第3章
名前変換
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それから日吉君と別れ、再び孤独に帰る。
とりあえず休憩をそろそろ取りたいな。
ベンチを求め歩き出す。
つねに人が折り重なっている道をすり抜けながら、
時にぶつかってしまいながらも歩みを続ける。
そうして開けた場所にベンチはあった。
「あ・・・樺地君と芥川君」
私の見つけたベンチには樺地君が座っており、
彼の膝を枕にして芥川君が横になって気持ちよさそうに寝ていた。
「樺地君、隣良いかな」
私がそう問うと、彼は少しだけ横にずれてスペースを空けてくれた。
芥川君が寝ているからそう大きくは動けなかったみたいだけど。
私は彼が空けてくれた小さなスペースにちょこんと座る。
ベンチの角隅。
そこは妙に座り心地が良かった。
けれどやはりスペースが狭いので身体の側面がピタリと樺地君にくっついてしまう。
彼はそんなこと気にしていないようだけど。
特にする事も無いので考え事に没頭する。
・・・そういえばお化け屋敷で突然明かりが消えたんだろう?
そういう仕掛けだったのかな。
日吉君はもう一度入ってくるとか言って行っちゃったし・・・。
確かに私を運ぶのに一生懸命で周りを見る時間なんて無かったかもだけど。
後でまたお礼しよう。
そんなことをボーッとして考えていると12時の愉快な音楽が園中に響いた。
そこでハッと我に返る。
もうお昼かぁ・・・、お腹すいたな。
そういえば樺地君たちはお昼食べたのかな?
「樺地君たちはお昼食べた?」
私がそう言うと彼はゆっくりと口を開く。
「・・・いえ」
「じゃあお昼食べておいでよ。芥川君は私が見てるから」
すると彼は少し考えるような表情をして見せ、
"お願いします"と言って芥川君を私の膝に移し、人混みの中に颯爽と出掛けていった。
一体どれぐらい座っていたんだろう?
せっかくの遊園地なんだから楽しまないとね!
向日君受け入りの言葉を心の中で復唱する。
「ぅ・・・ぅん」
芥川君が少し眉間にしわを寄せ、寝辛そうにしていた。
あ、日光が顔に当たっちゃってる。
私はポッケから入れておいたフェイスタオルを取り出し、芥川君の顔にかける。
すると寝づらそうな声はピタリと止み、気持ちよさそうな吐息が漏れる。
思わず口元に弧を描く。
可愛いなぁ、私もこんな弟欲しいなあ。
彼特有のクルクルと巻いてるお日様の匂いがしそうな髪を優しく撫でると、
服の裾をギュッと掴まれた。
もう思わずキュンとくる。
可愛い!可愛い!!
もう今まで感じてきた疲れを忘れさせるほどの可愛さ!
これでもかというほど芥川君を愛でてると、頭上から声がかかった。
「すいやせん!お化け屋敷ってどこにあるか知らないっスかねぇ!」
驚いて顔をすぐさま上げると芥川君同様、
癖のかかった黒髪の子がにこやかに立っていた。
私がその問いに答えようとすると白髪で髪を束ねている人が割って入ってきた。
「こら、赤也。寝とる人がおるのにそんな大声出したら迷惑じゃろ」
「あ、すみませんっス」
黒髪の子が私に向かってペコリと頭を下げる。
思わず笑いながら答える。
「大丈夫、そんな簡単に起きる子じゃないから。えっと、お化け屋敷はね・・・」
さっきまでいた場所だったので難なく答える事が出来た。
私が説明している間も二人はフムフムと頷いてくれる。
「・・・で真っ直ぐ行ったところがお化け屋敷です」
説明し終えると黒髪の子がパァっと顔を輝かせる。
のに対して白髪の人は"ありがとう"と言ってくれた。
「仁王先輩!早く行きましょう!!」
そんな様子の黒髪の子にため息をつき、彼の顔を無理矢理に私の方向へひねらせる。
「お礼が先じゃろ」
「イテテッ!ありがとうございました!!」
と元気良く叫ぶ。
とすぐに"うるさい"とつっこまれているのを見て、
思わず吹き出してしまうと二人も顔を見合わせ照れたように笑う。
「俺、切原赤也っス!んで、こっちは仁王先輩!」
「プリッ」
・・・プリ?
「アンタは?見たところタメみたいっスけど」
「私、倉永聖。中三だよ」
すると切原君は少し驚いて見せ、仁王君はニヤリと笑った。
? どうしたんだろう
「だったらお前さんは俺と同じじゃの。俺も中三ぜよ」
ほう。
なら切原君は仁王君のことを"先輩"
と呼んでいて、新学期なのに二人ともわきあいあいとしてるから・・・
「じゃあ切原君は2年生だね」
「うおっ!どうして分かるんスか!?」
「今までのやり取りを聞いとけば分かるじゃろ」
「そっスかぁ?それよりどこ中っスか?俺らはテニスで有名なあの立海大付属・・・」
「おーい!赤也!!仁王!!」
向こうの方から二人を呼ぶ声がした。
外国人の人が人混みを素早く避けて走ってくる。
その表情にはうっすら"恐怖"の様な物を感じた。
そんなに急いでどうしたんだろう?
「さなっ、真田が来るぞ!」
「ゲッ!?真田副部長が!?」
一気に切原君の顔が青ざめる。
仁王君も同時に目を細めた。
なになに?どうしたの?
私一人だけ状況が飲み込めていない。
「"団体行動も出来んとはたるんどる!!"だってよ!!」
と彼が早口で言い終えたときに人混みの奥からすんごい怒声が響いてきた。
「切原、仁王、ジャッカル!!規律を守らんかぁぁあああ!!」
「って俺もかよ!!」
「わーっ!!逃げますよ!!」
素早く切原君とジャッカル?君は走って逃げ出していく。
しかし、ただ一人、仁王君だけが残る。
「あれ?仁王君は逃げなくて大丈夫?」
私がそう聞くと彼は目を細めて笑う。
その笑顔はとても魅力的で中学生の笑顔には見えなかった。
「心配せんでええ。それよりもこれを見てみんしゃい」
彼は手のひらを差し出すとその上にBB弾ぐらいの小さな鈴をのせて、ギュッと手を握る。
1度だけ手を縦に振り、
再び開くとそこには先ほどの小さな鈴が付いたテニスラケットのキーホルダーがあった。
わっ・・・!すごい!!仁王君ってマジックが出来るんだ!!
パチパチと手を叩くと、彼は目の前にキーホルダーを差し出してきた。
「倉永にやる。貰いもんなんじゃが、俺は使わんからの」
私の手にポンとにのせる。
そのキーホルダーは人差し指ぐらいの大きさでラケットの色は水色、
鈴の色は・・・なんとも表現し難い不思議な色だった。
「ありがとう!でもどうして私に?」
「なんだかまたお前さんと会えそうな気がしての、おっと・・・」
そう言うと短く“またな”と別れの言葉を告げると
束ねた髪を翻らせ、走っていってしまった。
えっ?どうしたんだろ?
すると間いれず、黒帽子をかぶった人が目の前を何やら叫びながら走り去っていく。
「仁王―!!待たんかぁぁああ!!」
うわぁ・・・あの人が真田副部長さん?
すっごく怖そう・・・。
“チリン”
私は手の中で鳴ったキーホルダーを静かにポッケの中にしまった。
するとずっと静かに寝ていた芥川君がむくりと起き上がり、あくびをしながら伸びをした。
私はそれと同時に落ちたフェイスタオルを拾った。
・・・少しうるさくし過ぎたかな?
しばらく芥川君を眺めていると、彼は座ったまままた眠りこけっていた。
「・・・Zzz」
「あ、危ないよ!芥川君!!」
私は急いで彼の肩を叩き、起こした。
このベンチには背もたれが無く、寝たままフラリと倒られると困ってしまう。
「んー・・・?」
彼は寝起きの子供のように目を擦ると
、私の顔をパチクリと見て周りをキョロキョロ見渡した。
「あれー・・・?樺地は・・・?」
「おはよう芥川君。樺地君はお昼食べに行ったよ」
時計をちらりと見るともう30分ぐらい経っていた。
樺地君、そろそろ食べ終えたかな?
「あれっ・・・俺どうやって寝てたのー?」
「へ?あ・・・私が膝枕してたよ?」
私がそう言うとみるみる内に彼の目は見開かれた。
そして少し顔を赤くさせる。
「マジマジ?ちょっと恥ずかC―!」
そういうと彼は足をバタバタと動かす。
フフ、完全に起きたかな?
「俺っ、変な顔してなかった!?」
「してなかったよ。可愛かったし」
私がニコッと笑うと、彼はニカッと笑った。
本当に可愛いなあ、もう。
するとタイミングよく樺地君が戻ってきた。
「あ、樺地君おかえりなさい」
「ウス。これ・・・どうぞ」
そう言って樺地君が私たちに差し出してきてくれたのは
オレンジジュースと、まだ温かいアップルパイだった。
ちゃんと私の分と芥川君の分がある。
「わぁーっ!!樺地、ありがとー!!」
「ありがとう、樺地君」
お腹がすいていたので私は早速パッケージを開け、温かいパイを食べた。
噛むとりんごの柔らかな感触がし、ジワッとジャムが口の中に広がる。
りんごならではの甘酸っぱい味がすっごく美味しい。
芥川君を見るとガツガツとお腹に詰め込んでいる最中だった。
私も同じようにどんどんお腹に詰めていく。
このアップルパイ本当に美味しい!自然に口が進んじゃう。
5分もするとアップルパイは完全に食べ尽くしてしまった。
「ねぇ!どこか遊びに行こう!!」
芥川君の意見に賛同し、一緒にベンチを立つ。
樺地君を見ると“いってらっしゃい”の意で手を振ってくれていた。
そうして私は、芥川君と二人で混雑している道へと歩いて行った。
第3章 上 END 2013/10/20
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