じゅじゅさんぽVol.10【致死量の傷】
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数日後。
この家で生活をするために、いろんな大人と契約を交わした。
子供の私ではどうする事もできなかったから、そこはお父さんに頼んだ。
お父さんの名義で家を購入。
水道もガスも電気もお父さん名義。
『ちゃんと返すね』
『これくらい甘えてもいいんだぞ』
『だめ。お金はちゃんと返すから。お金は大事だから』
契約を頼んでおいて勝手な言い分だとは思う。
それでもお父さんは笑ってくれた。
『今は無理だけど、大人になったら絶対に返すから!!!』
『分かった分かった。それまでは甘えてくれよな』
くしゃりと頭を撫でられて、嬉しくて、顔が綻んだ。
去り行くお父さんの姿を見送って、私の新しい生活が始まった。
家から少し離れた中学に通い、名字も夏油に戻した。
お父さんとお母さんのことは大好きだし愛している。
それと同じくらい「夏油」も大好きで愛している。
お兄ちゃんのことは好きか嫌いかは分からない。
私がこんな目に遭っているのは全部お兄ちゃんのせいだし、正直、好きにはなれないと思う。
かといって本気で嫌いになれる訳もなくて。
どうしてこんな気持ちになるのか、わからなくてモヤモヤする。
中学生活は順調だった。
友達もできたし、授業も楽しかった。
理解できない問題があれば私に聞きに来る人もいたし、小学校時代に比べるとすごく充実していた。
だから忘れていたんだ。
幸せは長続きしないって。
『夏油さんのお兄さんってさ、人を殺したことがあるって本当?」『……え?』
中学1年秋。
夏の日差しがまだ残る日だった。
友達の一人が、不安そうにそう聞いてきた。
頭の中は真っ白になって、脈拍が大きく揺らいで、息が浅くなって、動揺しているのが自分でも分かった。
『なんで……?』
『隣のクラスの○○君が、そう言ってたから』
○○……。
○○って、あの○○……?
小学生の時に私を虐待していた家の子供。
まさかあいつもこの中学に通っていたなんて。
家の方向全然違うじゃん。
なんでここに通ってんだよ。
もっと近場の中学あっただろ。
なんで、○○がここに居るんだよ。
思考回路がぐるぐると周って、浮かんでは消えてまた浮かんでの繰り返し。
正常な考えなんてできるはずもなくて、黙ってしまった。
それが、「答え」だと言っているようなもので、友達は顔を真っ青にしていた。
『え、本当にそうなの……?嘘でしょ……?』
その子の動揺が伝播し、教室はざわつき始めた。
『なになに、どうしたの?』
『なにかあった?』
『夏油の兄貴が、殺人したんだって』
『え⁉夏油、人殺したの!?犯罪者じゃん!!』
『ばっ、ちげえよ!!夏油の兄貴!!!』
『でもそれって結局犯罪者の身内ってことに変わりなくない?』
殺人。
犯罪。
身内。
飛び交う言葉の数々。
お兄ちゃん、見てる?
あんたのせいであんたの妹、今こんな目に遭ってるよ。
全部あんたのせいなのに。
私は何も悪い事してないのに。
悪者扱いだよ。
お兄ちゃん、見てる?
こうなったのも全部あんたのせいだって、分かってる?
嫌いだよ、やっぱり、あんたのこと。
お兄ちゃんなんて嫌いだよ。
友達が離れていくのは早かった。
私のことが全校に知れ渡るのも早かった。
私が堕ちていくのもまた――――――。