じゅじゅさんぽVol.10【致死量の傷】
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「馨」
静かな声で虎杖が私を読んだ。
両の手をぎゅっと握って唇を噛みしめ、そしてゆっくりと口を開いた。
「ごめん」
たった一言。
私に謝ってきた。
「何が?」
「馨を一人で危険な場所に行かせる羽目になっちまった。俺の軽率な発言のせいで」
「……謝んじゃねえよ。オマエのおかげで早く事が片付きそうなんだ」
「でも……」
「確かに危険な場所に一人で行くってのは心細いし不安もある。が、不思議なことに私はそこまで心配はしてない。だって後ろには虎杖、オマエがいるからな」
ケラケラと笑えば、虎杖は今にも泣きそうな顔で私を見つめた。
唇を固く結び、八の字になっている眉に深く刻まれた眉間の皺。
椅子から立ち上がり、両手を伸ばし、大きな図体をした男の頭をくしゃくしゃと撫でまわし自分の胸に閉じ込めた。
驚いた様な声が聞こえたような気がしたけど、力を篭めれば素直に抱きしめられたまま大人しくなる。
「心配してくれてありがとう。すごく嬉しい」
「………」
「虎杖が一緒でよかった。こう見えて、私はオマエを頼りにしてる。だから、そんな顔すんなよな」
慰めているつもりはないけど、少しでもこいつの中にある罪悪感がなくなればいいと思った。
「……馨」
「なんだ?」
「ありがとうな」
「何が?私は何もしてないよ」
「……もう少し、このままでいてもいい?」
「甘えん坊?いいよ、」
「……抱きしめてもいい?」
「力、加減しろよ」
「………キス、してもいい?」
「駄目に決まってんだろ、調子乗んな」
「ちぇっ」
舌打ちをする男の頭を軽くはたいた。
少しは元気が出たみたいでよかった。
背中に回された虎杖の腕は、壊れ物を壊さないように慎重にゆっくりと優しく、そして温かかった。
どのくらいそうしていただろう。
暫くお互い抱きしめあい、身体を離す頃には恥ずかしさがこみあげてきた。
自然と染まる頬に虎杖は嬉しそうに笑った。
なんで笑うんだよ、馬鹿。
「俺を意識してくれたって思ったら嬉しくなった」
「……アホか」
不覚にもきゅんとしてしまった。
普段の虎杖の雰囲気が戻ったことを確認し、私は時計の針を見た。
時間は19時手前を指している。
そろそろ飯でも食いに行こうかな。
併設されているレストランに虎杖と一緒に行き、夜ご飯で腹を満たし、部屋へと戻る。
部屋に戻る時、虎杖は白い歯を見せて「また明日」と笑った。
だから私も「また明日、おやすみ」と声をかけた。
明日はもう少し有力な情報が欲しいところだ。
代表者の杉野のこと、使用されている薬のことなど。
明後日までに集まればいいけど、厳しいだろうな。
まぁ、やれることをやるだけだな。
お風呂から上がった後、五条悟に虎杖から聞いた情報と明後日にイベントが行われ私だけが参加することなど、事細かに書いて送信した。
と同時、ベッドに背中から倒れ込んだ。
自分でも気づかないうちに身体はとても疲れているようだ。
横になった瞬間、眠気が襲ってきた。
が、スマホの着信で意識は覚醒。
びくっと、肩を揺らしディスプレイを見ればかけてきた相手は五条悟。
なんだよ、と思いながら通話ボタンを押した。
「もしもし」
≪やっほ~、みんな大好きGLGの五条悟先生だよ~≫
電話の向こうの声にイラっとした。
この軽率とも言える男の雰囲気がとてつもなく嫌いだ。
「なんだよ、電話なんてしてきて。もう疲れたから寝たいんだけど」
≪心配して電話したのに、冷たいこといわないでよ。僕、泣いちゃうよ?いいの?28歳の男が大泣きするんだよ?≫
「泣けばいいだろ、勝手に。つうか、心配とか……オマエがするとかこわっ。明日雪でも降んじゃねえの?」
≪心配するに決まってるでしょ。君は大切な僕の生徒で、アイツの妹なんだから≫
急に真面目なトーンで話すからびっくりした。
五条悟のいつもと違う低い声が耳を通って脳に直接響いて、全身が震えた。
そして、気の毒になるくらい胸が抉られるように気持ちが大きく動揺した。
大切な生徒、夏油傑の妹……。
何気ないこの一言に、
心がかき乱される。
それが悔しくて、認めたくなくて、だってまるでそれは……。
違う。
そんなわけない。
そんなはずないだろ。
何度も自分にそう言い聞かせる。
無意識にスマホを握る手に力が篭った。
自分が放った何気ない一言で私が動揺しているだなんて知らない電話の向こうの男は、何かを言っていた。
だけど、何を言っていたのかほとんど何も覚えていない。
覚えているとしたら「連絡を必ずして」と言っていたくらいか。
自分がどんな返事をしたかも覚えていない。
それくらい私はこの男の声に、一喜一憂している。
紛れもなく事実であるというのに、認めたくないのは私のくだらないプライドのせい。
認めてしまえば楽になれるとはいうが、楽になれる未来が想像できない。
「嫌いだ。大嫌いだ」
嫌いなのは五条悟か、それとも自分自身か―――……。