じゅじゅさんぽVol.5【みっともない生き様】
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「あー……、死ぬなら首吊りは辞めといたほうがいいぞ」
「え……」
「頸動脈洞から圧迫箇所がずれると苦しんで意識を失うことになるぞ。まぁ、通常の首吊りだとそんなことはないけど。それに糞尿垂れ流しになるし、ベロも目ん玉も飛び出てみるも耐えない姿で発見されるぞ」
「く、詳しいね………」
「それでもいいなら首吊りでもいいと思うぞ」
とりあえず自殺のアドバイスはしてあげたけど……。
でも、人が死ぬところは見たくない。
「……なんで死のうと思ったんだ?」
気付いたらそう、言っていた。
どうしてそんなことを聞こうと思ったんだろう。
お兄ちゃんのことがあるからか。
【この世界では心の底から笑えなかった】
と、死に際にそう言っていた事を五条悟から聞いたことを思い出す。
お兄ちゃんは死にたくて死んだわけじゃないけど、何かしらの理由があって、死にたいと思うのならその理由を知りたいと思った。
「………」
「なんて?」
声が小さくて全然聞こえなかった。
もう一度聞き直せば、男は私を一度見て視線を反らした。
「死ぬのに、理由が必要?」
「は……?」
「生きることのほうが、理由、必要じゃない?」
反らしていた真っ黒い瞳がまっすぐに私を貫く。
「しんどいし、苦しいし、全然笑えないのに、生きていく意味なんて、ないでしょ」
【この世界では心の底から笑えなかった】
お兄ちゃんの言葉とリンクし、ガツンと脳が大きく揺れた。
オマエが死んで悲しむ奴が絶対いる。
苦しい思いをする人間が必ずいる。
そんなありきたりな言葉は、コイツには届かない気がした。
「だったら、死ねばいいよ」
心ない言葉が音として出た。
「本当にそう思うなら、楽になりたいなら、今すぐに死ねばいい。私はもう引き留めない」
「…………」
「大好きな人がいたんだよ。本当に大事で、大好きな人が」
「……恋人?」
「ううん、お兄ちゃん」
見ず知らずの人間に私はなんでこんな話をしているんだろう。
助けてあげたい、というよりは置いて行かれる側の気持ちを知って欲しいと思ったのかもしれない。
「お兄ちゃんさえいれば、何もいらないって思ってたよ。そう思うくらいには本当に大好きだった。でも、生きていけちゃった。悲しくて寂しくて、涙が枯れるんじゃないかって思うくらい泣いたのに。あっさりと涙は引っ込むし、笑って生きてるし。お兄ちゃんがいなくなっても世界は何事もなく回ってて、なんかそれも寂しいし切ないし残酷だし。朝起きて寝てしまえば同じ日が延々と続いてて。……そう言うもんだよ。オマエが死んだって悲しむ奴はいるけど、それは最初だけ。あとはもう同じ日常。そこにオマエがいないだけで。人間てすぐに忘れるから。あの時流した涙と一緒に失った痛みと共に、その痛みすら忘れていくんだよ。……そうしないと、たぶん人間は生きていけないから」
「………一つ、聞いてもいい?」
「なに?」
「置いていく方と置いて行かれる方、どっちが苦しいんだろうね」
「……それは」
言葉を濁す男に、私はふっと笑みを見せた。
答えなんて分かんないよな。
だって私は置いていかれた側だし、オマエは置いていく側だし。
天秤にかけたとして、どっちに傾くかなんてそいつの気持ち次第じゃん。
「死ぬなよ。死んだら、なんにもなんないよ」
「……生きていても、なんにもなんないのに?」
「そんな事ねえよ。だってオマエ、死んだら金ロー見れねえんだぞ」
「……は?」
「知ってるか。今日の金ロー、ラピュタなんだぞ」
「えっと……」
「死ぬなら、ラピュタ見てからの方がいいって。絶対後悔するもん」
「はは、なにその引き留め方。斬新すぎない?」
「バルスって呪文聞いてムスカと一緒に死ねよ。そうしたらさ、向こうで自慢できっから」
「ふ、くくっ……。ははは!!ちょっと待って!!」
「なんで笑うんだよ。私は必死にオマエの自殺を止めてやろうとなぁ……」
死にたいなら死ねばいい。
なんて言ったけど、本心じゃない。
本心だったら私は初めからこいつに近づいていないし。
でも、心から笑えない世界で生きていくために、どうにかしてやりたかっただけ。
だと言うのに、コイツは私の必死の説得を笑いやがった。
心から笑えないって言ったくせに、笑ってんじゃん。
私の勝ちだな。
「そう、だね。そうか……。今日はラピュタかぁ」
「オマエ、ラピュタ好きか?」
「好きだけど、一番は猫の恩返し」
「マジかよ。それ次の金ローでやるぞ」
「え、本当?知らなかった」
「じゃあ、それ見てから死ねよ。そう言う風にしてったら、いつの間にかジジイになって老衰で死んでるから」
「あはは、その死に方最高だ」
目じりに溜まった涙を拭う男。
涙を流す程、笑ってくれた。
「ありがとう。少し、元気出た、かも」
「そうか、ならよかった」
「ツナマヨ!!すじこ~」
その時、私の背後から聞き覚えのある声が響いた。
振り向けば、安心したような表情でこっちへ向かってくる狗巻棘の姿。
やっべ、すっかり任務中だって忘れてた。
「高菜~」
「悪かったって。人助けしてたんだよ」
「すじこ?」
「自殺志願者。でも自殺やめるって。今日ラピュタだから」
「ツナツナ~」
「……なんで会話通じてんの?」
「細かいことは気にすんな。ゆってぃもそう言ってただろ」
「しゃけ!!」
「はぁ……」
こうして呪霊狩りは無事に終わったわけだけど。
高専に戻ったらサボっていたことが禪院真希にばれて、めちゃくちゃ怒鳴られた。
その様子を助ける訳でもなく、パンダと狗巻棘は笑って見ていて、可愛い後輩がボコられているのに酷い連中だ。
お兄ちゃんのいない世界では笑えないと思っていたけど。
私は今こうして笑っている。
お兄ちゃんのいない世界で生きていけないと思っていたけど。
私はこうして生きている。
時々、ちくりと胸が痛むときもあるけど。
そんなの大した傷じゃない。
あいつが、猫の恩返しを見るまで死ねないように。
私は、五条悟を殺すまでは死ねない。
それまでは絶対生きてやるし、殺してやる。
そういう生き甲斐ってやつを見つければ、案外人は簡単に"生きる"という行為はできる。
寂しんぼの無様でみっともない生き様。
目的を果たすまで、私はそう言う風に生きていく。