陽のあたる場所へ 〜side story〜
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「私、本当に来ちゃったんですね……」
大海原へ出るとミドリは甲板で清々しい顔をして嬉しそうに言った。
「これでお前も晴れて海賊の仲間入りだ。」
「あの…なるべく2人の足手まといにならないように頑張ります!よろしくお願いします!」
「とりあえず飲みますか。」
進路が安定し、ダズも甲板へ降りてくる。
「そうだな。いい船出だ。」
「こんな朝から?」
「俺たちの勝手だ。腹も減ってる。何か作れ。」
「はい、作ってきます。」
ミドリは朝食の支度へ行った。
少しして、俺もキッチンへ向かい、調理台の前に立つミドリの後ろの棚から酒を探す。
「……どうして否定しなかったんですか?」
こいつはいつも唐突だ。
いい加減慣れたがな。
「あ?急に何の話だ。」
「私に惚れてるって言われて……」
「なんだ、否定して欲しかったのか?」
「そうじゃないけど……期待してしまうじゃないですか。」
なかなか可愛いことを言いやがる。
俺は酒を見つけると棚の扉を閉めて
その前に座った。
「期待していいと言ったら?」
「え………」
意を決して俺についてきてくれたんだ。
そろそろ俺の気持ちを伝えるべきだろう。
「……じゃあ…私に惚れてるってことでいいんですね?」
しゃがみ込んで、目線を合わせてくるミドリに笑顔を向けてやる。
「あぁ。認めよう。」
ミドリは目を潤ませながら
俺の頬に手を伸ばす。
それによって俺の鼓動はまた速くなる。
「ちゃんと…言ってください。」
右手でミドリの左手を掴んで引き寄せると
膝をついたミドリの体は、俺の両足の間に丁度よくおさまって、そのまま抱き寄せた。
その耳元で小さく囁く。
「お前を愛してしまった。」
「私も愛しています。」
首に力一杯抱き付いてくるこいつが
今まで以上に
可愛くて 愛おしくて
そっと髪を撫でやる。
「本当にこんなオッサンでいいんだな。」
「ふふ、言われたこと気にしてるんですか?」
「恥じるような歳の取り方はしてきてねえつもりだが。」
「……誰よりもかっこいいです。」
言いながらミドリは俺の頬に口付けをしてきやがるから
柄にもなく俺は照れ臭くて
さらに鼓動は速くなる。
「積極的だなミドリ。」
「実はずっと我慢してたので。」
「初めはお前のような小娘なんかに惚れるなんざ信じたくなかったが……」
「失礼ですよ。」
「悪くねえ。」
鉤爪で顎を上げて
今度は俺から唇を押し付けた。
右手はミドリの後頭部を押さえつけて
角度を変えて
何度も何度も
噛み付くように、ついばむように
そのやわらかい唇を味わう。
薄目を開ければ、強く目を閉じて俺のシャツを指で握り、必死についてくるミドリ。
全身が高揚する。
右手はミドリの髪を指に絡めて撫で回す。
舌を入れてしまえばもう止まらなくなることはわかっているから
そこは理性を保ち、口内を犯すことはしない。
そのギリギリのラインでしか許されないキスは
反対に俺を欲情させた。
息をするのも忘れそうなほど
夢中になった。
苦しそうなミドリに、仕方なく唇を離し
鼻に、頬に、おでこにと口付けを落とした。
「このくらいにしとかねえと、やめられなくなるな。」
ミドリは赤くなった顔で頷いた。
いつもより乱れた髪を手で直してやる。
俺はどんだけ夢中で撫でていたんだ。
思わず苦笑する。
真っ直ぐに目を見てくるから
俺も逸らさず視線を返す。
「これからもよろしくお願いします。」
照れたように頭を下げられ
返事の代わりに抱き寄せる。
こんな気持ちは初めてだ。
こんなオヤジがみっともねぇが
好きで好きでたまらねぇ。
イマイチ野望が実現へと近付かねえ俺の海賊人生の、こいつは光だ。
ただそばにいるだけで
癒され、潤い、浄化されていく。
今まで苦しんで生きてきたミドリを
幸せにしてやる。
その気持ちだけで明日を生きていける。
あの時、あの船でこいつを拾ったのが
俺で良かった。
…fin