じゅじゅさんぽVol.2【欲しかったもの】
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
できるだけ遠くまで逃げた私は、大木に背を預け息を整える。
ここまで逃げれば時間は稼げるはず。
少ししたら部屋に戻ろう。
五条悟を殺す前に私はあの女の恐怖を克服しなければいけないのではないか。
なんて思っていたら。
「あ、いた」
見つかった。
毛並みを逆立てる猫のように。
私は息を荒くしてそいつを目に映した。
「乙骨、憂太……」
そいつは困ったように笑っている。
距離を縮めようと私に近づく乙骨憂太。
私は姿勢を低くして、縮められた距離を離そうと後ずさる。
「怯えなくていいよ、何もしないから」
「…………」
「少しだけ、話がしたくて」
「話ってなんだ」
「警戒しなくてもいいのに……」
しょんぼりする乙骨憂太。
何だこいつ、全然掴めねえ。
いや、油断させようとして一芝居打っている可能性もある。
警戒心を解くんじゃねえぞ、夏油馨。
乙骨憂太の目をじっと睨みつけたまま、少しずつ後ずさる私の姿を見て、乙骨憂太は頬を軽く指で掻いた。
「みんな、君に謝りたいみたいなんだ」
「別に私は謝ってほしくない。関わんな」
「夏油さんって、猫みたい」
返ってきた言葉が斜め方向過ぎて一瞬思考がフリーズした。
警戒し続ける私に、乙骨憂太は自分の話をしだした。
乙骨憂太は呪術高専に来る前は、クラスでいじめを受けているひ弱な少年だったらしい。
こいつは特級過呪怨霊である祈本里香に呪われて、その危険性から秘匿死刑が決定したと言う。
「同じ穴の狢って言いたいのか?」
「そうじゃないって、言えたらいいんだけどね」
あははと笑う乙骨憂太。
本当に掴みどころのない男だ。
そのせいで私の警戒心が解けた。
「恨んでんだろ」
「え……?」
「お兄ちゃんがお前らを傷付けたこととかいろいろ」
「……恨んでいると言うよりは許せなかったかな。真希さんや狗巻君、パンダ君を傷付けたことは」
「……」
「でもだからと言って、君を恨んだりしないよ。だって夏油さんは夏油さんだし。君だって同じくらい傷付いたんじゃないかな」
「………お前、まとも過ぎて逆に怖い」
「えぇ⁉」
なんでこんなまともなんだ。
癖が強すぎる奴らばかりだから、乙骨憂太みたいな人間は逆に怖い。
思わず吹き出して笑ってしまった。
乙骨憂太の顔があまりにも面白くて。
「やっと笑ってくれた」
「いや、笑うだろ。お前すげえ間抜け面なんだもん」
「そんなに間抜けな顔してた?」
「してた。頭悪そうな顔」
「貶すね」
「褒めてんだよ」
「そっか。ありがとう」
「ん」
なんだろう。
少しだけ、心が和らいだ。
「僕、近々海外に行くんだけど」
「へぇ」
「だから、真希さん達と仲良くしてほしくて」
「無理だろ。禪院真希怖すぎ」
「あはは。でも、いい人だよ。夏油さんに怪我させたことすごく気にしてたから」
いい人なのは、知ってる。
知ってるからこそ、仲良くなんて無理なんだって。
でもこの気持ちは伝わらないだろうな。
「それだけが言いたかったんだ」
優しい笑みを浮かべる乙骨憂太。
それだけを言って、男は私に背中を向けて行ってしまった。
一人取り残された私は乙骨憂太の言葉を反芻する。
【真希さん達と仲良くしてほしくて】
仲良く、だなんて。
こんな私と仲良くしてくれるヤツいないだろ。
どんだけ仲良くなろうと、絶対頭の隅っこに根付いている物が消えない限り、本当の意味で仲良くなんて無理だ。