序章

 ここは、あかね村という所だ。
 あれからシエルと俺は、この村にきた。
 まだ陽が沈む前で明るいがシエルの話だと、この村を逃したら野宿になるらしい。
 だから、この村の宿屋に泊まって明日旅立つことになった。

 現在、市場の屋台が立ち並ぶ場所を通り宿に向かっている。

「村って云っても……結構、店が多いんだな」
「これが普通ですよ。町に行けば、もっと色々な店などがあって賑わっています」

 他の町や村には、どんな店があるんだ?

 そう思い俺は、ワクワクと胸躍らせていた。

 ・
 ・
 ・
 ★
 ☆
 ★
 ・
 ・
 ・

 途中から話すことがなくなり俺は無言のまま宿屋の前までくる。
 黙ったままシエルは宿屋の前で立ちどまり出入口へ視線を向けた。
 俺も立ちどまって出入口の方をみる。
 村の宿屋だからなのか、それほど大きくはない。
 なんとなく予想はしていたので落胆よりも、こんなもんだろうなと納得する。

「ここに泊まらないといけない……。ハァー……もっと綺麗な宿屋があれば――……」

 小声で呟いているのだろうけどマトモに聞こえてきた。
 やっぱり女性だから綺麗な宿屋がいいんだろうと思いシエルをみつめる。

「ハクリュウ様、申し訳ありません……もう少し高級な宿屋があれば良かったのですが。このような宿屋しか、この村にはありません」

 あー……そういう事か(汗

「別に気にならないから大丈夫だ。それよりも早く中に入ろう」
「それならば良いのですが……本当に申し訳ありません」
「だから謝らなくっていい。それに、シエルが悪い訳じゃないだろ」

 実際、嘘を言っている訳じゃない。それに高級な宿屋じゃなくったって構わないのも事実だ。

「そうですね……ハクリュウ様が良いのであれば」

 そう言うもシエルは頭を深々と下げたあと宿屋の方へ向きを変え中に入っていった。
 そのあとを俺は追いかける。

 ★☆★☆★

 宿屋の中に入ると、シエルが店の人と話していた。
 泊まるために手続きをしているシエルのそばへと近よる。

「一部屋でいいのかい?」
「はい、そのように……お願いします」
「いや待て!?」

 慌てて俺は二人のやりとりに割って入り二部屋にしてもらった。
 何処となくシエルの表情はシュンッとしてるようにみえる。

「ハクリュウ様……本当に、お一人で大丈夫でしょうか?」
「子供じゃないし……それに男と女が同じ部屋って良くないと思うんだ」
「お気遣いは嬉しいのですが……」

 そう言われたが俺は、なんとかシエルを説得した。
 その後、手続きを終えると俺とシエルは二階にある部屋へと向かう。

 ★☆★☆★

 部屋の前でシエルと別れ俺は中にはいる。
 その後ベッドまでくるとベッドに腰掛けた。

「やっと、ユックリできる〜」

 ホッとし俺は、ゴロンっとベッドに寝転がる。

 んーシエルから聞いた話を少し纏めてみるか。
 えっと……この世界はシェルズワールド。今向かおうとしてる国がホワイトガーデンのルーンバルス城。
 そんで俺は、この国を救うためにシエルに召喚された。あとは…………ルーンバルスを治めている、その王さまに逢って詳しい話を聞かないと何も分からない。

 これ以上考えても分からない。そのため考えるのをやめることにした。

 はぁ、てか……自分の状態を確認してみたけど。LV190でソードマスター。
 総合ステータスが830455で、アイテムもある。装備も、そのまま使える。ただギルド無所属って……まあ、そうなるだろうな。

 ふとギルドのメンバーやフレンドのことが脳裏に浮かんだ。

 そういえば……今頃みんなどうしてるかなぁ。ギルドのことも心配だけど元の世界に帰れるか分からない。

 ふと窓の外に視線を向ける。

 それにここは、ゲームと無関係の異世界。とにかく今は、まだ情報が不足してる。

 そう思い向きを変え何気に扉をみた。
 扉をみつめながら思考を巡らせている。
 するとノックする音が聞こえ扉が開いた。
 その扉からはシエルが荷物を抱えて入ってくる。

 思ったよりもシエルって力あるんだな。

 そう思いながらシエルをみた。

「あっ! 起きていたのですね。疲れて寝ているかと思っていました」

 男の部屋にノックだけして入ってきて……寝てたら何かしようと思ったのか?

 そう思ったが口には出さない。

「明日の朝には、ここを出て王国に向かいます。ですので勝手ながら必要な物を市場で買ってまいりました」
「ありがとう、シエル。色々と気を遣わせちゃってるな」
「いえ……当たり前のことをしているだけですので」

 そう言いシエルは微笑み俺をみている。

「それで……俺が本当に、この国を救う英雄なんだよな? まだ信じられないんだ」
「間違いありません! もし、まだ信じられないのであれば……そのことも領主さまに聞いてくださいませ」

 シエルは困ったような表情をしている。

「あっ、ごめん。さっきから色々と考えてて……そうだな、そうする」
「そうしていただけると助かります。ワタシはハクリュウ様を召喚し無事に王の所まで、お連れしないとなりません。それが、ワタシの役目」

 そう言いながらシエルは市場で買って来た荷物を俺のそばにおく。

「それでは自分の部屋へ戻りますので……何かありましたら何時でも呼んでくださいませ」
「ああ……そうする。本当に色々ありがとう」
「いえ……それでは」

 軽く頭を下げるとシエルは扉の方へ向かい部屋を出ていった。
 行ったなと思い起き上がって、シエルが買って来てくれた荷物の確認を始める。

 ・
 ・
 ・
 ★
 ☆
 ★
 ・
 ・
 ・

 シエルが買って来てくれた荷物の確認をしながら、ついでに自分のアイテムボックスなどを調べていた。

 アイテムボックスは出すことが可能。だけど入れるのは不可能なのかぁ……ってことは出した荷物を持つしかないな。
 そうなると何かバッグかリュックに入れておいた方がいい。

 そう思い俺はメニュー画面を操作しながら試行錯誤している。

 あと可能な方法は、プリセットが使えそうだ。ここなら出し入れできるしメインやサブの装備の所にセットしておけば、アイテムボックスの代わりになる。
 んー……あとは…………ん? そういえば暗くなってきた! 灯りを点さないと……。

 ベッドの近くにあったランタンに持っていた火の魂を使い火を灯した。

 ――因みに火の魂とは、ゲーム内で手に入る攻撃用アイテムである。普通ゲーム内なら火の魂は魔法の代わりに用いられるので、こんな使い方などできない。
 だがゲームと違い、なんらかの作用で普通に使えるようだ――

 その後も色々と考えていると急に眠くなり、ベッドに横たわった。
 その時、急に部屋のランタンの灯りが消える。
 それに気づき俺は慌てて飛び起きた。すると目の前に如何にも怪しい雰囲気の黒いローブを纏った女が立っている。

「お前が白き英雄か……なるほどな。あのお方の言う通り今のうちに始末しておいた方がよさそうだ」

 そう言い黒いローブの女は俺に目掛け魔法攻撃を仕掛けてきた。

 嘘だろ〜……なんで、こんな序盤から。それに、こんな宿屋で……まだ攻撃できるか確認してないんだぞ!!

 そう考えながら俺は黒いローブの女が放つ黒炎魔法を避けていく。

「うっ……」

 だが俺は全て魔法を避けきれず左腕をかすめる。左腕を抑えながら黒いローブの女を見据えた。

「いったい何のつもりだ!」
「ほお……これを避けるとはな。流石は白き英雄。そうそう名乗っておくか。私はアリスティア……そして、お前を殺しにきた者だ」

 不適な笑みを浮かべアリスティアは俺をみている。

「さてと……悪いが、そろそろ遊びは終わりにしよう!」

 アリスティアは攻撃体勢に入った。
 体に電気がはしる。このままだと殺されると直感が働いた。

 これって……戦わなきゃならない状況。逃げるって選択肢なんて皆無だ。ってことは仕方ない……やるしかないよな。

 そう思い腰に刺してる剣へ手を添え身構えた。

 普通に剣が抜けるのか? そういえば音声機能があったはず。ゲームじゃ面倒だから設定してなかったけど……使えれば声で指示できるな。

 片手を目の前のメニュー画面に翳して操作し始める。

 あった! オフになってるからオンにすればいい。それと、なんか初めてみる機能がある。手動モード? もしかしたら、これって使えるかもしれないな。

 音声モードと手動モードをオンにしてみた。
 すると一瞬体から微光が放たれたようだ。

 これで大丈夫なのか?……考えている暇なんてない。

 そう思い俺は剣を抜き身構える。

「ほぉ……やっと、やる気になったようだな。では行くぞっ!!」

 アリスティアが魔法攻撃を仕掛けようとしているようにみえた。
 その動きを咄嗟に感知した俺は素早く剣を両手で持ち直して一歩前に左足を出すと腰の重心を落したと同時に右に捻る。
 次いで、やや右後ろよりに刃を向け弾みをつけると瞬時にアリスティアの懐に入った。

 《秘剣 猛牙疾風殺!!》

 そう俺は叫び疾風の如く薙ぎ払う。その刃は、アリスティアにあたるも咄嗟に避けられ右脚を斬りつけ軽い傷を負わせることしかできなかったようだ。

 流石にゲームのように、すんなり行くわけないよな。やっぱり……。

 そう思い俺は一旦、剣を鞘に収める。

「危なかった。流石だ白き英雄! 今日の所は私の方が分が悪いようだ。では、そろそろ退散するとしよう」

 アリスティアは部屋から出ようとした。だが何かを思い出しみたいで振り返って俺をみる。

「そういえば……お前の名前を聞いていなかったな」
「こんなことをしておいて名前って……意味が分からない。だけど名前ぐらいなら教えても問題ないか。俺は、ハクリュウだ!」

 そう言い俺は、アリスティアを睨んだ。

「それで、この状況で逃げるって? 俺に戦い挑んで火つけて……それって、どういう事だ!?」

 剣を鞘から抜こうとした。だが、どういう訳か抜けない。

 どうなってる?

「今は、まだだ! お前の実力を知りたかっただけなのでな」

 そう言いアリスティアは嬉しそうに微かに笑みを浮かべているようにみえる。

「ここは退散し改めて、お前を倒しにくる。まぁせいぜい誰かに倒されないように……首を洗って待っていろ! では、さらばだ!!」

 窓から飛竜に乗りアリスティアは飛びたってしまった。
 その様子を俺は、ただ呆然とみていることしかできずにいる。
 そして我に返ったと同時にアリスティアにやられた左腕が痛み出した。すると扉をノックする音が聞こえてくる。

「ハ、ハクリュウ様!? どうなされましたか?」

 その声と共に扉は開き部屋の中にシエルが入ってきた。

「やっと開きました。大きな音がしましたが何かあったのでしょうか? それに扉は開かず……心配しました」

 そう言いながらシエルは部屋の中を見回しながら俺のそばまでくる。

「はっ! 左腕から血が出ています。いったい何があったのでしょうか?」

 心配なのかシエルが俺の腕をみているようだ。

「ああ……大丈夫だ。カスった程度だから、ただ何者か分からないけど……アリスティアとか云う黒いローブの女に襲われた」
「アリスティア?」

 シエルは下を向き考えているようにみえる。

 知っているのかアリスティアのことを、シエルは……。

「でも殺されずにすんだ。それと狙われた理由も分かった。だけど……なんで殺さなかったのか? その意味が全然わからないんだ」

 なんのために?……どう考えても、アリスティアの行動が理解できない。

 そう思うも考えが及ばず悩むのをやめた。
 俯き考えごとをしていたシエルが、チラッと俺の方をみる。

「……これは早く治療しなければ! ワタシの治癒魔法で治しますね」

 そう言いシエルは俺の左腕の傷口付近に手をあてた。

 女性の手って……こんなに細くて柔らかいのかぁ。

 そう思っているとシエルが何か呟き始める。

 《治癒召喚魔法 シルフのささやき!!》

 そう呪文を唱えると俺の前にシルフが現れた。そして静止したあと傷口に息を吹きかける。すると俺の左腕の傷は徐々に塞がっていった。

「これって……凄い魔法だ。ってことは、まだみたことのない魔法や武器とか技なんかも……あるんだろうなぁ」

 これからどんな物がみれるんだろうと俺は脳裏に思い浮かべる。

「俺は魔法が使えない。だけど知らない技とか覚えられたら、もっと強くなれるんだろうな」

 さっきまで不安と驚きで大丈夫なのかと思っていた。だが、それらを打ち消すかのように新しい物に出会えると思い俺はワクワクしている。

「ハクリュウ様……そのアリスティアなのですが。何か言っていませんでしたでしょうか?」
「そういえば、あのお方がとか……俺の実力を知りたいって言っていた。それと殺すとか殺さないとか訳が分からないこともな」

 そう言い俺は、その時のことを思い返してみた。

「それに俺が右脚に傷を負わせると退却しようとした。だから更に攻撃しようとしたんだ。でもアリスティアの魔法で剣が抜けなくなって」
「やはり、ヤツらの手先かもしれません。そうなると明日できるだけ早く、ここを出て城へ向かいましょう。そして王に逢って話を聞かなければ」
「ああ…そうだな。それに……そいつは俺が狙いだった。とりあえず、この国で何が起きてるのか気になるし」

 まだ何も分かってない。これから何が起きるかも分からない状態だ。何時でも戦えるようにしとかないとな。
 またアリスティアが襲ってくるかもしれない……いや、もしかしたら別のヤツに狙われるかもだ。どっちにしろ用心だけはしとかないと。

「今日は流石に何もないと思いますが。心配ですので、やはり同じ部屋で寝させていただきます!」
「だっ、大丈夫だ!? 気持ちだけ受け取っておく! だからシエルは隣の部屋で寝てくれ」

 慌てて俺は、シエルを部屋から押し出した。

「でも、それではワタシの気持ちが。でも……そうですね。心配ですが……では、お言葉に甘え隣で寝ることにします。何かありましたら呼んで下さいませ」

 申し訳なさそうにシエルは俺をみている。

「あっ、うん。そうだな……何かあったら起こすよ。じゃ、おやすみっ!!」

 そう言い放って俺は、シエルを部屋から出し慌てて扉を閉めた。

 ふぅ〜……流石に女性と同じ部屋はまずいよな。いくら本人が良くても……。

 ★☆★☆★

 翌朝になり俺は荷物の確認をする。

 忘れ物はないよな? 必要な物はバッグに入れてある。滅多に使わない物は装備の所にセットした。プリセットもしてあるから大丈夫だろう。

 荷物の確認を終えるとバッグを持ち立ち上がった。その後、部屋を出て宿屋の外へ向かい歩き始める。

 俺が外に出ると既にシエルは先に来て待っていてくれた。

「ごめん……待たせちゃったな。荷物の確認をしてたら遅くなった」
「いえ、それほど待ってはいません。それよりも急ぎましょう……遅くなると野宿になってしまいますので」
「そうだな……うん! 急ごうー」

 まだ聞きたいことは山ほどある。だけどシエルに聞いても、また同じ応えが返ってくるだけだろう。
 それならシエルの言う通り王さまに逢って詳しいことを聞いた方がいい。

「はい……では急ぎましょう」

 そう言い俺に背を向けるとシエルは村の入口へ向かい歩き始める。
 そして俺は思考を巡らせながらシエルのあと追いかけた。
2/4ページ
スキ❤︎