【五条悟】死にたがり女子と変態最強呪術師
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『この手紙があなたの手に落ちる頃には、私はもうこの世にはいないでしょう。とっくに死んでいるでしょう』
真っ暗な夜の教室で、月明かりを頼りに一人でいた出だしの一文。
たまたま座った机に入っていた、知らない誰かの現代文の教科書からパクってみた。
その下に私が続けた文章は、両親への謝罪の言葉と自殺の理由とうんたらかんたら。
うん。なかなか上出来。
「……よし、っと」
最後の見直しを終えて、その紙切れを4つに折って制服のポケットに入れた。
机から立ち上がって、窓に近付く。
「4階からちゃんと死ねるかな……」
カラカラカラ、と軽い音を立てて開いた窓から下を見下ろす。
普段授業を受けている2階の教室から見るより当たり前だが地面が遠い。
けれど高さが微妙だから、打ちどころが良ければ死ねるし悪ければ朝までのたうち回る羽目になるだろう。
自分でも馬鹿な博打だとは思うけれど、我らが学び舎は4階建てで、ここが一番高い場所なのだ。
知らない3年生の教室の、知らない人の机で遺書を書き、今夜私は飛び降りる。
死ぬのは怖くない。
だけど、痛いのは少しだけ怖かった。
窓枠に乗せた両手にゆっくり体重をかけると、両足の爪先が床から離れた。
頭が窓の外へと突き出て、夜風が私の髪を揺らしていく。
身体を前へと倒しながら、さようなら、と小さく呟いた。
その別れの言葉に返事をするかのように、月が雲の後ろに隠れた。
見下ろす世界の明度が下がって、固い地面と夜の闇との境界線が曖昧になる。
何もかもが暗くてよくわからない。
せめて、頭から落ちよう。
静かに瞼を閉じた。
さようなら、私の世界。
さようなら、お父さんお母さん。
さようなら、さようなら。
だけど重心がどんどん前へとずれて、お腹が窓枠に乗って、いよいよ落ちるぞと思ったそのとき。
どこからか口笛が聞こえてきた。
陽気で軽快でどこか哀しく懐かしいその音色。
不思議に思って目を開けると、ちょうど真下を黒い人影が通りすぎようとしていた。
あ。
と思った瞬間。
胸ポケットに入れていたスマホがするりと闇の中へ飛び出した。
あ、あぶない。
あの人にぶつかーーー。
「ストップ!!!!」
咄嗟に大声を出していた。
ピタリと止まる人影。
直後に、スマホが人影に当たった。
ような気がした。
「んー?なに?」
目の前に突然落ちてきた物体に驚きもしないその人影は、飛び散ったスマホの破片を見て天を仰いだ。
それから、4階の窓から山村貞子ばりに上半身だけを出している私を見つけて、「わぁ、びっくりした」と声を上げた。
びっくりしたようには見えないんだけど。
「え?何してんの?」
「何って……」
予想外の出来事に私は足を浮かしたまま、暗くて誰かもわからないその人の質問に馬鹿正直に答えてしまった。
「飛び降り……ですけど」
「飛び降りぃ?」
あからさまに「うわ、めんどくさっ」みたいな声を上げたその人は、まじかぁ……と言った感じで頭をぼりぼりと掻いた。
嫌な場面に遭遇させてしまったのは申し訳ないけど、だったら早くこの場を立ち去ってほしいと思い、さっさと済ましちゃおうとさらに体重をぐっと前にかけた。
そしたら盛大な舌打ちと共に「ちょっとそこ動かないで!」と止められた。
「お……僕が真下にいるのに飛び降りる気?下敷きになって死んじゃうよ、僕!飛び降りなんてやめたら?」
「やめません。ほっといてください」
「そう思ったけど気分変わっちゃった。この状況でほっとけるわけないよねえ」
「知らないですよ。アナタ一体誰なんです?」
さっきまでめんどくさそうな声してたくせに。
そう思ってうんざりしながら尋ねると、「GLGの五条悟ですっ⭐︎」と、騒がしく黒い影が動く。
なんだろう、この胸の奥から湧き上がるイラっとする感じは。
というか、本当に誰。
「とにかく、飛び降りなんてナンセンスなことやめなよ。身体がぐちゃぐちゃになるんだよ?」
「別にいいです。もう覚悟はできてますから」
脅しなんかで気持ちが変わるほど、私の決意は弱くなかった。
マザー・テレサの教訓じみた話をもってしたって、今の私は止められないだろう。
そう思っていたけれど、頭が地面と垂直になって、バランスを保てなくなる直前に聞こえてきた声に私の気持ちは変わってしまった。
「飛び降りなんて死に方、君には相応しくないよ」
「え?」
「どうせ死ぬなら、入水自殺にしたらどう?」
その発言に驚いて、両足がストンと床に戻った。
なんですと?と真下の人影に目を凝らすと、ナイスなタイミングで月が雲から顔を出した。
青白い光に照らされて、ようやく相手の姿が見えた。
「海に行って、身投げをするんだよ!」
月明かりの下でそう叫んだ目隠しをした真っ白い髪をした男は、まるでバルコニーに両手を伸ばすロミオみたいに私に向かって手を差し伸べていた。
「女の子なら、死ぬ間際まで美しくあるべきだ!」