じゅじゅさんぽVol.2【欲しかったもの】
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結局、私と禪院真希たちが本当の意味で和解したのは私が腹に呪いを宿し、祓ったあの日からだ。
乙骨憂太はすでに海外に行ってしまったため、その光景を見ることはできなかったけど、帰ってきたら驚くだろうな。
罵しあえるまでに私たちは仲を深めたのだから。
ま、そんなこと本人たちには言わないけど。
呪いを受胎し、自分で祓った私はしばらくの間は傷心していた。
ある意味では自分の子供を殺したようなものだ。
いくら呪いとはいえ、傷つかない訳がない。
禪院真希に抱きしめられて慰められはしたが、それでも完全に回復はしていなかった。
とぼとぼと重い足取りで、私はピアノのあるあの部屋へと来ていた。
気分転換をしたくて。
ベートーヴェンの「悲愴」を静かに弾いた。
あの子供へ向ける鎮魂歌として。
だけど、弾いていくうちに。
感情が高ぶって、どうしようもない感情が生まれて。
不協和音が部屋中に鳴り響いた。
いろんな音は、汚い音色は、まるで私の心そのもの。
原曲もクソもない。
音楽とは言えないただ鍵盤を叩くだけの乱雑な音の羅列。
小さい子供がざっくばらんにピアノを叩くような、それに近い音がずっと鳴り響く。
無我夢中に、一心不乱に。
ただただ、鍵盤を叩きつけて雑念を振り払うかのように。
何も考えたくなくて。
汚い音色が奏でるそれが、今は心地がいい。
どのくらいそうやっていただろう。
たぶんそんなに時間は経っていないと思う。
だというのに、私の額からは汗が零れ落ちた。
肩で息をしながら、鍵盤から手を離す。
溢れそうになる涙をぐっとこらえた時、入り口から音がした。
横目で見ると、そこには狗巻棘とパンダが居て。
何時からそこにいたとかどうでもよかった。
二人は何も言わず、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。
パンダは日の当たる窓際に腰を下ろして、狗巻棘は私の隣に来ると、鍵盤に手を置いた。
ピアノ弾くのか。
でもなんで。
っていう疑問が浮かんだけど、考えるのを放棄してただ狗巻棘の弾く音色を聴いてやろうと瞳を閉じた。
「ぶはっ!!」
「高菜~」
いきなり噴き出した私を咎めるような顔をする狗巻棘。
「笑うだろ。なんで弾けますけどみたいな雰囲気出してんだよ、全然弾けてねえじゃん」
喉奥で笑い続ける私をジト目で見る狗巻棘。
そんな目で見たって弾けてないものは弾けてないし、下手くそなものは下手くそだ。
だから一緒に弾いた。
丁寧に教えてやった。
春の風が窓から吹いて、さっきまでの感情はどこにもない。
「馨、何か弾いてよ」
「何かってなんだよ」
「んー、俺の好きな曲」
「知らねえわ」
狗巻棘に音階を教えて、その通りに弾いてもらいながら私は私で適当に鍵盤を叩けば、オリジナルの曲が出来上がった。
我ながら天才だと思った。
そんな時に、ハブられて寂しい思いをしたのかパンダがリクエストをしてきたのだ。
お前の好きな曲をみんながみんな知っていると思うな。
だから適当にはやりの曲を弾いてやった。
そしたら意外と狗巻棘が反応していて、身体を揺らして乗っている。
パンダもパンダで知っている箇所の歌詞を口ずさんでいて。
ほのぼのとした時間が私たちのいるこの空間に漂った。
「ツナマヨ」
「あー、うん。暇なときはここにいるかも」
「今度は真希も連れて来ようぜ。そしたら、合唱でもするか」
「しゃけ」
「伏黒が歌ってるところ想像つかねえんだけど。てか、絵面がやべえだろ」
パンダが歌っているのも笑えるけど、おにぎりの具で歌うとか面白いとおりこして、意味がわかんねえよ。
なんて思っていたけど。
その数か月後。
虎杖を覗いた連中でまさかそれが実現するとは思わなかった。
パンダと五条悟と釘崎は意気揚々として歌ってるし、伏黒は歌ってんのか歌ってねえのかわかんねえくらい声小せえし、狗巻棘は言わずもがなおにぎりの具だけで歌ってるし、禪院真希は私にちょっかいを出しながら歌うし。
なんだこれ。
混沌が具現化したらこんななのかなとか思いながら、私も私で弾き続けるから大概か。
虎杖にそのことを話せば「なにそれ。俺も参加したい」と言った。
「生き返ったらな」
「俺もう生き返ってるんだけど……」
「みんなと合流したらって意味だよ」
「そう言えよ」
「確かに」
地下室に二人の笑い声が響いた。
ずっと欲しかったものがある。
思い描いていたもの。
ずっとそばにいてくれる家族。
帰りたいと思える場所。
みんなが、私が笑っていられる場所。
私を嫌わない、私を見てくれる誰か。
温かい処。
温かい人、友人、先生……。
ちゃんとあった。ちゃんといた。
それを与えてくれる人が、私の側にいてくれることがこんなにも嬉しい。
それもこれも、全部あの五条悟のおかげだというのが悔しいけど。
絶対に口に出して、感謝なんて言ったりなんかしてやらない。