第一章

 翌日になり俺たちは朝早く宿屋を出て荷馬車にのり辺境の地へ向かった。
 荷馬車の中には、シエル、クロノア、ユリナ、アキ、グロウディス、俺を合わせて六人のっている。
 因みにディアナは御者をしているので実際七人だ。

 増えたな……荷馬車の中がギュウギュウだぞ。
 それに女性が多いから目のやり場に困るんだけど……。

「……なるほどな。シエルがハクリュウを召喚したあと扉を閉じなかったのか。そんで、そこからハクリュウの妹のユリナが召喚されちまった」

 そう言いグロウディスは難しい表情でユリナをみる。

「申し訳ありません。ワタシの不注意で……」
「まあ……仕方ねえ。異世界の者を召喚することについて詳しくなかったんだ。それよりも予想外のことが起こりそうな気がする」
「何が起こるって? いい加減にしてくれ! まさか妹まで巻き込むことになるなんて……でも、そういえば……この場合どうなるんだ?」

 予定外に召喚されたユリナって……。

「何がだ?」
「ユリナは、イレギュラーになる訳だよな?」
「ああ……確かにそうなる」

 それなら……。

「本来の言い伝え通りなら異世界の勇者は、ノエルとクロノアと俺で……異世界の魔王がユウさん。ユウさんが召喚されてた場合になるけど」

 一呼吸する。

「もしオルドパルスが言い伝え通り動いているのであればユリナは未知の存在」
「確かに、そうだね。この場合どうなるんだろう? ユリナちゃんは……」

 クロノアはユリナを心配そうにみた。

「ハクリュウが言うように、ユリナがここにいること自体イレギュラーだ。しかし前例がない以上なんとも言えん。このまま様子をみるしかない」
「うん、そうだね。私も様子みることにする」

 ユリナがそう言うとアキが眠そうに口を開き話し始める。

「ふぁ〜……ボクは暇つぶしってことで、それに面白そうだしね!」
「そういえば、アキって何者なわけ?」
「クロノア。ボクは、ただ旅をして歩いている幼気な……かよわい女です」

 そうはみえないぞ。

「…………かよわい幼気な女って……どこがだよ〜!!」
「え〜!! どこがって〜……ボク自身、全部に決まってるでしょ?」
「はぁ〜、まぁいいや。それで目的も何も持たず旅をしているって……やっぱり、かよわくないよな!」

 呆れて頭を抱える。

「そういえば、アキって何処の国の人なの?」

 そういえばクロノアの言う通りだ。帽子をかぶっているせいか何処の国か認識できない。
 グレイルーズだと獣人特有の耳があるだろうしな。ただみた感じ……ブラックレギオンでもなさそうだな。

「あっ、えっと……まぁ何処の出身だっていいじゃん」
「まぁ言えないことは誰にでもある。それに……この状況だと、もしものことを考えて人は多い方がいい」
「そうそう、そういう事。それじゃ改めてよろしくね!」

 なんか腑に落ちないけど、そのうち分かるよな……多分。

 そう思っていると急に荷馬車が停車した。

「何かあったのか?」

 そう言いながら立ち上がり御者をしているディアナのそばまでくる。

「まだ交代は早いんじゃないのか?」

 グロウディスもきた。

「国境を越えたから強い魔物や魔獣が出ると思って警戒してたけど、まさかドロドロスライムが現れるなんて」
「ドロドロスライム??」

 俺はディアナが指差す先へ視線を向ける。
 そこにはドロドロ解けているような土色のスライムが大量にいて行く手を遮っているのがみえた。

「コリャア厄介なのと遭遇したなぁ」
「数も多いな。そんなに厄介なのか?」
「ああ……物理系の攻撃だと分離して、ほぼ効かん。尚且つ融合なんてされたら厄介だ。硬化してゴーレム並みの強さになるからな」

 物理攻撃が効かない? 多分スライムって云うぐらいだから、そうなんだろうけど。融合して硬化か……ん? もしかして……。

「融合して硬化すれば物理攻撃が効くんじゃないのか?」
「効いても直ぐ軟化する。それに体に触れると麻痺させられるからな」
「本当に厄介な魔物なんだな……そうなると魔法系の攻撃の方がいいのか?」

 そう問いかけるとグロウディスは頷き俺をみる。

「魔法系がいいが……一番いいのは自然の力だ」
「どういう意味だ。自然が何かしてくれるってことなのか?」
「雨よ」

 そう言いディアナは空を指差した。

「雨……」

 と言い俺は空を見上げる。

「じゃあ魔法で雨を降らせればいい訳だねぇ」

 何時の間にかクロノアは俺の側に来ていて話に割って入ってきた。

「そんな魔法を使える者は、この世界に手で数えられる程しか……いえ存在しないかもしれません」
「私なら使える。ただ……どれだけの威力を、この世界で出せるかだけどね」
「じゃあクロノアに任せて俺はみているだけになる……まあ仕方ないか」

 なんか溜息がでる。全然自分の出番がないからだ。これじゃあ、ここに居る意味がない。なんのために召喚されたんだと改めて頭をよぎった。

 まあいいか……そのうちやることが出てくるだろう。

 そう思いクロノアへ視線を向ける。

「まあ任せてよ。魔法で魔物なんか一掃しちゃうんだからね」

 杖を構えるとクロノアは荷馬車の前にウジャウジャいるドロドロスライムを見据えた。

「本当に大丈夫なんだろうな?」
「うるさいわねぇ……集中してるんだから黙っててよ」
「集中って……ただ魔法放つだけだろ?」

 クロノアから殺気を感じる。
 ハッと思い俺は言わなきゃよかったと後悔した。

「ハクリュウ!? 余程ドロドロスライムよりも先に死にたいみたいねぇ〜……」

 マズイ!! あの目は恐らく本気だ……。

 怯えて俺は一歩後退する。
 杖を俺に向けクロノアは睨んだ。

「おい! こんな所で魔法ぶっ放したら荷馬車が粉々になる……いや、みんな怪我するぞ」
「そんなの知らないわよ!」
「待ってください!! クロノア様……今はそんな痴話喧嘩をしている場合じゃ――……」
「「痴話喧嘩じゃないっ!」」

 クロノアとハモってしまった。最悪すぎる。

「そんなの、どっちでもいい!! 早くすまさねぇと辺境の地に着くのが夜中になるぞ!」

 それを聞きクロノアは俺を睨んだあと「はーい! ごめんなさい……|ハクリュウ《バカ》を相手にしてる暇なかったわ」と言い放ち再びドロドロスライムの群れを見据え杖を構え直した。
 俺は言い返そうと思ったが確かに、そんなことをしてる場合じゃないと考え直しやめる。
 またゲームの時みたいに何かやらかすんじゃないかと思いながら俺は、クロノアの背中へ視線を向けた。
 何かを感じたのかクロノアは、サッと後ろを振り返り俺を睨んだあと再び杖を構え直している。

 まさか……心が読めるのか!?

 そう思い、ゾッと寒気がした。

 《ヘビーレイン!!》

 そう言い放ちクロノアは杖を空に向けかざす。と同時に、ドロドロスライム達の上空に大きな魔法陣が展開し始め眩く発光する。

 大丈夫か? 嫌な予感しかしない。

 ドロドロスライムの群れがいる周囲の空に黒雲はたち込めた。と同時に雨が勢いよく大量に降りそいだ。

 ちょ……こっちまで雨が吹き込んできたぞ!!

 そう思い咄嗟に手を頭上に掲げる。

 《コーティングバリアー!!》

 そう叫び手から光が放たれて荷馬車を覆い包んだ。
 その行動は正解だった。案の定、荷馬車へも豪雨が降り注がれる。

 フー……これでいい。

 その後、雨がやんでドロドロスライムは消え去った。
 ドヤ顔でクロノアがみていて俺は呆れ果てる。
 その後グロウディスが御者をし荷馬車を走らせた。俺とクロノアとディアナは荷馬車の中へ向かい座席に腰掛ける。
 再び目的地へ向かうなか俺は、これ以上何も起きないことを願った。
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