第3章
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この夜空に光り輝く遊園地に一人の男の悲鳴が響いた。
「よろしくな、お嬢さん」
忍足君が満面の笑みで私の元へ歩み寄り、
「くそくそ!!男だらけの観覧車なんてっ!!」
と向日君は可愛らしく地団駄を踏んだ。
それに跡部君は舌打ちをし、滝君はやるねー、と呟いた。
そんな今の時刻は午後7時。
星もひんやり冷える暗い夜に点々と輝いていた。
東京のこんな時間に、
こんなにも輝く星々は珍しいのではないだろうか。
遊園地の中もクルリと見渡してみるが、
目につくのは星と同様、光り輝くアトラクションばかり。
明日が平日という事もあるのか、あまり人はいなかった。
そのまま歩き出すとスムーズに観覧車乗り場につき、
スタッフさんにパスポートを見せた。
「じゃあ、お先に失礼しますね!」
鳳君、日吉君、宍戸君、向日君の順で観覧車に乗り込む。
"行ってらっしゃい"と手を振ると
皆それぞれの手の振り方で返してくれて、私は思わず綻んだ。
「次の方どうぞ」とスタッフさんが観覧車の扉を開けてくれ、
忍足君、滝君、跡部君、私の順で
乗り込む。
その際、あの時と同じ様に彼が"ほら"と手を差し出してくれて
私は笑顔でその手を取った。
そんな私の様子に滝君は優しく微笑み、
忍足君は無表情の中にも気に食わない雰囲気を醸し出していた。
観覧車の中に乗り込むとフワリとエアコンの温風が私たちを温かくする。
ピカピカに磨かれた窓から外を見ると、
ゆっくりゆっくりと空へ上がって行き、私たちを地上から遠ざける。
また遠くの方を見れば、東京ならではのタワーの数々、
マンション、ビル、ショッピングモールの輝かしい光。
車のライト、渋滞で列ぶ赤い光の数々。
すべてが幻想的だった。
存在が抽象的、とも思える。
私は思わずガラスに両手をつき、街の様子に見とれていた。
東京ってこんなに綺麗だったんだ。
そう感じる。
違う視点から見ればガラリと変わる風景に私は圧倒されていた。
ソッと私の手に両手を重ね、私を包み込むようにして外を見る忍足君。
「すごいなあ、綺麗や」
彼の声が私の頭上から降り注がれる。
その事にビックリしながら、私がそのまま景色を見続けると、
忍足君はフッと鼻で笑った。
跡部君がすぐさま私から離れるよう怒鳴りつけると、
忍足君は渋々退いた。
滝君はそれを見てクククと面白そうに笑う。
「そうだ、記念撮影でも撮ろうよ」
「悪くねえな、おい倉永!俺様の隣に座れ」
「うん!」
私が返事をし、彼の横へチョコンと座ると、満足そうな笑みをする。
しかし俺も、と言って忍足君も割って入ってきた。
この事がきっかけで二人の言い争いが始まってしまった。
・・・おい、勝手に入ってくるな。
ええやん、写真は皆で撮るもんやで?
俺は倉永しか呼んでねえよ、どけ。
ケチやなあ、そんなんじゃ愛想尽かれるで。
んだと?もう一回言って見ろ。
何度でも言うたるわ、どアホが。
アーン?調子乗ってんじゃねえよ。
「ストップ!ストーーーップ!!」
私が止めに入っても言い争いは収まりそうにならない。
ああっ!どうしよう、どうしよう!
もう、こうなったら・・・!!
「滝君!!助けてっっ!!」
「OK!はい、チーズ!」
えええっ!?
"パシャ!"
容赦なく滝君にシャッターを切られ、
この騒動を写真に収めらてしまう。
突然鳴り響いたシャッター音に跡部君と忍足君の言い争いは止んだ。
二人とも苦虫を潰したような顔をし、同時に笑い合った。
わっ!すごい、滝君!!
解決しちゃった!
そんな私たちに彼は撮った写真を見せてくる。
デジカメの画面を覗くとそこには跡部君と忍足君が言い争う姿と、
私が必死に止めている姿が収められていた。
背景には丁度、天辺に達していたのか他の観覧車は写っていなく、
満天の星空と、街の輝きたちが綺麗に入っていた。
忍足君は撮り直したい、と言ったけど、
デジカメの電池が終了してしまう。
だけど、私はこの写真がとっても欲しかった。
飾れていない写真。
ありのままの彼らとありのままの自分が写っている写真。
妙に着飾ってお洒落した写真より、私はこの写真が欲しいと思った。
滝君に現像を頼むと快く引き受けてくれた。
「もう、着いちゃうね」
観覧車の終わりは近かった。
徐々に近づいてくる地面。
そして大きくなる光。
遊園地のメロディーもそこはかとなく聞こえてくる。
跡部君と忍足君は私の表情を見て、哀しげに微笑んだ。
「今日は楽しかったよ!」
遊園地を退場し、チケット売場前の広場に全員で集まった。
氷帝のみんなに向けて私は笑顔を送る。
みんなも"良かった"と笑顔を送ってくれる。
今日も、これで最後なんだ。
なんて思うと情けなくもジワリと涙が出て来そうで
思わず顔を空に向けた。
目に飛び込んで来たのは美しい星の数々。
そして、完美な三日月。
美しく魅惑的な光を一心に受けると、
不思議と流れるように言葉が溢れ出した。
私を歓迎会に誘ってくれて、ありがとう。向日君。
お化け屋敷で助けてくれて、ありがとう。日吉君。
お昼を買ってきてくれて、ありがとう。樺地君。
迷わないように手を繋いでくれて、ありがとう。ジロー君。
皆が楽しめるように精一杯回してくれて、ありがとう。宍戸君。
フラついた私を助けてくれて、ありがとう。鳳君。
いっぱいいっぱい思い出を撮ってくれて、ありがとう。滝君。
私と沢山喋ってくれて、ありがとう。忍足君。
色んな物から守ってくれたり、エスコートしてくれたりして、
ありがとう。跡部君。
みんなみんな、ありがとう。
私がそこまで言い終わると、みんな笑顔で
私だけ泣いていた。
この時間も、楽しかった一時も。
もうさようなら。
時間は巻き戻せない。
いくら願っても時は戻らない。
いくら泣いたって、しゃくりあげたって、
"今日"はもう戻らない。
泣く泣く私の肩や背中をみんながさすってくれる。
"また、みんなで来ればいい"
そうどこかの王様が言う。
・・・また、みんなで、来れる?
"だから、大丈夫だ"
徐々に不安が取り除かれていくのを感じる。
心が軽く。
王様ってすごい。
涙を止め、情けなくしゃくりあげながら、
王様に向かって私は言った。
「また、来よう!!」
「ああ。絶対だ」
そう言って皆で笑い合い、お別れをする。
久しぶりに感じた、幸せと思えるひととき。
みんなの優しさに触れれた大切な時間。
こんな素敵な時間がいつまでも続けばいいのに。
無意識に、ずっとそう願う。
そうであることを願う。
今日見たいろんな人の笑顔と優しさを胸に、私は静かに目を閉じた。
第3章 下 END 2013/12/14
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