じゅじゅさんぽVol.4【君と一緒に食べたいんだよ】
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【じゅじゅさんぽ】Vol.4
吉野順平の事件後、五条悟に慰められた私は一つの決心をしていた。
自分からこんな行動をとるのは勇気がいったし、ぶっちゃけ緊張している。
ドキドキと高鳴る心臓をなんとか抑えながら私は財布を片手に、長い廊下を歩き職員室の扉を開いた。
中には、私が探していた人物は見当たらず、近くにいた伊地知さんに居場所を尋ねれば、仮眠室で寝ているんじゃないかとのこと。
「ありがとう」
素直にお礼を言えば、伊地知さんは驚いた顔をした後、にっこりと笑った。
仮眠室へと向かい静かに扉を開ければ、探していた人物はソファに寝っ転がっていた。
起こさないようにそっと近づいたつもりだけど、そいつは気配に気づいたのか、ゆっくりと目を開けた。
「あれ、馨じゃん。どうしたの?」
寝起きとは思えないほどぱっちりとした瞳が私を見つめる。
寝てたんじゃないのかと問えば、目を瞑っていただけだよと返された。
「で、僕に何か用?」
「…………あの、さ」
「ん?」
サングラスから黒いマスクへと付け替えるそいつ。
わたしはぎゅっと掌を握って、ドキドキと緊張する心臓を悟られないように、口を紡ぐ。
「飯、奢る」
「………ん?」
「色々、……その、慰めて、もらったし………。借り、作りたくないし……」
言葉尻がどんどん小さくなっていく。
飯を奢るって誘うだけで、こんなにも緊張するとは思わなかった。
緊張しすぎて、吐きそう……。
下を向く私の耳に、男の笑う声が聞こえた。
「別に気にしなくてもいいのに」
「……私が、嫌なんだよ。いつも、慰めてもらってるし……色々、迷惑かけてるし……。奢るつっても、牛丼とかしか奢れねえけど……」
手を前に組んでもじもじと手遊びをしてしまうのは、この空気間に私が耐えられていないからだ。
やっぱ、やめときゃよかったか。
と後悔の念が私の脳裏に焼き付き、ちらりと五条悟を見れば、すごい嬉しそうな顔をしていた。
「馨が奢ってくれるの?僕に?」
「高いのは無理だけど……」
「え、本当に⁉」
「二言はない」
「ちょっと電話してもいい?」
「いいけど」
意気揚々とする五条悟は、テーブルに置かれていたスマホを手に取ると、どこかに電話をかけた。
「もしもし?今日の会合あるじゃん、それキャンセルしといて。大事な用ができて行けないから。じゃあ、そういうことだから」
一方的に言って一方的に電話を切る五条悟。
ていうか待って。
聞き捨てならない単語を耳にしたんだけど。
「会合……?」
「御三家の連中と上の連中とで、会合が開かれるんだよね。銀座で寿司食いながらやるんだけどさ。何が悲しくてむさ苦しいおっさんと飯食わなきゃいけないんだって話じゃん」
「いや、話じゃん。じゃねえわ。何してんの?なんでそっちキャンセルしたし」
「え?」
「え?」
「え?」
「え?」
なんだ。
私は何か変なことを言っただろうか。
至極真っ当な事しか言ってないぞ。
だと言うのに、五条悟はきょとんとした顔で私を見ている。
なんだその、「僕、なにか変な事言ったかな」みたいな表情。
バリバリ変な事しか言ってねえだろ。
「私なんかの誘いより、そっちの方が大事だろうが。だって、おま……会合って……銀座……寿司……」
脳のキャパシティが限界を迎えそうだ。
プスプスと音を立てているのが自分でもわかる。
「だって馨とご飯行くからじゃん」
「いや、百歩譲って私と会合を天秤にかけたうえで私を取るのはいいとして」
「いいんだ」
「牛丼と寿司だぞ?」
「そこなんだ、気にするの」
牛丼と寿司って。
明らかに寿司を取るだろ。
しかも銀座の寿司だぞ。
最低価格でも3万程度。
今回は会合だって言うんだからもっといい値段の寿司が食えるんだぞ。
一杯400円程度の牛丼とはワケが違うんだぞ。
「五条悟はさ、牛丼と寿司を肉と魚で捉えてるのか?」
「逆に馨は何で捉えてんの?肉と魚以外なくない?陸か海かって事?それとも肺呼吸かエラ呼吸かってこと?馨の脳内ってどうなってんの?」
「そのままそっくり返してやるよ。そんな捉え方してねえわ」
なんだ、このアホみてえなやり取りは。
私が間違っているのか。
間違っているなら誰か指摘をしてほしい。
普通に考えれなばわかることだろ。
そこらへんにあるチェーン店の牛丼屋と銀座の寿司屋だったら、迷うことなく後者を選ぶだろう。
私だったら選ぶし、虎杖や釘崎、伏黒だってそっちを選ぶはず。
「寿司だっていつだって食べれるでしょうよ。寿司が食えない日って法律で決まってたっけ?あ、クイズ?2月9日?それとも大喜利?29番、肉の日!!」
「クイズでも大喜利でもねえわ」
「じゃあ、なに?」
「………いやさ、銀座の寿司って最低でも3万くらいするわけ。知ってた?」
「知ってるよ」
「3万の飯ってお前毎日食える?」
「3万くらい普通に食えるでしょ」
雷が落ちた。
確実に私の頭上に雷が落ちた。
そうだった。
コイツ、金持ちだった。
昔からそういう飯に食いなれているから、こんなこと平気で言えるんだ。
一般家庭でしかも中学から一人暮らしをしていた私とはワケが違うんだ。
「どうしたの?」
「平等主義とはよく言ったものだ……。落差が、落差があるじゃねえか……」
「大丈夫?今日の馨情緒不安定過ぎない?」
「誰のせいだと思ってんだ」
「え、僕?何もしてなくない?」
全ての発言が癪に障る。
でも、落ち着け。
私は何のためにこいつを飯に誘ったんだ。
日頃の感謝の為だろう。
……この発言から感謝の気持ちが薄れてしまっているのは確かだけど、でも自分の勇気を無駄にするんじゃない。
「五条悟。牛丼ってな、一杯400円くらいしかしねえんだわ」
「うん。知ってる」
「400円って何時でも食える気しない?」
「値段の話ししてなくない?」
正論だ……。
五条悟が正論を返してきやがった。
うぐ……。
なんで私が敗北感を味わっているんだ。
金銭感覚のバグがすごい。
「値段で見ろよ……。3万……、会合だから多分5万くらいか?5万の寿司とトッピングをたくさんしたところで1000円にも満たない牛丼……。秤にかけた時傾くのが寿司だろ……」
「牛丼でしょ」
「なんでだよ‼どういう思考回路してたら牛丼が傾くんだよ‼質が高いから値段も高いの。値段が高いから美味いの。美味いから5万もすんの!!わかる?Do you understand?」
なんで私もこんなに白熱と牛丼について語ってんだろう。
退くにひけねえわ。
これも勝負の一つというのであれば、この戦いに勝って意地でもこいつに5万の寿司と400円の牛丼の違いを教えてやりたい。
「馨の言い方からすると牛丼ってまずいって事になるけど」
「牛丼がまずいわけねえだろ!!めちゃくちゃうまいわ!!」
「だよねー。寿司もうまいし牛丼もうまい。一緒でしょ?だったら価値も一緒じゃない?」
な、何を言っているのか、わかんなくなってきた……。
「ちょっと、馨。僕とお話しよう。ちゃんと教えてあげるから」
真剣な声で五条悟はソファに座るよう私を促した。
何を教えると言うんだ。
教えてやりたいのは私の方だよ。
「400円の牛丼はね、本来5万するわけ」
もう何を言っているのかさっぱりだ。
こいつとうとうイカレたか?
あ、元々か。
私の脳がキャパオーバーで現実逃避をしているよ。
領域展開していないのに、無量空処をくらってるよ。
五条悟は5万の寿司は5万円するけど、牛丼は5万の価値があるのに400円で食べれると主張し始めた。
そして差額は4万9千600円で、その分お得だとも。
「すごくない、これ?」
す、すごくないこれ…………?
何がすごいんだ。
だって400円払ってるんだぞ。
「本来は5万ね。その5万を400円で食べてる。得してるでしょ、4万9千600円」
「……えぇ、……あ、、、えぇ……?」
「考えてもごらんよ。牛丼食べた後に寿司を食べるとするでしょ。そうすると4万9千600円得してから行ってるわけだからタダなわけ」
どうしよう。
日本語が理解できない。
私ってこんなにバカだったかな。
「どういうこと?理解できない」
「見たまんまじゃん」
「見たまんまっ⁉」
どのくらい五条悟と寿司と牛丼、5万と400円について語ったかは分からない。
分からないけど、結論だけ先に述べよう思う。
あの後、私は五条悟と共にセーフハウスへと行きカレーを食べた。
しかも私が作った。
意味がわからないと思うけど、実際に起きた出来事である。
そして、今までの問答の結論もでた。
5万の寿司は400円の牛丼である。
ということで今回の勝負は幕を下ろした。
が、やはり何かが間違っている気もしなくもないが、たぶん何も間違っていないんだと思う。
「馨はおバカさんだね」
っていう言葉だけは何としてでも払拭したいと、そう強く心の中で誓った。
あと、五条悟が会合をサボったために、何故か伊地知さんが上から怒られていて、それをたまたま知ってしまった私は、お詫びの印に伊地知さんに胃に優しい飲み物と食べ物を献上したのだった。