最終章
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こんなに必死で走ったのは
人生で初めてかもしれない。
息があがって、汗も止まらず、髪も乱れる頃
港に着いた。
走った甲斐あって、キッドの船はまだ停泊していた。
皆出払っているか、船の中に入っているようで
周りに人気はなく、やけに静かだった。
勢いでここまで来てしまったけど
これからどうしよう。
別れを言いに、船に乗り込んでもいいものか。
息を整えながら考えていると
ふいに後ろから足音が聞こえ、振り返る。
「……ミドリ…」
「キッド……」
キッドがひとりで街の方から歩いてきた。
私の前で立ち止まると
少しの沈黙が流れる。
あんなに会いたかったのに
いざ目の前にすると
何を話せばいいのかわからない。
これが最後なのに。
口を開いたのはキッドの方だった。
「親には会えたかよ。」
「あ、うん。驚いてたけど、すごく喜んでくれた。」
「婚約者の野郎には?」
「えっと、それは……」
「なんだよ。婚約破棄でもされてたか。」
キッドは意地悪な顔をして冗談ぽく言うけど
否定しようのない事実だった。
「私が死んだと思ったみたいで……」
「なんだマジかよ!傑作だな!」
大爆笑している。
「笑うことないでしょ!仕方ないじゃない!」
一週間ぶりのこんなやりとりもなんだか楽しくて
懐かしく思うと同時に
これで最後なんだと思うと胸がぎゅっとなる。
「……キッド、私、婚約破棄されても少しもショックじゃなかったの。」
「強がってんじゃねェよ。」
「強がりじゃない……ここへも、本当はもう来る気はなかった。」
真剣になった私を前に、キッドの笑顔も消えた。
「でも、このまま会えなくなると思ったら……気付いたら港に向かって走ってた。」
「それ以上言うな。」
「ねぇキッド……私……」
「言うな。」
「まだキッドが大好きだよ。」
キッドが制するのを聞きもしないで
真っ直ぐに見つめて伝えた。
「あなたを忘れるなんて、できそうにないよ。」
泣かないって決めたのに一粒の涙が頬を伝う。
と、同時に強く腕を引かれ
一瞬でキッドの腕の中に収まった。
「こうなっちまうから言うなって言ったんだ。」
痛いくらいに抱き締められて
耳元でキッドの切ない声が響いた。
「連れていってほしいとは言わない。お父さんとお母さん、すごくやつれていたの。今はそばにいてあげたい。それに、キッドの足手まといにもなりたくないし。」
そっと大きな背中に手を回す。
「でも、忘れたくない。」
その存在を確かめるように指を広げて
キッドの温もりを身体全部で感じとる。
「会えなくても……ずっと好きでいたいよ。」