じゅじゅさんぽVol.8【伏黒甚爾の願い】
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【じゅじゅさんぽVol.8】
自尊心は捨てたはずだった。
自分も他人も尊ぶことない。
そういう生き方を選んだはずだった。
だが、あの時。
目の前で覚醒した無下限呪術の使い手である五条悟を、現代最強と成った男を、捩じ伏せてみたくなった。
否定したくなった。
その根底にあるのは禪院家。
術式至上主義の禪院家では相伝術式を持っていない人間、呪力のない人間は、落伍者として人生が始まる。
だからこそ、覆せると思った。
いつもの俺なら「タダ働きはごめんだ」と言ってトンズラをこいていた。
金にもなんねえ仕事を熱心にする程真面目でもないんでね。
俺を否定した禪院家を否定することができる。
禪院家だけじゃない、呪術界も、その頂点も、最強と謂われる男を殺せば。
否定され続けた人生。
自分を肯定するために、いつもの自分を曲げた。
それが自分を否定していると言うことに気づくこともなく。
だから、その時点で、俺は五条のガキに負けたんだ。
自尊心は捨てたはずだった。
自分も他人も尊ぶことない。
そういう生き方を選んだ。
アイツが、アイツと出会って自尊心が少しだけ高まって。
ああ、これが人並の幸せなのかって思った。
アイツが笑えば俺も嬉しくなったし、アイツが泣けばどうにかしてやりたいと。
あんなに誰かを愛したのはアイツが初めてで、アイツと一緒ならこれ以上のものは必要ないと思っていたんだ。
だけどガキを産んで、アイツは死んだ。
病死だ。
俺を肯定してくれた存在が死んだ。
あっけないほど簡単に。
俺を置いてアイツは目の前からいなくなった。
俺のガキを産んで、あんなに喜んでいたのに。
泣きながら、これからは家族3人で幸せな家庭を作ろうって言っていたのに。
その泣き顔を見て、ガキを抱くオマエの横顔を見て、はじめて自分の中に生まれる言葉にできない感情が溢れたのに。
琴線に触れるってこういうことかって漸く理解できたのに。
それなのに、オマエは俺を置いて死んだ。
否定された気分だ。
オマエまで俺を否定するのか。
だからもう二度と誰かを、自分を、尊ぶことのないように。
そういう生き方を―――。
死ぬ間際。
五条のガキは言い遺すことはあるかと問うた。
ない、と答えた俺だったが最後の最後に脳内に姿を見せたのは唯一愛した女ではなく、愛した女との間に生まれた俺の血を引くガキの姿。
「2、3年もしたら俺のガキが禪院家に売られる。好きにしろ」
俺のガキ、"恵"は完全に持っている側だ。
術式の有無がハッキリしたら禪院家に売り飛ばすつもりだった。
相伝なら8、それ以外でも7はもらうつもりだったが、直毘人のジジイが相伝なら10だと言った。
ガキがどんな術式を持ってるかなんて、あと数年しないと分からないが、持ってない俺に比べたら幾分ましだろう。
俺にとってはゴミ溜めの場所だったが、術式さえあれば優遇され、扱いだって悪くはならない。
少なくとも呪霊の群れの中に放り込まれたりなど。
それに、俺を否定した禪院家に俺の血を引くガキを育てさせるんだ。
これほどまでに迂遠な嫌がらせもなかなかないだろう。
ある意味、復讐ってところか?
"恵をお願いね"
ロクデナシの俺の下で育つより禪院家に預けた方が幸せだろう。
金のためだとかただの強がりだ。
直毘人のジジイにそんな情を見せたくなかった。
だから強がった。
どうでもいいんだ。
もうどうでもいいんだ。
アイツの最後の言葉さえ守れれば。
自尊心なんてない。
自分も他人を尊ぶこともない。
ただ、ガキの幸せを。
恵まれた場所で、恵まれて生きていけるよう。
ギャンブルで負けてポケットの中でくしゃくしゃに丸めた紙のように薄っぺらい望みと願いだが。
それ以上のものは何も望まないし願ったりなんかしない。
「オマエ、名前は」
目の前で脇腹から血を流すガキにそう問うた。
俺が刺したガキは訝し気な表情をしながら「伏黒」とだけ答えた。
そうか。
禪院じゃねえのか。
売られなかったんだな。
自尊心なんて捨てたはずだった。
自分も他人も尊ぶことない。
「禪院じゃねぇのか」
否定したくなった。
捩じ伏せたくなった。
俺を否定した禪院家、呪術界、その頂点。
だけどそれももう終わりだ。
目の前にいるガキは紛れもなく俺とアイツのガキだ。
懺悔。
安堵。
安心。
肯定。
自尊心を取り戻し。
他人を尊ぶための。
自死。
「よかったな」