ひとりごと

つぎはぎなこばなし。

2017/11/26 10:32
こばなし
「やあ」
 と、声がした。ひとつ、瞬きをする。そこは、もとの月萩神社だった。いつの間にか、鳥居の足に×××が背をあずけてたたずんでいる。背にした朱塗りと、羽織った深緑色が、ひどく映えていた。
「××嬢。少し、話をしようか」
 おだやかなようで、親しげなようで、それでありながら、どこか真意をつかみづらい飄々とした声色。だけれど、不思議と申し出を拒む気にはならなかった。それは、彼のもつ独特な雰囲気によるものなのか、それとも、自身が寄せている信頼によるものなのか、はたまた、そのどちらでもあるのか。××には、わからない。ただ、言葉もなくうなずいて、××は×××とともに境内を歩きだした。
「あの『未来』にいたる彼は、人の心を取り戻すことよりも、神として在ることを選んでしまったんだ」
 しばらく、無言で歩いていた×××が口を開いたのは、ナギの御神木の根もとまでやってきたときだった。「そして、それがゆえに、きみを失った――神として、守るべき大地を焼きつくしてしまうほどの後悔にさいなまれるとも、気づけずにね」
 足を止め、御神木を見あげる×××にならい、××もまた、立ち止まる。仰いだナギの樹には青々とした葉が茂っていた。かすかな清香が、鼻をくすぐる。ふいに、脳裏によみがえるものがあった。
「あの人の、本当の名前は」
 言いかけた言葉は、けれど、振り返った×××によって制される。自らの唇に人差し指を立て、彼は薄く微笑んでいた。
「それは、きみと彼との間にだけ留めておくべきことだ」
 秘して誰にも明かさず、ともに歩む二人だけで共有するべきだと、×××は言う。なぜならば真なる名前は存在を縛る、人に在らざるものの力を奪い格をさげる、そしてそれはいずれきっとこの地の未来を脅かす――
「僕のような、些末な人間に知られていいものじゃあない」
「でも、×××さんは」
 恩人だ。××や××××、ひいては、月萩という町で暮らす人々の。そう告げようとした××を見越してか、×××はかぶりを振った。
「これで、僕は休暇中なのでね。これ以上の荷を負うつもりはないのさ」
 今度は、押し黙るよりほかなかった。重荷を背負わせることになるのなら、それは××の望むところではない。けれど、それ以上に××の言葉を奪ったのは、ほかならない×××が、あまりにも満足そうに笑っていたからだった。
「おめでとう。きみたちの未来は開かれた」

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