第3章
名前変換
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・・・。
それにしても座り心地が悪すぎる。
尻は冷たいし、硬いし。
それと背筋を伸ばさなくては安全バーで締め付けられて苦しい。
足を組むことさえままならない。
ふう、とため息を付き、横を見ると、今か今かと待ち構えている倉永が目に入る。
彼女の躍動感が俺にも伝わってきてつい笑みが溢れ出てしまう。
そうだな、コイツみたいに俺も楽しもうか。
プルルルルルと出発の合図が鳴り響くとスタッフが
“いってらっしゃい”の意でニコやかに手を振る。
彼女も揃って嬉しそうに手を振り返すと、あ、という小さな声を出して、
俺の方を髪をなびかせながら振り返った。
「そういえばね跡部君」
ゆっくりと入口へと進むコースターの中で
彼女はこのアトラクションのストーリーを楽しそうに語り始めた。
なんでも、海賊が隠した財宝を探し出すべく、
洞窟の中でトロッコに乗り、財宝をみつけよう!
というよくありがちな内容だった。
なるほど、このコースターをトロッコに見立て、この建物の中を突き進むんだな。
倉永のストーリー説明が終わると、
ちょうど洞窟の入り口のドアが不気味なSEと共に開いた。
「わっ、真っ暗」
確かに中は真っ暗でかすかに見える光と言ったら微かに輝く金鉱石だった。
それほど怯えるような暗さでは無いように見えるが、
倉永はその暗さに過敏に反応しているようだった。
「どうした、そんなに暗いか?」
「あ・・・いや、あの・・・」
倉永は歯切れが悪そうに意味のない言葉をつぶやき俯く。
どうしたんだろうか、いつもの彼女らしくない。
俺はそう思うと自然に彼女の冷たい手を握った。
彼女は瞬時に驚いたような表情を見せ、同時に照れたように微笑んだ。
あ・・・?
だが俺は自分自身の取った行動が理解できなかった。
どうして俺は彼女の手を握ったのだろう。
なにも求められていないのに。
俺が他人の不安に愛憐した・・・。
そのことがとても信じ難かった。
倉永が何も言わない俺になにか言おうと口を開くと、
コースター―トロッコ―がグンとスピードを増していく。
どうやらここは洞窟の中心部の迷路のようだった。
くねくね曲がったレール上をトロッコは勢いよく進んでいく。
すぐに過ぎ去る景色は蜘蛛の巣やら骸骨やら・・・。
洞窟のおどろおどろしさが不気味なBGMと上手く調和して雰囲気が出ていた。
彼女に差し出した右手が不意にクンッと引っ張られる。
何事かと思って彼女の方へ目を向けると彼女は、
俺の手を一生懸命に握り、俯いていた。
倉永・・・。
この瞬間、小さく暗闇に怯える彼女に俺は確かに愛隣していた。
彼女のために何かしてあげたい。
そんな気持ちが俺の中で爆発的に膨らんでいく。
一時にトロッコはガコンと盛大な音をたてて停止した。
見渡す限り一面の金、銀、財宝の山。
流れるような饒舌の英語と共に軽快な音楽が流れる。
すると倉永はパッと顔を上げ、
不安そうな顔をみるみるうちに綺麗な華でいっぱいにする。
俺はそんな様子の彼女をみてホッと一息し、微笑んだ。
「フン、なかなか綺麗なもんだ」
「ねっ!すっごく綺麗・・・!」
自分が先程まで怯えいたことを忘れているかのように楽しそうにキャッキャと騒ぐ。
トロッコは十分に俺たちに金塊を見せつけた後、
その場で回転し、ポッカリと上へ続くレールに向かう。
やっとこのアトラクションの醍醐味が来たか。
ったく、前置が長えよ。
カタカタカタカタと音を鳴らし、
ゆっくりと登っていくごとに俺は期待の胸を膨らませる。
暗かった視界から一筋の外からの光が漏れ始める。
そのままゆっくり目の前の景色が開けてゆく。
上には広がる青い空に下にはゴミのような無数の人々。
そのまま一瞬だけレールの頂上に止まると
ガコン!と音を鳴らし下にある水場に向かい一直線に突き進む。
っ・・・う!
身体がフワリと浮き、妙にむずがゆい感覚に身を震わせた。
彼女も同様に小さく可愛らしい歓喜の悲鳴をあげながら目を瞑り、
髪をなびかせ、激しい風に耐えている様子が俺の瞳に艶美に写った。
途端に激しい水音がし、キラキラと夕日に照らされた光り輝く水滴が俺たちを迎え入れ、
濡らした。
「っ・・・気持ちいいな」
「ねっ!」
俺が小さく呟いた一言に倉永は笑顔で返した。
そんな彼女の笑顔に水面が反射し、より美しく綺麗だ、と思った。
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