそう言って校舎を見上げ、
拳をギュッと強く握った。
第4章 END 2013/12/23
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