じゅじゅさんぽVol.10【致死量の傷】
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――夏油馨side――
何も見たくなくて。
何も聞きたくなくて。
目を固く瞑り、耳を塞ぎ、その場にしゃがみこむ。
口から溢れる言葉は、懺悔と謝罪のみ。
零れる涙は、地面を濡らす。
ちいさな手が耳を塞ぐ手に触れた。
冷たい、酷く冷たい体温に、身体が大きく跳ねた。
反射的に顔を上げれば、幼い私が私を見下ろしてた。
感情のない表情で、じっと私を見つめている。
彼女は暫く私を見つめたあと、ゆっくりと静かに指を差した。
指している方向、私の背後。
見たくないのに。
聞きたくもないのに。
なのに、私の意思とは反対に身体はそちらへと向けられる。
眩しい光のその向こう。
そこから見える過去に、思い出に、私は引きずり込まれていく。
『オマエの兄ちゃん、人殺しなんだろ!!』
引き取り先の家の、その子供が、私を指さしてそう言った。
あの時、お兄ちゃんが両親を殺した後に、私を預けたあの家は事件の事を知るとすぐに私を施設へと放り込んだ。
仕方が無いと思う。
犯罪者の妹を預かっていると知られれば、ご近所にどう思われるか分かったものじゃない。
何より、蛙の子は蛙、というように私もいつかそうなるかもしれないと思ったのだろう。
施設に預けらた4年くらいはまだ幸せだった。
誰も夏油傑の妹だって気づかなかったから。
幸せだった。
だけど、その幸せは長くは続かない。
引き取り先の決まった家は、とても居心地が悪かった。
私がまだ小学校3年生の時だったような気がする。
預けられて数か月くらい経った頃。
どこからそんな情報を手に入れたのか、その家の子供は私の兄が犯罪者であることを知ってしまった。
『なんで、それ……知ってるの……』
『パパの部屋からこれを見つけた』
手に持っていた一枚の紙。
難しい字ばかりでその時の私には一体何のことか分からなかった。
けど、その子が言うにはその紙には私の身元が全て書かれているらしかった。
『オマエのパパとママ殺したのオマエの兄ちゃんなんだってな。全部知ってんだかんな!』
目くじらを立てる様に、私を睨みつける。
その子の両親が騒ぎを聞きつけ、その場を宥めるのに相当時間がかかったような気がする。
人殺しと騒ぐ我が子を抱き上げ別室へと連れて行く父親。
泣いている私をどうしたらいいかわからずに狼狽える母親。
結局、母親は我が子の元へと行ってしまった。
『一人、に……しないで……。置いて……いかないで……』
そんな言葉も虚しく。
残された部屋で私はただ泣きじゃくっていた。
そんな光景が。
そんな過去が。
私の目の前で映像のように流れて、映像の中の彼女と同じく、私は泣いていた。
誰も抱きしめてくれなかった。
この手を取ってはくれなかった。
泣き崩れて、泣き喚いて。
幼い私の悲痛な泣き声が私の耳に届いて、心臓が痛い。