じゅじゅさんぽVol.10【致死量の傷】
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大学近くの駅に車を停めてもらい、車を降りた。
「くれぐれも無理をなさらないように。何かあったら必ずご連絡を」
「分かっています」
伊地知さんの心配を受け取り、私は虎杖と一緒に大学へと続く道を歩き始める。
問題はどうやってそのサークルに潜入するか、だな。
そんなことを思っていると、隣にいたはずの虎杖が忽然と姿を消していた。
冷汗と同時に心臓が大きく脈打つ。
虎杖に何かあったのではないかと。
しかしそれは杞憂に終わった。
「おーい、こっち!!」
100m程離れた場所に虎杖はいた。
大きく手を振って私を呼んでいる。
虎杖の姿を見て、先ほどまで大きく脈打っていた心臓は徐々に落ち着きを取り戻し始める。
小走りで虎杖の所に行けば、虎杖の近くにニコニコと笑みを浮かべている男性と眼鏡をかけた男性がいた。
一人は明るい茶色の髪の毛にパーマを当て、耳にはどんだけピアスをつけてんだと言いたいくらい大量のピアスが付けられ、もう一人は、ワックスで黒髪をセットし眼鏡をかけた無表情の男。
「この子がそうなの?」
「そうっす!!今度のイベントに参加とかどうかなって」
「ふーん」
じろじろと私をみる茶髪の男の目が気持ち悪くて、視線を思い切り反らしてしまった。
つうか、誰だよこいつら。
「素朴な感じでかわいいね」
くすくすと笑って口説いてくる言葉に鳥肌が全身に走った。
よくそんな歯が浮くようなセリフを言えるな、コイツ!!
そのときはっとした。
虎杖の不自然は行動、こいつらの言動。
もしかして、こいつらサークルの人間か。
ちらりと虎杖を横目で見ると、虎杖は男二人と談笑しながら私の服の裾を少しだけ引っ張った。
"俺に合わせろ"
そういう意味だと受け取り、私は小さく頷いた。
「君、どこの学部?名前は?」
眼鏡をかけた男は人差し指で眼鏡のブリッジを上げ、そう尋ねて来た。
「経済学部1年の……島崎馨です」
「島崎、さんね……」
「なかなかいい子じゃん。田代さんに話しておくから今度のイベントに参加しなよ。これ、俺の名刺ね。詳細送るからLINE追加しといて」
渡された名刺には男の名前とLINEのIDが記載されていた。
まさかこんな早くにサークルメンバーと接触できるとは思っていなかった。
二人の姿が見えなくなったのを確認し、虎杖の腕を掴んで人気のない場所まで引っ張り歩いた。
「あんま危険な行動すんなよ」
「してねえよ」
「してんだろ。いきなりサークルメンバーと接触だなんて……」
「長い時間かけたらボロがでると思ったんだよ。俺、そういうの苦手だし」
「だからってな……」
「俺だって何も考えてないわけじゃない。名前も顔も覚えられたない下っ端のメンバーを演じたよ。そう言う奴って割といると思ったから。それに、オマエ何も言わなかったけど、被害者、いんだろ。しかも全員女性」
その言葉に息を呑んだ。
私はあえてそれを口にしなかったのに。
虎杖はちゃんと細部まで資料を読んだんだ。
読んだうえで、私に何も言わなかった聞いてこなかった。
「一人で危険なことに首を突っ込もうとしてるのは馨だろ。やめろよ、そういうの。確かに俺は頼りないかもしれないけど、頼ってよ。その為に俺はここにいるんだから」
「……虎杖」
「………でも、勝手に巻き込んだのは悪かったと思ってる。ごめん」
虎杖の大きな手の平が私の手を包み込む。
震えている手の温度に、私は何も言えなくなる。
資料内容を理解しているなら、先ほどの男たちの言葉を聞く限り、私はターゲットの内の一人だ。
サークル内で何が行われているのか、まだ分かっていないけど確かな事は一つ。
下手したら私が被害者になる可能性は高い。
それを理解した虎杖は私を餌として使った。
だからこそ罪悪感がこいつの中にあるんだ。
何も言わずに私を利用したことに。
項垂れる虎杖の頭を思い切りはたけば「いたっ!!」という言葉が虎杖の口から漏れる。
「謝んな、馬鹿」
「…………」
「この私を餌として利用するんだ。ちゃんとそれ相応の仕事をしろよな、"山田"」
「馨はそういうやつだよな」
口の端を上げて笑う虎杖に、さっきまで私に抱いていた罪悪感はなくなったように見えた。
「とりあえず、一緒に行動はしないようにしよう。どこでメンバーが見てるかわからねえからな。オマエはオマエで情報収集しろ。危険だと思ったら即退散、いいな」
「おっけー」
「何か情報を掴んだら、連絡してくれ」
「馨も気をつけろよな」
「分かってる」
「あとさ、」
「なんだよ、」
「俺の名字、"山田"じゃなくて"田中"な」
「どっちでもいいわ!!」
思い切り突っ込んでしまった。
真剣な顔で言うもんだから何事かと思ったけど、マジでどうでもいい。
でもまぁ、虎杖なりに私に気を遣ってくれたのかもしれない。
小さく微笑んで、私は虎杖と別れた。