じゅじゅさんぽVol.10【致死量の傷】
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――五条悟side――
悠仁から貰ったメールにはただ一言「緊急事態」とだけ書かれ、それだけで妙な胸騒ぎを覚えた。
馨に何かあったら連絡するように伝えてあったはずだが、その彼女からの連絡はない。
となると、緊急事態に陥っているのは馨だろうか。
あとは、悠仁が相手の隙をついてメッセージを送ってきたか……。
どちらにせよ、僕の可愛い生徒たちがピンチとなれば助けに行くしかない。
と、その前に……。
僕は七海に電話を掛ける。
確か現場のホテルに近い場所で任務をしていたはず。
"もしも"の時に備えて、一人でも多く術師がいた方がいいでしょ。
学生の保護も含めて。
電話をかけ簡単に事情を話せば、二つ返事で頷いてくれた。
電話を切る前に「夏油さんはよく巻き込まれますね」と独り言のようにぼやいた声が僕の耳に届いた。
ほんと、七海の言う通りだよ。
事件によく巻き込まれる子だ。
ただの任務での怪我とかならそこまで心配はしないけど、彼女は「人間」の「偏った感情」によく巻き込まれるから任務なんかより心配してしまう。
「問題児だねぇ」
小さく呟いて、僕は悠仁のところへと飛んだ。
◆◆◆
「状況は?」
瞬間移動で悠仁の元へと行けば驚いた顔が僕を見つめた。
ホテルの入り口に男が二人。
何を一体警備をしているのか分からないけど、思ったよりマズいかもしれない。
ホテル内から微かに呪力を感じる。
馨のものではない、知らない誰かの呪力。
これは完璧に馨は狙われたな。
苛立ちと腹立たしさが僕の中に生まれる。
不用心な馨に対しても、馨に危害を加える人間にも。
僕の怒りを読み取ったのか、悠仁は恐る恐るといった感じで状況を説明し始めた。
さきほど男たちに悠仁が襲われ返り討ちにしたこと、馨がまだホテルの中にいて連絡が取れないこと、変な薬を使って女性を強姦していること、呪詛師が紛れ込んでいるかもしれない事。
全て話してくれた。
それらは全て馨から聞いていたから大体予想がつく。
僕が懸念しているのは、馨が見ず知らずの男の手によって犯されていないかどうか、ということ。
「悠仁、警察を呼んでくれる?それと救急車も」
中にいる一般人もきっとレイプされている可能性が高い。
事件性がないと警察は動いてくれないが、事件は既に起きているからすぐに着てくれるだろう。
何か言いたいことや聞きたいことがあるといったような顔をする悠仁だが、僕はそれを無視して一直線にホテルへと向かった。
入り口付近で見張りをしていた男ども二人は、僕を見ると何かを言ってきたが、全然耳に入ってこなくて何を言っていたか覚えていない。
鳩尾を殴れば一発ダウン。
暫くの間そこで寝ていてよ。
中に入り、呪力を感じる場所へと向かう。
ホテルの奥、"Staff only"と書かれた扉。
この扉の奥にいることは明白だ。
僕の歩いてきた廊下の床には、僕に殴られて気を失っている男たちがたくさん転がっていた。
どこからか微かに喘ぎ声やセックス特有の肌と肌のぶつかる音が聞こえる。
きっとメインホールで乱交パーティーが開催されているんだろう。
悪いけど、それは七海に任せよう。
僕はこの扉の奥にいる馨を救出しなくちゃいけないからね。
扉を開ける狭い廊下を歩いていく。
廊下の更に奥にある扉に近づくたびに濃くなる呪力とアルコールの匂いと、そして精液の匂い。
嫌な予感が頭をよぎる。
「……おいおい、誰だよあんた。ここ関係者以外立ち入り禁止なんだけど」
「文字も読めなくなったのかよ、おっさん」
用がある場所の前に2人の男が立っていた。
くそめんどくせえな。
ここまでいろんな男どもに邪魔されてきてうんざりしてるんだよね、僕。
オマエらみたいな人間を相手にするのもいい加減疲れてきたし。
「少し大人しくしてなよ」
そう言って僕は、瞬時に男どもの鳩尾を殴り首を絞め上げて気絶させた。
と、その時。
重い鉄の扉が高い金属音を鳴らして開いた。
外の様子を窺うように顔を出した男は、僕の顔をみるなりサッと表情を青くし「五条悟」と口にした。
へぇ。
僕のこと知ってるんだ。
一般人で僕のことを知っている人間は少ない。
呪術界で僕の事を知らない人間はいない。
考えるまでもない、こいつは呪術師で呪詛師だ。
にやりと口角が無意識で上がった。
左手で扉を引き、右手で男の顔を鷲掴みにし、扉を引くと同時に男を押し倒す。
男の上に馬乗りになり顔面は掴んだまま、身動きがとれないように馬乗りになる。
「へ、へへ……。今更助けに来たって、遅いよ。五条悟……」
男は笑いながら言った。
暫くすれば馨は自分の心を殺す、と。
言っている意味が分からなかった。
こいつの術式の効果だとしたら、その効果とはなにか、解呪の仕方はあるのか、それらを聞こうとしたが叶わなかった。
それより早く、警察と七海が現場に到着したからだ。
主犯格の男―――杉野は、こっちで身柄を確保する旨を警察に伝え、また急性アルコール中毒及び強姦された4人の被害者女性は外に待機していた救急車に運ばれた。
彼女らを運ぶ救急隊員の一人に、催淫剤や麻薬などの薬が投与されていないかどうかを知らべてもらうようにと七海が指示を出しているのを遠くで聞きながら、僕は床に横たわる馨の身体を抱きしめた。
トクトクと聞こえる心臓の音を聞いて、生きていることを確認して安堵のため息を吐く。
だけど、それも一瞬のこと。
彼女は杉野の術師を受けている。
それがどういった術式なのか、まだ分からない。
自分の心に殺されるってどういうことだ。
ぐるぐると纏まらない考えが頭の中を何度も何度も行き来する。
そんな僕の耳に聞こえた小さな声。
紛れもなく馨の声で、目を覚ましたのかと抱きしめていた身体を離すと大粒の涙を零していた。
「……っ」
「馨?」
「……、め……なさ……」
「馨……?」
「い、きてて……ごめんなさい……」
彼女の唇に耳を寄せていた僕だけに聞こえた馨のか弱い小さな痛々しい声。
見ないようにしていた、見えないようにしていた。
聞かないようにしていた、聞こえないようにしていた。
考えたくもなかった。
馨に掛けられた術式の事を。
彼女が一体何を"視て"いるのかは知らないが、でもきっと僕は理解している。
馨が視ているのは、"トラウマ"だ。