第3章
名前変換
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フロントで係員さんに“乗り物乗り放題パスポート”を見せる。
これは跡部君が今日来ている全員に買ってくれたパスポートだ。
私はいいって言ったんだけどなぁ。
係員さんのパスポートのチェックが終わり、
入り口だと思われるオンボロなのれんをくぐり、中へ入った。
すると途端に冷たい空気が足元から身体に向かってフワリと舞い上がってくる。
建物の中は純和風に仕上がっていた。
最初の部分はどうやら墓地らしい。
至るところに本物のような壊れて寂れたお墓がゴロゴロと転がっていて、井戸まであった。
それにお化け屋敷だと言うのに妙に明るい。
少し奥までうっすらと見えてしまうほどの明るさだ。
だけどこう見やすいと違った恐怖を味わえるのかと勝手に納得をした。
そこまで冷静に建物の中を観察したが、頭の中では軽いパニックに陥っていた。
ここはトロッコじゃなくて歩き・・・
怖いよ・・・歩けない。
私は実はおばけ、幽霊の類いが大の苦手で、
トロッコだったら毎回目をつぶってのり過ごして来たが、歩きとなったらそうもいかない。
自分で恐怖の中へと足を進めなければいけないのが本当につらい。
でももう今回は入ってしまったので、頑張って歩ききるしかない。
「結構雰囲気あるな」
私とは裏腹に楽しそうに周りを見渡す日吉君。
人の気も知らないで歩いて行ってしまう。
聞こえてくるBGMも不協和音で耳が痛い。
所々においてあるハリボテの鬼や幽霊が不気味に発光し、
音を鳴らしながら私たちを脅かしてくる。
主にビビってるのは私だけど。
期待ハズレに井戸からは特には仕掛けがなかった。
日吉君がボソッと“見かけ倒しかよ”と残念そうに呟いていた。
すると私の耳の奥でいきなり“キーン”と妙に高い音がなり響き、目眩で視界がぼやけた。
な、なに?
その途端、明かりが落ちて辺りは一面の闇が広がった。
「っなんだ!?」
日吉君もそれには驚いたようで彼らしくない声が隣から聞こえた。
一方で私は暗いやらおばけが苦手やらで身体の震えが止まらない。
そんな私の様子に彼が気づいてくれた。
「大丈夫ですか!?」
だけど私はその声に答えることはできなかった。
気配を感じていた。
後ろから・・・何かが
お化け屋敷に入った時とは"違う"冷たい空気がゾワリと全身をなぞる。
「ッ・・・っひ!?」
全身の毛が逆立つような冷たさについ声が出てしまう。
ねっとりと絡みついてくる冷気。
震えが止まらない。
そんな私の様子を異変に感じ取ったのか、
「倉永先輩!失礼します!!」
日吉君は一言私に断りを入れるとスッと身体が浮く感覚がした。
・・・っへ?
気がつけば私の身体は彼によって抱きかかえられていた。
彼の右腕は私の太ももに。
左腕は私の肩をしっかりと抱いてくれていた。
「目をつぶって、しっかり俺にしがみついてください!」
私は彼の言うとおりに首に手を回し、キツく抱きしめた。
彼の走る振動が私にも伝わってくる。
彼の暖かな体温が私の恐怖を取り除いてくれる。
ありがとう。
私は小さな声で呟いた。
しばらくして外が明るくなるのを感じた。
おそるおそる、
目を開けてみると太陽の光で一瞬目が眩んだが、すぐに外の色鮮やかな景色が飛び込んできた。
彼が私を地面に優しく下ろしてくれる。
そして小さい子をあやすかのようにしゃがみこんでくる。
彼の温かい手が私の冷たい手に触れる。
「・・・倉永先輩、大丈夫ですか?」
彼の優しい声に
彼の暖かな手に
「ありがとう。大丈夫だよ」
私は笑顔で手を握り返し、答えた。
彼は一瞬目を見開き、急いで手を離すと
そっぽを向いてしまう。
・・・あれ?
「全く、苦手なら苦手だって言ってください」
そう言ってチラリとこちらを見る彼の顔は少し紅かった。
その言葉に私は"ごめんね"と返すと頭をポンポンとしてくれ、また笑顔がこぼれる。
これじゃどっちが年上か分からないや。
二人一緒に微笑みあう。
今日、この時、
日吉君は本当はとても優しい人だって私は気づいたんだ。
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