〜第五章〜
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仕事終わり。
迷ったけど本当に来てしまった。
トントン——
ノックをするが、返事はない。
まだ戻ってないのかな?
この時間なら、もしかして食堂かも。
迷惑かもしれないけど
私はそのまま部屋の前で待ってみることにした。
大佐以上の階級を持つ兵士たちの自室が並ぶこの階。
私の目の前を不思議そうな顔をしながら
何人か通り過ぎる。
なんだか少し怪しいかな……
「……やっぱり帰ろうかな…」
そう思って一歩踏み出すと
「ミドリ?」
コビーが現れた。
「コビー……」
「……どうしたの?」
「あの…少し話がしたくて……」
私たちの横をまた兵士が一人通り過ぎる。
「あ、お疲れ様です!……ミドリ、とりあえず入って。」
コビーは少し気まずそうに言いながら
ドアを開けてくれた。
「あ、ごめんね。急に迷惑だったよね。」
「大丈夫だよ。」
前と同じシチュエーションに同じようなセリフ。
違うのは、コビーに笑顔がないこと。
コビーの部屋に2人。
少しの間、気まずい沈黙が流れる。
コビーは机に向かって椅子に座った。
仕事が残ってる、とでも言うように
私に背を向けたまま書類を出し始める。
来るべきじゃなかったかも……
でも……
勇気を出して、沈黙を破る。
「コビー。あの……私、何かしちゃったかな。」
「え?」
「なんだか…最近コビーとちゃんと話せてないって言うか…会ってもすぐどこかへ行っちゃうし……仕事忙しいんだろうけど……」
「……ミドリは何もしてないよ。」
「でも……」
「……少し、わからなくなっちゃって。」
「わからなくなったって?」
コビーは椅子ごと私の方へ振り返る。
やっと顔を見てくれた。
「僕たちのこと。同じ基地出身の同期で、でも僕は兵士でミドリは医者。このまま、仲良く一緒にいていいのかなって。」
「そんなの…何か問題ある?」
「……僕はいつ死ぬかわからないんだ。」
「嫌だ。何で急にそんなこと言うの?」
「急じゃないよ。海兵になった時から、僕はいつだって命がけだ。」
真っ直ぐに、真剣な顔付きで見つめられる。
今にも泣き出しそうな私。
コビーの視線から逃れられない。
「僕が命を落としたら、きっとミドリはすごく悲しんでくれる。それが辛いんだよ。だったら……一緒にいない方が——」
「全然わかんないよ!納得できない!今そばにいたいから一緒にいるんじゃダメなの!?」
コビーは何も言わず
俯いて膝の上で拳を握った。
「もう知らない!コビーのバカ!」
なんて浅はかなセリフを吐いてしまったんだろう。
私はそのままコビーの部屋を出た。
廊下を歩きながら
涙が溢れ出してくる。
少し前まで笑い合っていた2人が
今は背中を向け合ってる。
「ごめん、ミドリ……」
部屋に残されたコビーは
俯いたまま、握った拳を震わせていた。