序章
あかね村を旅立った俺はシエルのあとをついて草原の道沿いを北へ向かい歩いていた。
確かシエルの話だと次の町トパーズまで距離があるって言ってた。陽が落ちるまでには着く……その間に何かあるかもしれないから気をつけよう。
それにしても魔物とか出てくる気配がない。
警戒しながら歩いている自分が滑稽に思えてくる。
そういえば、なんでシエルは俺の前を歩いてるんだ?
一緒に並んで歩こうとしないし……。これじゃ話をしたくてもできない。
そう思いながらシエルの背中をみた。
シエルは召喚魔導師で……俺を召喚。王さまの命令って言ってたな。だけどなんで王て言ったり領主って……意味が分からない。
歩きながら俺は、グルッと周囲をみる。
それにしても……退屈だ。どうみても平和にみえる。本当に俺の召喚って意味があるのか? まあ何かあるから召喚したんだろうけど……。
そう思うも、なぜか頭の中がスッキリせずモヤモヤしていた。
・
・
・
★
☆
★
・
・
・
ここがトパーズの町だ。
あれから俺とシエルは殆ど会話のないままだった。
途中で休憩し買っておいた簡易食品を食べる。その時も、それほど話さなかった。
現在シエルと俺は町の中心部にいる。なんで宿屋に真っ直ぐ行かず、ここに居るのかと云うと。シエルがみせたい像があるって言ったからだ。
その像を見上げ、なぜか不思議な感覚に襲われる。
「なんとなく誰かに似てる?」
「そうなのですか?」
「ああ……どことなくだけどな。誰の像なんだ?」
なんか懐かしい……誰だっけ?
「以前に立ち寄った時に聞いたのですが。名もなき英雄。この町の伝説では仲間と共に戦い悪者を懲らしめたらしいのです」
「仲間がいたなら、なんで一人だけなんだ?」
「強かったらしいですわ。それに誰よりも優しかったとも」
優しくて強い……あの人みたいだ。でも……まさかなぁ(汗
ただ似ているだけだ。
あの人は、もっとカッコいい。
「知っているのですか?」
「いや……なんとなく知ってる人に似てるんだ。まあ違うだろうけどな。そういえば、この像の英雄の名前って?」
「それが名前は語られてないようなのです」
そう言いシエルは英雄像をみあげた。
「語られていない……名乗らなかったってことか?」
「そうでもないみたいです。その英雄は自ら名を残すことを断った。名前を語り継がないと約束できるのなら像をつくってもいいと言ったそうですよ」
「不思議な人だ。普通なら自分の名前を後世まで残してほしいと思うけど……でも誰もできないようなことをするからいいのかもしれないな」
自分もこんな英雄になりたいと思い憧れ英雄像を見据える。
「どうなのでしょうか……どんな人物だったのか知りたくても名前が分からないのでは調べられません」
「そうだな……でもこの英雄は、そうやって調べて欲しくなかったんだと思う」
「そうでしょうか? ワタシには、そのような気持ちが理解できません」
俺だって理解できない。本当の英雄って……自分のことを凄いって言わないのかもな。……俺もそんなふうに思えるだろうか? 多分できない……難しいと思う。
「……俺もなりたい。こんな英雄に……」
「ハクリュウ様なら絶対になれますわ! ワタシが保証します」
「そう言ってくれるのは嬉しい。だけど……まだ結果を残していないからな」
その通りだ。まだ何もしていない。そんな俺が英雄なんて云われるのはおかしいよな。
「確かに……そうですね。でもワタシは、ハクリュウ様が絶対に英雄と言われる存在になると信じています」
「ありがとう……期待に応えられるかは分からない。だけどな」
「いえ、ハクリュウ様なら問題ないですわ!」
これ以上は同じことの繰り返しになりそうだと思い言葉を返さないことにした。
「そういえば、お腹が空いてきた」
「それは大変です!! 急ぎ宿に向かいましょう」
「ああ……行こう」
シエルは「こちらです」と言い歩き出した。
そのあとを俺はついていく。
「……!?」
鋭い視線……何処だ? 誰が……。
誰かの視線を感じ立ちどまる。
《サーチ!!》
小声で呟いた。
背後の方……英雄像の方だ。阻害してるのか、あまりにもノイズが酷くて確認できない。
この阻害って……コッチの世界の能力なのか? そうだよな……恐らく俺の他に召喚されてないと思う。
様子をみるか……気づいていないフリをしてな。
そう考えが纏まると俺は急足でシエルを追いかける。と、その時。
“まさか……お前が召喚されたとはな”
「誰だ!?」
囁く声に反応し叫んだ。その後、俺は周囲をみる。
「ハクリュウ様……どうなされました?」
叫んだため、シエルは心配して俺の方へ駆け寄ってきた。
「あーうん……気のせいかも。今……誰かの視線を感じたと思ったら声が聞こえた。気のせいかもしれないけど」
いったい誰なんだ? 俺のことを知ってた。今の姿はゲームのアバターだぞ。ってことは……ゲームのフレなのか? だけどあの声……なんか懐かしい。
んー……思い出せないなぁ。凄く忘れちゃいけない人だと思うんだけど……。
まあ、いいか! そのウチ逢えるかもだしな。
「視線に声……言っていたこととは?」
「……それが、よく聞きとれなかった」
今は言わないでおこう。その方がいいような気がする。
「思念だと思いますが……不完全だったのかもしれませんね」
「多分そうだと思う。だけど、もう視線は感じない。気配も探ったけどいないみたいだ」
「何が目的だったのでしょうか?」
目的かぁ……ただ声をかけただけなのか? それなら姿をみせてくれてもいいはずだ。
「よく分からない。すぐいなくなったからな」
「そうなのですね。それなら問題ないと思われますが……用心しておきませんと」
「ああ、そうだな……そうするよ」
確かに警戒しておいた方がいい。なんの目的で声をかけてきたか分からないからな。
「それでは宿屋に参りましょう」
そう言われて俺は頷いた。
そして再びシエルと宿屋に向かい歩き始める。
★☆★☆★
宿に着いた俺は、シエルよりも素早くカウンターまできた。そして二部屋にしてくれと店の者に告げる。
思っていた通りシエルは「心配ですので一部屋にしましょう」と言ってきた。それを、なんとか説得して納得させる。
そして現在、俺は部屋でソファに座ってくつろいでいた。
「一番いい部屋かぁ。別に普通の部屋でもよかったのにな。そういえば宿の人の話だと昔、英雄が泊まっていた部屋って言ってた」
周囲をみながら思考を巡らせる。
ないとは思うけど……この部屋の何処かに英雄の隠した物があったりしてな。
そう思い立ち上がると部屋の中を探し歩いた。
特に壁なんかを探ってみる。
ある訳ないよな。まあ、あるとしても簡単にみつかるとこなんかに隠さないだろうし。
そう考えるも暇なので足で床も探ってみた。
ん? なんか足にあたった気がする。
気になった俺は中腰になり床を探り始めた。床の上に敷いてある布を捲ってみる。すると床に魔法陣が描かれていた。
これって……ゲームでよくみる魔法陣だ。この世界でも同じなのか?
いや……そんなことよりも、この魔法陣がなんなのかだよなぁ。
「あっ! 魔法陣スキャナーがあった」
そう言い床に描かれている魔法陣に手を翳した。
「その手を退けろ!!」
その声に驚き俺は振り返ろうとする。
「動くな! いいな……後ろを向くなよ」
そう言われ俺は、なぜかその声に逆らえなかった。
やっぱり何処かで聞いた声だ。それに逆らっちゃいけないと思ってしまう。
いったい誰なんだ? ユウさんの声じゃないし……凄く忘れちゃいけない人だと思うんだけど。
「誰なんですか? なんで俺のことを知っているんだ!」
「…………気づかないなら……それでいい」
「名乗らないつもりか?」
本当に誰なんだ?
「名乗るつもりはない。まあ……今の俺の姿をみても気づかないとは思うが」
「納得いかない。自分に対してもな。なんで……お前の言う事を聞いちゃうのか分からないんだ」
「分からないままの方がいいこともある。忘れているってことは……俺の存在が、それだけだったってことだろ」
本当にそうなのか? 今振り返って確認したい。でも体が、なぜか拒否してる。
「分からない……でも、そうなのかもしれない」
「やっと納得したようだな。ってことで……その魔法陣を絶対に解除するな!」
「なんで魔法陣を解除しちゃいけない?」
この魔法陣を解除したら、どうなるんだ?
「し……知り合いに頼まれた」
「それって、この床に魔法陣を描いたヤツか?」
「いや……違う。この魔法陣を代々監視してる者にだ」
なんで魔法陣を監視する必要がある?
「依頼を受けたってことか?」
「それとは違う……お前と同じく召喚されて、ついでに……ここの監視も頼まれた」
「俺を知っているなら、お前も召喚されたんだろうって思った。だけど、まだ納得できない!」
どうにか、コイツの正体を暴いてやる。
「相変わらず変わらねえなぁ……あーこれ以上、説明するの面倒になった」
「なっ!?……」
うっ……なんだ! 息苦しくて目が開けてられない。
何もできないまま意識が徐々に途切れていく中、微かに「しつこいヤツは女にモテないぞ」と聞こえてきた。
そして俺は大きなお世話だと思いながら意識が途切れる。
・
・
・
★
☆
★
・
・
・
…………んーん?
月の光で俺は目覚めた。
「えーっと……なんで、こんな所で寝てるんだ?」
なぜかベッドの上で寝ていた。
確か…………床に魔法陣があって……。
そう思いながら起き上がりベッドから床に降りる。その後、魔法陣が描かれていた床の方へ向かった。
この辺だと思ったけど……。
壁近くまでくると、さっき魔法陣が描かれていた床の上に被せてあった布をみつける。
そういえば、この布の下だったはずだ。少し盛り上がってるけど……」
布を捲ってみた。
「……」
絶句する。そう、そこに魔法陣はない。あるのは何かを隠すように四角形で低い高さの板の箱が置かれているだけだ。
その板の箱を取ってみようとした。だが床に張り付いていて取れない。
「さっきのヤツの仕業か? 余程みられたくない物らしい。んー……気になる。でも、やめておくか。ここまでするってことは大事な物なのかもしれないし」
再び布を被せる。
「でも……本当に誰だったんだ?」
声を頼りに思考を巡らせた。それでも思い出せない。
「まあいっかぁ……そのうち分かるよな」
そう言い俺はベッドの方へ向かった。
その後ベッドに座ったと同時にトン、トト、トンと扉をノックする音がしてくる。
このノックの仕方はシエルだな。
まるでモールス信号のようだと思いながら扉の方へ向かった。
扉を開けるとシエルは、なぜか怒っている。
「下のロビーで待ち合わせをしたはずです!」
「えっ!? 約束したっけ?」
「食事に行く約束をしましたよ」
そう言われても覚えていない。本当に約束したっけ?
「ごめん……思い出せないみたいだ」
「この宿屋に入る前に約束したのです!」
「もしかしたら……色々考えてて聞いてなかったのかも」
あー……しくじった。なんで聞いてなかったんだよ(泣
「何か心配ごとでしょうか?」
「たいしたことじゃない。それよりも食事に行こ〜」
「それならば良いのですが。そうですね……遅くなってしまいますので行きましょう」
なんとか深く追求されずにすんだ。何があったのかを本当のことを話して、ややっこしくなっても困るしな。
その後、俺はシエルと食事処へと向かった。
★☆★☆★
翌朝、俺は早めに待ち合わせの英雄像の所にくる。ここを待ち合わせ場所にしたのは俺だ。どうしても昨日の件について気になっていた。
やっぱり誰かに似てるんだよなぁ……。
英雄像を見上げ思考を巡らせる。
「なんで思い出せないんだ?」
不思議に思い考えるも、やっぱり無理みたいだ。
「ハクリュウ様〜……ハァハァ……まさか先に来ているとは思いませんでした……ゼエゼエゼエ……」
振り返るとシエルが息をきらし俺の前まで来ていた。
「そんなに急いで来なくてもいいのに……俺は逃げないぞ」
「それは分かっています。ですが何かあったら心配ですので」
いや……俺からすれば、シエルの方が心配なんだよなぁ。
「あ、ありがとう……でも心配ない。あー……そろそろいかないか?」
「そうでした……急ぎませんと野宿になってしまいます」
そう言いシエルは町の出入口の方へ歩きだし俺があとを追いかけた。
段々色々なことが起こってきてる。また何が起きるか分からない。もっと気を引き締めていかないとな。
そう思い俺は警戒し町の外へでる。そして城に向かい再び旅だった。
確かシエルの話だと次の町トパーズまで距離があるって言ってた。陽が落ちるまでには着く……その間に何かあるかもしれないから気をつけよう。
それにしても魔物とか出てくる気配がない。
警戒しながら歩いている自分が滑稽に思えてくる。
そういえば、なんでシエルは俺の前を歩いてるんだ?
一緒に並んで歩こうとしないし……。これじゃ話をしたくてもできない。
そう思いながらシエルの背中をみた。
シエルは召喚魔導師で……俺を召喚。王さまの命令って言ってたな。だけどなんで王て言ったり領主って……意味が分からない。
歩きながら俺は、グルッと周囲をみる。
それにしても……退屈だ。どうみても平和にみえる。本当に俺の召喚って意味があるのか? まあ何かあるから召喚したんだろうけど……。
そう思うも、なぜか頭の中がスッキリせずモヤモヤしていた。
・
・
・
★
☆
★
・
・
・
ここがトパーズの町だ。
あれから俺とシエルは殆ど会話のないままだった。
途中で休憩し買っておいた簡易食品を食べる。その時も、それほど話さなかった。
現在シエルと俺は町の中心部にいる。なんで宿屋に真っ直ぐ行かず、ここに居るのかと云うと。シエルがみせたい像があるって言ったからだ。
その像を見上げ、なぜか不思議な感覚に襲われる。
「なんとなく誰かに似てる?」
「そうなのですか?」
「ああ……どことなくだけどな。誰の像なんだ?」
なんか懐かしい……誰だっけ?
「以前に立ち寄った時に聞いたのですが。名もなき英雄。この町の伝説では仲間と共に戦い悪者を懲らしめたらしいのです」
「仲間がいたなら、なんで一人だけなんだ?」
「強かったらしいですわ。それに誰よりも優しかったとも」
優しくて強い……あの人みたいだ。でも……まさかなぁ(汗
ただ似ているだけだ。
あの人は、もっとカッコいい。
「知っているのですか?」
「いや……なんとなく知ってる人に似てるんだ。まあ違うだろうけどな。そういえば、この像の英雄の名前って?」
「それが名前は語られてないようなのです」
そう言いシエルは英雄像をみあげた。
「語られていない……名乗らなかったってことか?」
「そうでもないみたいです。その英雄は自ら名を残すことを断った。名前を語り継がないと約束できるのなら像をつくってもいいと言ったそうですよ」
「不思議な人だ。普通なら自分の名前を後世まで残してほしいと思うけど……でも誰もできないようなことをするからいいのかもしれないな」
自分もこんな英雄になりたいと思い憧れ英雄像を見据える。
「どうなのでしょうか……どんな人物だったのか知りたくても名前が分からないのでは調べられません」
「そうだな……でもこの英雄は、そうやって調べて欲しくなかったんだと思う」
「そうでしょうか? ワタシには、そのような気持ちが理解できません」
俺だって理解できない。本当の英雄って……自分のことを凄いって言わないのかもな。……俺もそんなふうに思えるだろうか? 多分できない……難しいと思う。
「……俺もなりたい。こんな英雄に……」
「ハクリュウ様なら絶対になれますわ! ワタシが保証します」
「そう言ってくれるのは嬉しい。だけど……まだ結果を残していないからな」
その通りだ。まだ何もしていない。そんな俺が英雄なんて云われるのはおかしいよな。
「確かに……そうですね。でもワタシは、ハクリュウ様が絶対に英雄と言われる存在になると信じています」
「ありがとう……期待に応えられるかは分からない。だけどな」
「いえ、ハクリュウ様なら問題ないですわ!」
これ以上は同じことの繰り返しになりそうだと思い言葉を返さないことにした。
「そういえば、お腹が空いてきた」
「それは大変です!! 急ぎ宿に向かいましょう」
「ああ……行こう」
シエルは「こちらです」と言い歩き出した。
そのあとを俺はついていく。
「……!?」
鋭い視線……何処だ? 誰が……。
誰かの視線を感じ立ちどまる。
《サーチ!!》
小声で呟いた。
背後の方……英雄像の方だ。阻害してるのか、あまりにもノイズが酷くて確認できない。
この阻害って……コッチの世界の能力なのか? そうだよな……恐らく俺の他に召喚されてないと思う。
様子をみるか……気づいていないフリをしてな。
そう考えが纏まると俺は急足でシエルを追いかける。と、その時。
“まさか……お前が召喚されたとはな”
「誰だ!?」
囁く声に反応し叫んだ。その後、俺は周囲をみる。
「ハクリュウ様……どうなされました?」
叫んだため、シエルは心配して俺の方へ駆け寄ってきた。
「あーうん……気のせいかも。今……誰かの視線を感じたと思ったら声が聞こえた。気のせいかもしれないけど」
いったい誰なんだ? 俺のことを知ってた。今の姿はゲームのアバターだぞ。ってことは……ゲームのフレなのか? だけどあの声……なんか懐かしい。
んー……思い出せないなぁ。凄く忘れちゃいけない人だと思うんだけど……。
まあ、いいか! そのウチ逢えるかもだしな。
「視線に声……言っていたこととは?」
「……それが、よく聞きとれなかった」
今は言わないでおこう。その方がいいような気がする。
「思念だと思いますが……不完全だったのかもしれませんね」
「多分そうだと思う。だけど、もう視線は感じない。気配も探ったけどいないみたいだ」
「何が目的だったのでしょうか?」
目的かぁ……ただ声をかけただけなのか? それなら姿をみせてくれてもいいはずだ。
「よく分からない。すぐいなくなったからな」
「そうなのですね。それなら問題ないと思われますが……用心しておきませんと」
「ああ、そうだな……そうするよ」
確かに警戒しておいた方がいい。なんの目的で声をかけてきたか分からないからな。
「それでは宿屋に参りましょう」
そう言われて俺は頷いた。
そして再びシエルと宿屋に向かい歩き始める。
★☆★☆★
宿に着いた俺は、シエルよりも素早くカウンターまできた。そして二部屋にしてくれと店の者に告げる。
思っていた通りシエルは「心配ですので一部屋にしましょう」と言ってきた。それを、なんとか説得して納得させる。
そして現在、俺は部屋でソファに座ってくつろいでいた。
「一番いい部屋かぁ。別に普通の部屋でもよかったのにな。そういえば宿の人の話だと昔、英雄が泊まっていた部屋って言ってた」
周囲をみながら思考を巡らせる。
ないとは思うけど……この部屋の何処かに英雄の隠した物があったりしてな。
そう思い立ち上がると部屋の中を探し歩いた。
特に壁なんかを探ってみる。
ある訳ないよな。まあ、あるとしても簡単にみつかるとこなんかに隠さないだろうし。
そう考えるも暇なので足で床も探ってみた。
ん? なんか足にあたった気がする。
気になった俺は中腰になり床を探り始めた。床の上に敷いてある布を捲ってみる。すると床に魔法陣が描かれていた。
これって……ゲームでよくみる魔法陣だ。この世界でも同じなのか?
いや……そんなことよりも、この魔法陣がなんなのかだよなぁ。
「あっ! 魔法陣スキャナーがあった」
そう言い床に描かれている魔法陣に手を翳した。
「その手を退けろ!!」
その声に驚き俺は振り返ろうとする。
「動くな! いいな……後ろを向くなよ」
そう言われ俺は、なぜかその声に逆らえなかった。
やっぱり何処かで聞いた声だ。それに逆らっちゃいけないと思ってしまう。
いったい誰なんだ? ユウさんの声じゃないし……凄く忘れちゃいけない人だと思うんだけど。
「誰なんですか? なんで俺のことを知っているんだ!」
「…………気づかないなら……それでいい」
「名乗らないつもりか?」
本当に誰なんだ?
「名乗るつもりはない。まあ……今の俺の姿をみても気づかないとは思うが」
「納得いかない。自分に対してもな。なんで……お前の言う事を聞いちゃうのか分からないんだ」
「分からないままの方がいいこともある。忘れているってことは……俺の存在が、それだけだったってことだろ」
本当にそうなのか? 今振り返って確認したい。でも体が、なぜか拒否してる。
「分からない……でも、そうなのかもしれない」
「やっと納得したようだな。ってことで……その魔法陣を絶対に解除するな!」
「なんで魔法陣を解除しちゃいけない?」
この魔法陣を解除したら、どうなるんだ?
「し……知り合いに頼まれた」
「それって、この床に魔法陣を描いたヤツか?」
「いや……違う。この魔法陣を代々監視してる者にだ」
なんで魔法陣を監視する必要がある?
「依頼を受けたってことか?」
「それとは違う……お前と同じく召喚されて、ついでに……ここの監視も頼まれた」
「俺を知っているなら、お前も召喚されたんだろうって思った。だけど、まだ納得できない!」
どうにか、コイツの正体を暴いてやる。
「相変わらず変わらねえなぁ……あーこれ以上、説明するの面倒になった」
「なっ!?……」
うっ……なんだ! 息苦しくて目が開けてられない。
何もできないまま意識が徐々に途切れていく中、微かに「しつこいヤツは女にモテないぞ」と聞こえてきた。
そして俺は大きなお世話だと思いながら意識が途切れる。
・
・
・
★
☆
★
・
・
・
…………んーん?
月の光で俺は目覚めた。
「えーっと……なんで、こんな所で寝てるんだ?」
なぜかベッドの上で寝ていた。
確か…………床に魔法陣があって……。
そう思いながら起き上がりベッドから床に降りる。その後、魔法陣が描かれていた床の方へ向かった。
この辺だと思ったけど……。
壁近くまでくると、さっき魔法陣が描かれていた床の上に被せてあった布をみつける。
そういえば、この布の下だったはずだ。少し盛り上がってるけど……」
布を捲ってみた。
「……」
絶句する。そう、そこに魔法陣はない。あるのは何かを隠すように四角形で低い高さの板の箱が置かれているだけだ。
その板の箱を取ってみようとした。だが床に張り付いていて取れない。
「さっきのヤツの仕業か? 余程みられたくない物らしい。んー……気になる。でも、やめておくか。ここまでするってことは大事な物なのかもしれないし」
再び布を被せる。
「でも……本当に誰だったんだ?」
声を頼りに思考を巡らせた。それでも思い出せない。
「まあいっかぁ……そのうち分かるよな」
そう言い俺はベッドの方へ向かった。
その後ベッドに座ったと同時にトン、トト、トンと扉をノックする音がしてくる。
このノックの仕方はシエルだな。
まるでモールス信号のようだと思いながら扉の方へ向かった。
扉を開けるとシエルは、なぜか怒っている。
「下のロビーで待ち合わせをしたはずです!」
「えっ!? 約束したっけ?」
「食事に行く約束をしましたよ」
そう言われても覚えていない。本当に約束したっけ?
「ごめん……思い出せないみたいだ」
「この宿屋に入る前に約束したのです!」
「もしかしたら……色々考えてて聞いてなかったのかも」
あー……しくじった。なんで聞いてなかったんだよ(泣
「何か心配ごとでしょうか?」
「たいしたことじゃない。それよりも食事に行こ〜」
「それならば良いのですが。そうですね……遅くなってしまいますので行きましょう」
なんとか深く追求されずにすんだ。何があったのかを本当のことを話して、ややっこしくなっても困るしな。
その後、俺はシエルと食事処へと向かった。
★☆★☆★
翌朝、俺は早めに待ち合わせの英雄像の所にくる。ここを待ち合わせ場所にしたのは俺だ。どうしても昨日の件について気になっていた。
やっぱり誰かに似てるんだよなぁ……。
英雄像を見上げ思考を巡らせる。
「なんで思い出せないんだ?」
不思議に思い考えるも、やっぱり無理みたいだ。
「ハクリュウ様〜……ハァハァ……まさか先に来ているとは思いませんでした……ゼエゼエゼエ……」
振り返るとシエルが息をきらし俺の前まで来ていた。
「そんなに急いで来なくてもいいのに……俺は逃げないぞ」
「それは分かっています。ですが何かあったら心配ですので」
いや……俺からすれば、シエルの方が心配なんだよなぁ。
「あ、ありがとう……でも心配ない。あー……そろそろいかないか?」
「そうでした……急ぎませんと野宿になってしまいます」
そう言いシエルは町の出入口の方へ歩きだし俺があとを追いかけた。
段々色々なことが起こってきてる。また何が起きるか分からない。もっと気を引き締めていかないとな。
そう思い俺は警戒し町の外へでる。そして城に向かい再び旅だった。
