【五条悟】死にたがり女子と変態最強呪術師
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どうしてこうなったんだろう。
仙台駅の看板の、オレンジ色の「台」の文字の下で、私は傘を差して突っ立っていた。
パラパラと小雨が頭の上で音を立てている。
手持ち無沙汰からポケットに手を入れたけれど、そこには何も入っていない。
そうだ。
スマホは昨夜コンクリートの上で3つに割れてしまったんだった。
「やぁ、お待たせ〜」
待ったー?と口調だけは可愛い男性の声がして、振り返ると五条悟が立っていた。
紺色の折りたたみ傘を差して、右手を小さく振っている。
「……ほんとに来たんですね」
驚いてそう言うと、彼は「冗談だと思ってた?」と爽やかに笑った。
その笑顔に対して、冗談だと思ってました、と心の中だけで答える。
正直言うと、大の大人がわざわざ平日の朝10時に女子高生である私に学校をサボって駅前に来てくれだなんて言うだろうか。
というか、この人は仕事大丈夫なんだろうか。
そもそも、この人は社会人なのだろうか。
目隠ししてるし髪の毛真っ白いし胡散臭いし身長高いし足長いし。
だから半信半疑で待っていたのだ。
「ってゆうか、明るいとこで見ると結構可愛いじゃん」
私の傘を軽く摘んで、下から覗きこんできた彼は、「君、高校生?何年?」と聞いてきた。
「1年生です」
「名前は?」
「……椎名馨」
「馨ちゃんね。今日はよろしくっ」
ダブルピースをしてまるでデートでもするかのようなノリに、「あの、」と思わず口を開いた。
「あの、本当に行くんですか?海」
「え?行くよ。だって死にたいんでしょ?」
「あ……いや、まぁ」
そうですけど、と口ごもる。
こんな真正面から確認されると、なんだか間抜けな気がしてしまう。
「だぁいじょうぶ!そんな身構えなくてもいいよ」
僕に任せて!と私の肩に手を置いた彼は、「パルコとエスパル、どっちがいいかな?」と駅前のファッションビルの名前を出してきた。
あれ、やっぱりデートと勘違いしてないかこの人。
「海に行くんじゃないんですか?」
「行くよ。だけどその前に、色々準備しなきゃでしょ?」
「準備、ですか?」
わけが分からず尋ねる私の背中が「その通り!」と力強く押された。
抵抗できずに、足が前へと進んでいく。
「美しく死ぬためには、それ相応のお洒落をしないといけないでしょ?そう思わない?」
どこか楽しそうに鼻歌を歌う機嫌が良さそうな五条悟という男性。
そのハミングを聞きながら、怪しくなったら逃げよう、と心の中で私は思った。
突然だけど、ここで私の特技を披露したいと思う。
中学生から磨きに磨き上げた特技、それは、人間観察。
自分で言うのもなんだけど、結構見る目はある。
そんな私から見た五条悟は。
プレイボーイな女キラー。
移り気で、手癖の悪い浮気性。
という第一印象を受けた。
◆◆◆
「うん、僕の思った通りだ。すっごくよく似合ってる」
試着室のカーテンを開けた私を見て、五条悟はにっこり笑った。
「別人みたいに可愛いね、一瞬隣のカーテンと間違えたかと思ったよ!」と大袈裟に褒められるが、騙されるんじゃない、と自分で自身に言い聞かせた。
"五条悟被害者の会"なるものが存在すると勝手に偏見を持ち、こいつの褒め言葉は全て嘘だと思わなければと警戒心を張る。
「五条さん、この子、五条さんの妹さん?」
「違うよミカさん、この子は親戚の子だよ」
現に彼は私が着替えている間に、ショップ店員のお姉さんと名前で呼び合う仲になっていた。
「違います。赤の他人です」と言おうとしたけど、「そーなんだー」とつけまつげを揺らして私をじろじろ見ている店員さんの、腰辺りを軽く撫でて五条悟は何かを耳に囁いた。
途端に頬を染めた彼女は「やだ悟くん、まだお昼前だよ」と肘でつつき返しいつの間にか苗字呼びから名前呼びに変わっている。
なんなんだこれ。
カーテン閉めてもいいですか。
「でも黒いワンピって正直どうなの?5月にしては重くない?」
うちじゃ全然売れてない服だよ、と私を見やる店員ミカさん。
そうですよね、と仏頂面で頷く私に、このブラックワンピースを選んだ男は「もー、わかってないなぁ!」と一人両手を広げて呆れてみせた。
「黒は女を美しくする色だよ。そして、赤は魅力的な大人の色」
そう言って、赤いカットソーを着ていた店員さんの肩を抱いた。
「ね、ミカさんもそう思うでしょ?」
「ちょっと悟くん、親戚の子が見てるんですケド」
「僕は気にしないよ。はい、これで一括でお願いね」
「ここは私が建て替えておくから、次会う時に利子付きで返して頂戴」
「会うための口実作るのうまいねぇ〜。利子付きってまさかイケナイ大人のアソビだったりする?」
「さぁ。それは会ってからのお楽しみってことで。これ、私の連絡先。待ってるわ」
店員さんは小さなメモを渡すついでに五条悟の手まで握って、真剣な瞳で彼を見つめる。
美容室でも、靴屋でも見た同じ光景の繰り返しに、私は心の中で深いため息を吐いた。
これ、"被害者の会"じゃなくて"同じ穴の狢の会"の間違いだった。
深くお詫びして訂正させていただきます。