じゅじゅさんぽVol.10【致死量の傷】
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ゆっくりと意識が浮上していくのがわかる。
「……ぅ」
眩しい光が瞳に差し込んで、小さいうめき声が漏れる。
眩しい所から眩しい所へとやってきたようだ。
なんて、考えていたら私の耳に私の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
あまりの五月蠅さに「うるせぇ……」と呟けば、誰かに抱きしめられた。
なんだよ、また私が抱きしめてんのか。
わけわからん。
ぼんやりする意識ではあったが、徐々にクリアになっていく視界に、ここが先ほどまでいた場所ではないことに気が付いた。
そして端っこに映るピンク色の髪の毛。
「い、たどり……?」
「馨!!」
安心しきったような声だ。
なんだ、一体何が起きて……。
「馨、事件の記憶はある?」
ズキズキと痛む頭を抑えながら、ゆっくりと起き上がる。
辺りを見渡すと、どうやらここは医務室のようで家入硝子と虎杖、そして五条悟の3人が私を見ていた。
まだ脳の運転が正常ではないため、五条悟の言った言葉を理解するのに数秒かかってしまった。
事件の記憶……。
確か潜入捜査でホテルん中に入って……そしたら人が倒れてて、それで……。
「……男の、術式を食らった。あとは覚えてない」
「多少の記憶障害はあるようだが、それ以外の後遺症はないみたいだね」
「あのさ、任務……どうなった?」
「無事終わったよ。女の子たちも病院で検査してもらって、犯行グループは警察が対処してくれた」
「そう、か」
虎杖には悪い事をしてしまった。
私がへまをしたせいで、心配や迷惑をかけて……。
「虎杖……」
「謝るの禁止!!」
「へ?」
「オマエ、今俺に謝ろうとしたろ」
「え……う、うん」
「謝んな」
「でも……」
「いいから謝んな。謝ったら絶交する」
「絶交って……ガキじゃあるまいし」
「じゃあ、絶交な」
「……わかった。謝んないから。だから、絶交は、なしの方向で……」
「うっし!!じゃあ俺、伏黒達に馨が起きたこと伝えてくるわ」
そう言うや否や、虎杖は医務室を後にして足音を立てて去って行ってしまった。
なんか嵐のような奴だな。
私の不甲斐なさで任務が失敗になるところだったのに、それでも虎杖は私に謝るなと言ってきた。
責任を感じる必要はない、と言いたいのだろう。
彼の優しさに沢山救われているな。
「夏油、体調に異常はあるか?」
「まったくない。ただ、ぼーっとするだけ」
家入硝子の検査を受けながら、私は五条悟からあの後のことを軽く聞かされた。
私はどうやら5日間ずっと眠っていたらしい。
その間、魘されては泣いて譫言のように謝っていたと言う。
そして、私が受けた術式についても。
「いわゆるトラウマだよ」
「トラウマ……」
「解呪の方法はあいつも知らなかった。だけど、君は解呪してここに戻ってきた。今後の為に聞いておきたい。どうやって解呪した」
カルテに何かを書き込み、家入硝子は私と向き直る。
どうやって解呪した……か。
断片的にしか覚えていないんだよな、正直。
どう説明しようか悩んでいると、ベッドの縁に五条悟が腰を掛け私をじっと見つめてきた。
黒いマスク越しに目が合っているような気がして、ちょっとだけどこか気恥ずかしくて視線をずらした。
「馨のトラウマの原因はきっと僕だろうから、謝るよ。すまなかったね」
「は?え、なにが?」
「傑の死が、君にとってのトラウマだろう?」
「え?何言ってんだよ、ちげえよ。お兄ちゃんの死はトラウマじゃない。ショックだったけど、悲しかったけど、それがトラウマになることはない」
「え?違うの?」
素っ頓狂な声。
家入硝子もどうやらそうだと思っていたらしく、目を丸くしている。
「お兄ちゃんの死は……トラウマのきっかけ、みたいなもので……間接的には繋がってるけど、原因そのものじゃない」
「じゃあ、何が夏油のトラウマだったんだ?」
「いうわけねえだろ、アホか」
「そこは言ってくれてもいいじゃん。今後の参考のために」
「絶対に嫌だ!!!!」
「じゃあトラウマは話さなくていいから解呪の方法を教えてよ」
ケラケラと笑う意地の悪い大人二人。
これ絶対面白がってるだろ。
私が思ったより元気だからこんな態度取ってんだ。
くそ腹立つ。
「知らねえよ。強いて言えば、向き合えばいいんじゃねえの?そんで抱きしめて泣けば?」
「まったくもって意味が分かんないけど、なに、馨また泣いたの?」
「はぁ⁉泣いてねえし!!!!」
「泣き虫だな、夏油は」
「だから泣いてねえって言ってんだろ!!頭撫でんのやめろ!!」
大人二人にからかわれ、ぎゃあぎゃあ騒いでいたら医務室に野薔薇や伏黒、そんで2年組もやってきて事情も知らないくせにみんなして私をもみくちゃにしやがった。
一人遠くで傍観している伏黒に手を伸ばして助けを求めたが知らん顔された。
後で覚えてろ。
その髪の毛さらっさらのストレートにしてやっから。
ベッドの上でもみくちゃにされて、野薔薇と禪院真希、パンダと狗巻棘の下敷きになって。
「邪魔だ!!あちいっ!!」と文句を言っても退くどころか更に体重を乗っけて来やがる。
人の話しをひとっつもききやしねえ。
虎杖は爆笑してるし、伏黒は我関せずだし。
五条悟はスマホのカメラで連射、家入硝子はこの状況に飽きたのか欠伸をしてやがる。
何だ、このカオスな空間。
早くみんな出てってくんねえかな。
【でも、好きなんでしょ】
どこかでそんな声が聞こえたような気がした。
一体誰がどこでそれを言ったのか。
考えなくても分かった。
私の心が、そう言っている。
認めたくないけど、認めざるを得ない。
ああ、そうだよ。
悪くないと思っているよ。
そう思ってしまったから。
しょうがない。
もうしばらくは、このまま弄ばれたままでいよう。
無意識に、自然と、笑みが零れた。