第六章
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第六章
この島に着いてから5日が経ち
ログが貯まった。
長旅に備え、朝から全員で食料を中心に必要物資の買い出しをして
昼過ぎに船は出航した。
真夏のような暑さだった。
珍しく甲板には誰もいなくて、私は水平線を眺めながらひとり考え事をしていた。
と言うより、考えたくもないのに
どうしても頭に浮かんでしまうんだ。
キッドのことが。
無意識に唇を指先で触る。
この間のキス。
あの男はちょっとからかったつもりのようだったけど、私にとっては大事件で、今でも鮮明に覚えている。
柔らかい唇の感触も。
雨で濡れたクセのある髪が、顔に触れてくすぐったかったことも。
顎に添えられた指先の温かさも。
忘れたくても忘れられない。
思い出す度に顔が熱くなって
胸がドキドキする。
こんなの初めてだ。
幼い頃から
大きくなったら親が決めた人と結婚をする
そう教えられてきた。
だから、父に初めて婚約者を紹介された時は
この人が私の旦那さんになる人なんだ、と
すぐに受け入れられた。
見た目も素敵だったし
性格は大人っぽく落ち着いていて
私を最優先に考えてくれる優しい人。
何度もデートをしたし
帰りは必ず家まで送ってくれて
別れ際のキスもくれた。
話も面白くて、彼といると確かに楽しかった。
私を好きだと言ってくれて、うれしかった。
それが恋なんだと思ってた。
私も彼が好き。
私は彼に恋をしている。
そう納得してお付き合いしていた。
でも、それは間違いだったのかもしれない。
キッドのことを想うと
鼓動が速くなって
顔は熱くなって
胸は苦しくなる。
でも
もっと知りたくて
もっとそばに行きたくて
もっと笑顔を見たい。
苦しいけど、欲張りになるもの。
これが本当の恋なのかもしれない。
婚約者の彼には失礼な話だけど
感じたことのない想いが、キッドには溢れる。
なんであの男なのか自分でもさっぱりわからないし、正直悔しくて認めたくないけど
私はキッドに恋をした。
でもこの気持ちには、大きなリスクが伴う。
キッドは夢を追う海賊。
私はただの何も持っていない女。
さよならをする日が必ず来る
決して叶うことのない恋。
それに私には婚約者がいる。
私の乗ったクルーズ船が沈んだことは新聞に載っていたとキラーが言ってたから
きっと彼の耳にも届いていると思うけど、
もしかしたら島で帰りを待ってくれているかもしれない。
私には彼を裏切ることはできない。
それは同時に両親をも裏切ることになるから。
この2つのリスクのことを考えると
この気持ちには、気付いてはいけなかったんだ。
この恋は
なかったことにしなくてはいけない。