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第一部

 しとしとと降る雨のように、薄紅の花びらはひとひら、またひとひらと地に落ちる。その花びらを浴びながら、幼い霊獣の子らが不安げに、ぐるりを囲っている。

「そなたは人の世に肩入れしすぎている」

 梢でとぐろを巻く白銀の龍が言った。

「人のカタチを取ることもままならず、そのような姿になって花を散らすほど、そなたの力は弱まっている」

 ついと、菖蒲色の瞳が細くなる。「言葉も交わせぬその身で、朽ちゆこうというのか」

 風ひとつ吹かず、返る答えもない中、白銀の龍は怒りを隠すこともなく声に表す。

「そなたが人の世で朽ちようと我はかまわぬ。しかし、我らの世で朽ちることだけは許さぬ」

 例えそなたがそれを望もうともこのヨドはそれを望まぬ――

 そのとき、どこからかあたたかな風が吹いた。龍が首をもたげ、そのひげをなびかせる。ただの風ではなかった。祈りがこめられた力ある風だった。枝に残っていた花は残らず散らされ、花吹雪となって辺りを覆う。生気の失せていた身に、力が満ちてゆく。枝先で、柔らかなつぼみがふくらむ。風が渦を巻くたびに、次々と薄紅は花開いてゆく。かたわらの龍が呟いた。

「そうか、風狸と九尾狐の力か」

 風に乗って聞こえてくるのは、祈りの言葉と名を呼ぶ声。まどろみの中にあった”意識”が、しかりとしていく。いかなくてはと、そう思った。

「人の身でありながら、こちらの世へと来てしまったそなただ。今回は目を瞑ろう。だが、次にその存在が危ぶまれることになれば、我は手段を選ばぬ――そなたが朽ちることなど、決して許さぬ」

 龍のその言葉を最後に、マツリの意識は人の世へと還った。
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