じゅじゅさんぽVol.10【致死量の傷】
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虎杖と別れ、私は大学を後にした。
資料には、精神的にダメージを負った女性の名前と自殺をした女性の名前がリストアップされている。
一人一人聞いて回るのは時間がかかるし、何より一人暮らしをしている人が大半だ。
話を聞くためには実家に暮らしている人の方がいい。
両親からも何があったのか聞くことができるかもしれないからな。
だが……。
一人暮らしが多い中、貴重な実家暮らしの人の家を訪ねたが、どこも門前払いだった。
大学名を名乗っただけで、彼女たちの両親は声色を変え「話すことはない。二度と来るな、出て行け」と叫んで一方的に追い払われた。
そりゃそうか。
大事に育ててきた自分の娘が、鬱になったり自殺したりしたらそういう態度になってしまうのもうなずける。
これは私が立てた仮説が濃厚かな……。
胸糞悪ぃな。
行き場の苛立ちを覚えながら、私は資料に書いてある最後の家に向かうことにした。
もしこの家も門前払いされてしまったら、申し訳ないが虎杖に頼るしかない。
資料に書かれてた女性の家は千葉県の田舎に位置する場所にあった。
虎杖に千葉県に行くことだけを伝え、私は電車に乗り込んだ。
電車に揺られること約2時間。
最寄りの駅を降り、タクシーを捕まえ運転手に住所を伝えた。
10分もかからないうちに目的の場所へと辿り着き、タクシーを降りた。
一戸建ての家を見つめ生唾を飲み込む。
最後の頼みの綱。
断られたらどうしようもない。
そんな思いを抱え、私はインターホンを鳴らした。
中からインターホンの音が聞こえるだけで、物音がしない。
両親は不在、か。
平日の真っ昼間だもんな。
仕事行っている可能性はある。
最後の最後がこれか。
仕方がない、そううまくいくはずもない。
肩を落とし踵を返そうとした時。
『……はい』
インターホンから声が聞こえた。
その声は弱弱しく、今にも死んでしまいそうなほど。
私は、できるだけ落ち着いた声で扉の向こう側にいる人に話しかけた。
「私、夏油馨と言います。高橋愛美さんのご自宅でお間違えないでしょうか」
『………っ。そう、ですけど』
「愛美さんのことでお話を聞きたくてお伺いしました」
『愛美……娘についてお話することはありません……。帰ってください』
「………私は警察の関係者でも大学の人間でもありません。ただ、個人的な理由で動いています。二度と愛美さんのような被害に遭われる女性を出したくないんです。だから、お願いします。お話だけでも……」
返事はなかった。
これ以上私と話す気はないと言う事だろう。
駄目だった。
何も収集できなかった。
「不快な思いをさせてしまい、申し訳ありませんでした」
深々と頭を下げて、私は今度こそその家を後にした。
何も得られなかったことは予想外だったけど、落ち込む必要はない。
こういうことはよくあることだ。
また別の方法で聞きこめばいい。
「あの!!」
気持を切り替えた瞬間、後ろから声を掛けられた。
振り向くとそこには、50代くらいの女性が息を切らして私を見ていた。
女性は、大きく息を吐いたあと「先ほどのことで、お話したいことがあります」と言ってきた。
先ほどのことって……それってまさか。
「愛美の母親です」
「愛美さんの……」
「ここではなんですし、どうぞ家の中に入ってください」
力なく笑う母親の顔に、私の心臓はずきりと痛んだ。
丸まった小さな背中を見つめながら、私は高橋さんの家の中へと上がり込んだ。