じゅじゅさんぽVol.5【みっともない生き様】
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【じゅじゅさんぽ】Vol.5
6月の梅雨の時期。
まだ虎杖と野薔薇と出会っていない頃の話。
その日私はなぜか2年の連中と一緒に呪霊狩りに出かけていた。
「……なんで?」
3人の後ろを歩きながら私は率直に出た疑問を投げた。
確か私は一人で新宿に出かけていたはずなんだけど。
「なんでって暇だったからだろ」
「暇じゃねえよ。喫茶店巡りしてたわ」
「それを人は暇って言うんだよ」
お気に入りの喫茶店を見つける旅をし1時間くらい探し歩いて漸く見つけたレトロモダンな喫茶店。
美味しいコーヒーを堪能し、気分がいいまま高専に戻ろうとした時、後ろから声を掛けられた。
ナンパだろうと思ってスルー決め込んだら、思い切り頭をはたかれた。
その力の強さを私は痛いほどよく知ってる。
あ、痛いって物理的な方じゃない。
いや、物理的にも痛かったけど。
「無視すんなよ」
「……誰ですか」
「あ"?」
「こんな怖い人、私、知らない」
「カタコトになってんぞ。オマエ今暇か?」
「暇じゃ……」
「よし暇だな。ついてこい」
え、私の声が禪院真希に届かない。
心が叫びたがってるどころか、既に声で心の声を叫んでるんですけど。
有無を言わさずに私は腕をひかれた。
呪具を持っているところを見ると、任務なんだろうな。
「お、馨じゃん。どうした?」
新宿駅に連れてこられた私の目の前にはパンダと狗巻棘がいる。
パンダが新宿にいるせい元々多い人がさらに多くなる。
ハーメルンの笛吹男ってこんな気分なのか。
そんなことを思いながら私はパンダに助けを求める。
「助けてパンダマーン。私悪い人に拉致られたのー」
「たまたま見つけたから連れてきた。コイツもいたら任務早く終わんだろ。そしたら飯でも食いに行こうぜ」
「おっ、いいね~。じゃあ早速向かいますか」
「しゃけしゃけ~」
あれ……おかしいな。
私の声が誰にも届いていないみたい。
ここだけ圏外なんですか。
電波を、電波をください。
結局私は逃げ出すこともできずに、のこのことこいつらの任務について行くことになった。
パンダがいるせいなのか、有名なラーメン店ばりに子供が並んでる。
ここは上野じゃねえ。
つうか、狗巻棘がいるのに3人で任務ってどんだけやばい案件なんだよ。
新宿駅から少し離れた場所に伊地知さんが車を止めていた。
それに乗り込み、いざ任務の場所へ。
助手席には狗巻棘が座り、残りは後ろ。
パンダを真ん中にして座席に座れば、伊地知さんが私を見た。
なんでここに?って顔してるけど、私が1番聞きたいわ。
「おい、原寸大シルバニア」
「……それ、俺のことか?」
「お前以外に誰がいんだよ」
「どんなあだ名の付け方?」
車が走ること数十分。
どんな任務なのか聞かされていない私は、任務内容を隣に座っているパンダに尋ねる。
そうしたら「呪霊狩りだ」としか言ってくれなかった。
詳しい内容を話せって言ってんだよ、こっちは。
伊地知さんに詳しい内容を聞けば、山梨県の青木ヶ原で定期的に呪霊を祓う任務があるらしく、今回それに割り当てられたのが2年だと言った。
交代制、というわけではないがルーティンがあるらしい。
「3ヶ月に一回くらい見回りしねえと、あそこはやべえからな」
「自殺の名所だし、低級の呪霊がうじゃうじゃいるんだ」
「ツナマヨ。明太子」
ある程度祓わないと樹海ではなく呪海になるってことか。
「オマエがいてくれてよかったよ。早く終わる」
「……拉致ったの間違いだろ」
「細かい事は気にすんなって。ゆってぃも言ってただろ」
「一昔前の芸人の名をだすんじゃねえよ」
ぎゃあぎゃあと騒ぎながら、私たちはいざ樹海の森へ。
ただいまの時刻は午後3時54分。
まだ日は高いが、樹海ってあれだろ。
暗くなれば幽霊が出るんだろ。
なら早く終わらせて帰ろ。
「4人まとまっても意味ねえから担当区域決めて、さっさと終わらすぞ」
「え"っ……」
「どうした」
「………いや、あのさ。せめて二手に別れね?ほら、だってあれじゃん。何かあったら困るだろ」
「困る事ねえだろ。低級しかいねえんだから。もし準一級以上がいたら速攻で逃げればいい話じゃねえか」
うぐ……。
仰る通りです……。
「高菜~。ツナマヨ?」
「なわけねえだろ!!怖くねえし!!全然平気だし!!」
「……怖いのか」
狗巻棘がにやにやと笑っておちょくる。
それに乗っかってしまいつい怖くないと言ったが、ぶっちゃけ怖い。
でも今はまだ明るいから秒で祓って帳から出よ。
入り組んだ森の中を歩くこと数分。
30秒に一回の頻度で呪霊が襲ってきては祓って襲ってきては祓ってを繰り返す。
3ヶ月放置しただけでこんなにうじゃうじゃ溜まるもんかね。
なんか、昔流行ったなめこのゲームみたいだな。
放置すれば放置するだけ繁殖しやがって。
ある程度祓っただろうか。
鍵が少なくなってきた。
全部なくなる前に誰かと合流したいな。
スマホを取り出し、とりあえず禪院真希に電話を掛けようとしたその時。
視界の端っこに何かが映った。
自分でも驚くほどに、心臓が早くなる。
口から出そうだ。
心臓の音が耳元で騒ぐ中、私はゆっくりと視線をそちらへ向ける。
私の視界には、一人の男性が挙動不審気味にフラフラと歩いていた。
恰好からみるに、20歳前後。
その顔色は見るからに悪い。
自殺志願者、か。
放っておこうと思ったけど、脳裏に浮かぶ最悪な光景を想像し、おえってなった。
夢見悪い事したくないから、その男の後ろをついて歩く。
迷いなくどんどん奥へと進んでいく男。
待て待て待て。
そんな奥へ行くな、迷子になる。
「おい!!待てって」
「……」
「ちょ、待てって言ってんだろうが!!」
「…………」
どうやら今日という日は、私の声が届かない日らしい。
3G時代のスマホじゃねえんだから、回線くらいちゃんとしろや!!
足場の悪い地面を蹴って、そいつの肩をぐっと掴んだ。
「……え?」
「やっとこっちみた……。圏外じゃなくてよかった……」
「けん、がい……?」
「こっちの話だから気にすんな」
死んだ魚のような瞳は、どこまでも黒くどこまでも淀んでいる。
本当に死にたい人間って、こんな顔になるのか。
背筋がぞっとした。
「オマエ、ここで何してんだ?」
当たり障りのない質問を投げかけると、男はだんまりを決め込む。
伏せた瞳が小さく揺れているところを見ると、やっぱりそうなんだと理解できる。