じゅじゅさんぽVol.10【致死量の傷】
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「無理だね」
高専に戻り、硝子のところへ馨を連れて行った。
反転術式でどうこうできるものではないが、彼女に診てもらえば何か打開策が見つかるかもしれないと思った。
しかし、その考えは一蹴されてしまった。
「"トラウマ"、がそいつの術式なんだっけ?」
「正確にいえば"相手の意識を誘導する術式"と言えばいいかな。洗脳やマインドコントロールみたいなもん」
「厄介だね」
硝子の言う通り、この術式は厄介すぎる。
催眠は解呪の方法が簡単なため苦労はしない。
掛けられた方法と同じ方法で意識をこちらに戻せばいいだけだ。
だが、洗脳やマインドコントロールはそうはいかない。
"もしかしたらそうかなのかもしれない"
と、自身が思っていないことでも"そう思わされてしまう"。
そうなるといくらこっちが「それは違うよ」「そんなわけないだろ」と否定しても意味がない。
他人からの言葉でたまに大きく人格が変わる人がいるけど、結局それも自分が"そうしたい"という意識があったから変われただけであって、そういう意識が無ければ人は何も変わらない。
自分の考えや行動を変えられるのは自分だけ。
だからこそ、意識というものは厄介だ。
特に、「トラウマ」は尚更。
「……解呪の方法、アイツに聞きだせないの?」
「知らない、だそうだ」
「チッ」
「笑いながら言ってたよ。そのうち死ぬから気にする必要ないでしょって」
「硝子、トラウマによって自殺したりすることってあるの?」
「あるよ。過去の自分の行いに対して自責の念にかられて死を選ぶ人間は割と多いよ」
馨の過去のことは知らない。
だが、話を聞いているといい思い出とは言えない。
いじめも受けていたと聞くし、預けられた先でも嫌がらせを受けていたと聞く。
それが彼女の心を蝕むトラウマだとしたら……。
いや、それが彼女が彼女を殺すトラウマではないだろう。
最大の心の闇。
誰もがその原因を理解している。
「五条」
「なに」
「……いや、なんでもない」
何か言いかけた硝子は口を噤んだ。
察しのいい奴で良かった。
僕はベッドに横たわって魘されているかわいい生徒に目を向ける。
頬を伝う涙を親指の腹で拭ってやった。
馨の最大のトラウマ。
それはーーー彼女の兄。
夏油傑だ。