第五章
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第五章
船に戻って皆と夕食を済ませる。
皆が気を使ってくれて、片付けは任せて先に休めと言ってくれた。
はじめは断っていたけど、キッドに「いいからそうしろ」と言われ、甘えさせてもらうことにした。
シャワーを浴びて、ベッドに潜り込むけど
全く眠れる気配がない。
目を開けて部屋を見回す。
元々倉庫として使われていた小さな部屋。
窓の向こうで星が輝いていた。
床にはキラーが拾っておいてくれた、今日買った服が紙袋に入って置かれている。
私のために皆が用意してくれた部屋。
今の私にとっては、一番居心地の良い場所になった。
ここに帰ってくることができてよかった。
ーーーーーー
どうしても眠れなかったので、ホットミルクでも飲もうとキッチンへ向かった。
もうすぐ日付が変わろうという時間。
船の中は静かだった。
キッチンに立ってミルクを温めていると
ダイニングのドアが開く。
「まだ起きてやがったのか。」
「……誰?」
「あ?寝ぼけてんのか。」
「まさか!キッド!?」
「うるせェ。こんな夜中に大声出すな。」
一瞬、誰だかわからなかった。
キッドはお風呂あがりのようで
髪は濡れてぺしゃんこだし、いつもの口紅も落としている。
頬の辺りまで伸びた赤い髪の間から
元々整っているキリッとした顔が覗く。
不覚にも、ドキドキした。
「えっと…何か飲む?」
「おう。冷たい水くれ。」
キッドはドカッとカウンターに座る。
いつもと違う雰囲気のキッド。
それに加え、先ほど抱き締められたときの感覚を思い出して、キッドの顔を直視することができなかった。
私はキッドの分の水と自分のホットミルクを手に、なんとなくキッドからは一席分空けて隣に座る。
「……眠れねェのか。」
「うん。色々あったしね。」
「まぁお前にとっちゃ、なかなかハードな一日だったな。」
「ほんと、皆が来てくれなかったらと思うと…ゾッとする。」
思い出すと、まだ体が震える。
手首には縄の跡が赤く残っていた。
それを撫でているとキッドの手が伸びてきて、私の頭にポンっと乗せられた。
「嫌なことは早く忘れるんだな。」
キッドなりに、励ましてくれているようだ。
「お前は能天気に笑ってろ。」
「なにそれ。」
失礼な言葉に、自然と笑顔になる。
「その顔だよ。」
手を戻しながら、キッドは優しく微笑んだ。
キッドが初めて見せるその顔に
私は釘付けになった。
「ジロジロ見てんじゃねェ。」
その表情はすぐに崩されて
いつものように眉間にシワが寄る。
もう少し見ていたかった気持ちと
これ以上見たらヤバかったかも、という複雑な感情が生まれた。
今日、助けられた時
たくましい腕に抱き締められたり
鍛えられた胸板を直に感じたり。
髪を撫でる意外と優しい掌とか
お風呂あがりの乱れた髪に、今の顔。
いつもと違うキッドをたくさん知って
どうしても意識してしまっている。
相手はあのキッドなのに。
いちいちドキドキしている。
もしかしたら、私……
「何急に黙り込んでんだ、気持ち悪いな。」
キッドはグラスの水を一気に飲み干し、立ち上がる。
「先に寝るぞ。」
「あ、はい。おやすみなさい。」
最後にもう一度目が合ってしまって
顔が熱くなる。
どうしよう…
生まれてしまった、この気持ちは……