【伏黒恵】幼い熱に浮かされて
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伏黒は、キスをするときいつも目を閉じている。
軽く唇を重ねるだけのキスをしながら、馨は、わずかに皺が刻まれた伏黒の眉間あたりを無心で見つめていた。
放課後の教室。
窓から差し込む太陽の光は次第に濃いオレンジ色に変わっていく。
早く帰らなければ、もうすぐ夜がやってくる。
今日は任務もなく授業も滞りなく終わった。
にも関わらず教室に残り、課題をやっている恋人の伏黒を見つけた。
その場の流れで一緒に課題をやったところ、これまたその場の流れでいい感じの雰囲気になってしまい、今に至る。
まあ、最近ではよくあることである。
ちなみに、付き合って1年以上になるが、未だきちんと身体を重ねたことは一応、ない。
「……?どうした?」
唇をわずかに開き、さあ舌が挿入されますよ!という時になってやっと馨の反応が鈍いのに気付いたのか、伏黒がキスを止めた。
怪訝そうな顔をしている。
無理もない。
いつもの馨はもっと積極的でグイグイくるから。
「や、別に」
「嘘だろ。今度はなに馬鹿なこと考えてたんだ?」
2人は中学の頃から付き合っている。
鈍感な伏黒でも、馨が上の空の時くらいは察することができるようになった。
「伏黒ってさ、キスするときいつも目閉じてるなって思って」
「……そう、か?」
本人は自覚がないらしい。
伏黒は目線を横にずらし、少し考え込んだ。
「そう言うお前は、いつも開けてんのかよ」
「うん。まあね」
「は?そっちのほうがおかしくね?」
「別におかしくないよ!ちょっと切なそうな顔する伏黒はそそるよ!」
「そういう問題じゃないだろ。っつーか、そういうこといちいち言うなって」
伏黒は少し怒っているようだ。
キスが中断されているからかもしれない。
「じゃあさ、伏黒も目を開けてキスしてみなよ。新境地開拓してみよ?」
そう言って伏黒の白い首に両腕を絡ませてせがむ。
本当は、馨だって、キスの続きがしたいのだ。
「……わかった」
もどかしいのは彼も同じなのか、珍しく素直に提案に従う。
「その代わりお前は目を閉じろよ」
「なんで?」
「なんでじゃねぇ。普通に考えて目が合ってるっておかしいだろ 」
「伏黒の言う普通は、一体全体どこから仕入れた知識なわけ?」
「いちいちうるせぇな。いいから閉じろ」
「はいはい」
馨はくすくすと笑った。
簡単にムキになるこの恋人は、からかい甲斐があって面白い。
ちゅ、と唇が再び合わさる。
伏黒も余裕がないのか、んっ、と喉の奥で小さく声を漏らして、馨に覆い被さった。
背中越しに冷たく固い机を感じながら、馨は首に回した腕の力を少しだけ強めた。
下唇を軽く噛まれると、びりびりとした弱い電気が身体を駆け巡る。
「っ……ふ、」
馨は言われた通り目を閉じていた。
視覚が遮断されると、いつもより感覚が研ぎ澄まされるせいか、伏黒の荒くなる息づかいが余計に近くに聞こえる。
息を吸おうと口を開けたところに舌が入り込んできた。
熱いぬるっとした感触に驚いて目が開いた。
瞬間、伏黒と目が合ってしまい、思わず吹き出す。
「……ぷははっ、ちょ、伏黒~変な顔すんなって~!」
「なっ...!」
伏黒の顔が一気に真っ赤になった。
「おい馨、ふざけんなっ!」
「だってさ、目閉じないように頑張ってるせいですんごい怖い顔してたよ⁉︎ここんとこめっちゃ皺よってた!」
馨は自分の眉間を指差して笑う。
「お前が目開けろって言ったんだろ!」
伏黒は馬鹿にされた恥ずかしさと怒りで般若のような顔になっている。
「ったく、台無しじゃねぇかよ……」
そう言いながらも、台詞とは反対に何故か伏黒の右手はするすると馨の制服の中へと侵入してくる。
「……え?ちょちょ、」
馨は予想外の展開に身じろぎするが、伏黒の鍛えられた左手でがっちり腰を固定され、逃げることができない。
「ど、どしたー、恵ちゃん?興奮して勃起しちゃった?」
少し焦りながらもおちゃらける馨に、伏黒はうるせぇ、とだけ呟いて器用に片手でブラのホックを外した。
ひんやりとつめたい手で背中を撫でられると、ぞわぞわと鳥肌が立った。
「……ぁ、こら伏黒っ」
「……確かにな」
形勢逆転した伏黒は嬉しそうにニヤリと笑った。
「キスしてるときの切なそうな表情は、そそったな」
「うわ、サイテー!けだもの!女の敵!」
「……そこまで言うかよ。」
大きな手が馨の胸に優しく触れた。
ぴくん、と馨の身体が跳ねる。
「……だいたい、俺達付き合って1年以上経つんだから、そろそろしてもいいだろ」
何をするのか、なんて聞かなくてもわかりきっている。
「やだやだやだ!前やったときめっちゃ痛くて指すら入らなかったじゃん!無理!」
馨の涙ながらの抗議に伏黒もムっとして手を止める。
「あれは中学の時だったろ。今度は大丈夫だ」
「何を根拠に言ってるの!?なんでそんな前向きなの!」
「やってみなきゃわかんねぇだろーが」
「わかるよ!今ではだいぶましになったけど、ベッドの上では昔みたいにヤンキー気質のやんちゃなプレイスタイルなんでしょ!?」
「んなわけあるか」
伏黒も流石にショックを受けたのか馨を固定していた腕を緩めた。
すかさずするりと逃げて距離をとる。
「あ、図星なんだ」
今度は馨がにやっと笑った。
伏黒は俯いてわなわな震えていたが、やがてぽつりと「……て、テクニックは確かだし」と呟いた。
「は?テクニックってなに?どこで磨いてきたの?どこの誰と?てか、自分で言っちゃう!?なになに?針の穴を通すように正確にポイント突いちゃうんですかぁ!?私に絶頂の景色見せてくれるんですかぁ!?」
「……お前頼むからそういう発言は余所ではすんなよな...」
流石に馨の品のない発言に萎えたのか、伏黒は右手を額にあてて大きなため息をついた。
「……なんかすげー疲れた。今日はもう帰る」
馨の腕を引いて抱き起こし、乱れた机を軽く片付けて、伏黒は教室のドアを開けた。
こもった室内に冷えた空気が入り込んでくる。
「あれ?中学のリベンジしなくていいの?」
外されたブラを直しながら、馨は拍子抜けして聞いた。
「また泣かれたら嫌だからな。大体、こんないつ誰が来るかもわかんないところで初めてなんてお前がかわいそうだ」
行くぞ、と素っ気なく歩き出す伏黒の背中をみて、あ、ばれてたんだ、と気付いた。
鼻の奥がツンとしてくる。
ふざけていたけど、本当は怖かったのだ。
中学の時、伏黒に半分無理矢理押し倒されたとき以来、馨は身体を求められるのに怯えていた。
あの時最後までいかなかったものの、馨を傷つけてしまったことを伏黒も後悔していたのだろう。
だから今までずっと我慢しようとしてくれた、待とうとしてくれていた。
「伏黒っ」
馨は思わず目の前の背中に抱きついた。
「ありがとう。私、いつか平気になるように努力するよ」
ごめんね、と呟いた馨に、伏黒も「悪かったな」と小さく返した。
2人で並んで寮までの短い距離を歩きながら、ん、と馨が左手を差し出すと、伏黒も無言で指を絡ませてくる。
こういうとき、馨はあぁ、大事にされてるんだなぁ、としみじみ思う。
「ね、伏黒」
馨はにこにこと笑顔を向けて言った。
「明日の任務、頑張ってね」
「?何だ急に」
と、伏黒は眉を潜めて答えた。
本人は気付いていないみたいだが、伏黒は高校に入ってからとっても優しくなった。
人を理不尽な目に遭わせる傲慢さが許せなく不良をボコってた中学の頃、伏黒は姉である津美紀にも何かが許せなく、何かに苛立っていた。
馨に対しても、乱暴な恋愛を押し付けていた。
今の伏黒がこんなに穏やかで優しくなったのは、姉が呪われ自分の幼さを自覚し、同級生の虎杖や釘崎と出会い、相手を気遣うことを覚えたからだと、馨はわかっていた。
多くの善人が平等を享受できる様に不平等に人を助ける伏黒は格好いい。
だから、伏黒が幸せとなってほしいと思う「善人」を救って、どんどん格好良く、優しくなってほしい。
そしたらーーー。
「そしたら、飛びきり優しい伏黒とロマンチックなセックスしたいな!」
「セッ……⁉︎」
天使のような笑顔の馨から飛び出した衝撃発言に、伏黒は一瞬白目を向いた。
「…… 馨、頼むから最低限の恥じらいだけは忘れないでくれ」
「はは、気を付けまーす!」
馨はふざけて敬礼をしてみせた。
確かに、伏黒が飛びきり優しく格好良くなるならば、私も釣り合うようにおしとやかな女性にならなければなるまい。
いまはまだ遠い未来だけど、いつかきっと、呪術界で誰もが羨む美男美女のカップルになってやろう。
「その時までは、お預けだね!恵ちゃん!」
繋いだ手をぶんぶんと振り回しながら、馨は上機嫌に鼻唄を歌った。