〜第二章〜
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「…えっと…13号室……」
医療棟の台所を借りて作ったおにぎりを手に
コビーの部屋を探す。
隊員たちの暮らす部屋が並ぶその階に足を踏み入れたのは初めてだし、ましてやこれから好きな人の部屋にお邪魔するのだ、と思うと緊張してドキドキが止まらなかった。
「あった…」
ドアの横の表札に『大佐 コビー』と書かれている。
ノックしようと上げた手が緊張で震える。
2年前はなんでもなかったのに
今はコビーに会うだけでこんなにドキドキしてしまう。
日に日に想いは募っていくばかりだ。
トントン——
意を決してノックをした。
「はい、どうぞ。」
中から聞こえるコビーの声に心臓が跳ね上がる。
でも、ここまで来たら後戻りはできない。
ドアを開けると、机に向かっているコビーの背中が見えた。
「あの…こんばんは……」
私の声に驚いたのか、コビーは体を跳ね上げてこちらを振り返る。
机に体がぶつかったようで、ガタっと大きな音が鳴った。
「ミドリ!?どうして……あ、あぁ!ちょっと待ってて!散らかってるから!」
コビーは焦って席を立ち、部屋に乱雑に置かれている資料などを片付け、ベッドに脱ぎ捨てられている服をクローゼットに押し込む。
そこまで散らかってはいないけど
やっぱり…迷惑だったかも……
「ごめんね?急に……」
「いや、いいんだよ。よく僕の部屋がわかったね。」
「ヘルメッポさんが教えてくれたよ。あと、忙しくて食事もちゃんと取ってないって聞いたから、夜食作ってきた。」
机におにぎりの乗ったトレイを置いて
横の椅子に座る。
「うわぁ。ありがとう。お腹空いてたんだ。食べていい?」
「もちろん。コビーのために作ったんだもん。」
「うん、美味しいよ。」
嬉しそうにおにぎりを食べてくれるコビーに
私も嬉しくなる。
さっきの緊張とはまた違う
心地良いドキドキ。
勇気を出して、来てよかった。
「仕事、忙しいの?」
「あぁ。溜まっちゃっててね。でももう少しで終わりそうなんだ。」
「そっか。よかった。なんか全然会えないから、ちょっと寂しかった。」
「ミドリ……ごめん。そんな寂しい想いさせてたなんて……」
「子どもみたいだよね、私。仕事だし、仕方ないのに。でも、コビーは大事な同期だから、やっぱり…会えないと寂しいよ。落ち着いたらまた食堂で一緒にご飯食べようね。」
「うん、そうだね。」
「じゃあ…私もう行こうかな。」
「え?もう?」
「邪魔はしたくないし、おにぎり持ってきただけだから。」
「そっかぁ。あ、僕また明日から任務で海へ出るんだ。」
「明日から?本当に忙しいね、大佐。」
「数日で戻るから、そしたら今度は、僕からその…会いに行っていいかな。」
「うん…待ってるね。」
立ち上がってドアへ向かうと
コビーもわざわざ見送りに来てくれた。
「じゃあ、おやすみ。明日気をつけて行ってきてね。」
「うん。必ず帰ってくるよ。」
ニッコリと笑い合って
その場を去ろうとすると
コビーの右手に左手を優しくつかまれる。
「………」
何も言わず、指を絡めるようにぎゅっと握られる。
「……あの…どうしたの?」
私はその空気に恥ずかしくなった。
「……僕も寂しかったよ、ミドリ。」
「えっ……」
いつもと違うコビーの言動に
顔が熱くなって、鼓動は速くなった。
見上げると、私の目を真っ直ぐに見つめてくる。
「会いに来てくれて、嬉しかった。」
真面目な顔で見つめられるもんだから
私も逸らすことができず
ドキドキしすぎて、声も出せない。
「あの…じゃ、おやすみ。」
言うとそっと手を離して
コビーは部屋に入り、パタンとドアを閉めた。
「……なに、今の……」
廊下にひとり残された私は
熱くなった顔を両手で覆って
その場にしゃがみ込んでしまった。
嬉しくて、でも恥ずかしすぎて
どうしたらいいのかわからない。
握られた左手に、コビーの男らしく骨張った指の感触が残っている。
心臓が爆発しそう。