【夏油傑】→→→←↑
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「伝わってる伝わってる。大丈夫だよ」
「全っ然大丈夫じゃないです。待ってください。ちょっと今からどのくらい先輩のことが好きか、伝える方法を考えますから」
「…………………………うーん」
静かにしてくれるなら、と落とされた呟きを許可と受け取って、私は腕を組んで考え始めた。
どうしたら、私がこんなに先輩のことが好きってわかってもらえるんだろう。
自分でも気持ちを抑え切れないほどに好きなのに、それが全て向こうに伝わっているわけがない。
もうほんとにほんとに好きなんです。
好きって気持ちがいくら声に出しても無くならないくらい湧き水みたいに胸から溢れてくるんです。
「……そうか」
わかった。
2文字しかないから駄目なんだ。
「先輩はの気持ち、今から歌で表現しますね」
「えっ?」
「げっと〜せんぱ〜い〜のぉ〜♪」
「ちょっ、ストップストップ‼︎」
大きく息を吸って歌い出すと、先輩がベッドの上まで飛んできた。
「なんなの馨、私の邪魔をしにきたの?」
「違います。先輩を愛でに来たんです」
「だったら静かにしてくれないかな?」
いい子だからさ、と大きな手が私の頭を撫でた。
その優しい手つきがくすぐったくて、ふふ、と笑いが溢れてしまう。
「夏油先輩」
「なに?」
「ぎゅーってしてもいいですか?」
「………………ちょっとだけなら」
降参、と両手を上げた先輩に思いっきりの力で抱きついた。
抵抗しない身体はベッドの上にぼふんと倒れる。
ああ、私、この人のことが大好きだ。
「…………夏油先輩」
「んー?」
「私、先輩と別れたくないです」
「なんでいきなりそんな話するの」
「なんとなくです」
寝転がったまま先輩の胸に耳を当てると、脈を打つ心臓の音が聞こえてきた。
18年間、止まることなく働いてきた偉い奴。
「………………私、死ぬ時も先輩と一緒がいいな」
「えっ………。こっわ、ヤンデレ?」
「ヤンデレじゃないです。でも、別れたくないって思っててもいつかは離れ離れになるんですよね」
「いつかは、ね」
「もし、先輩が先に死んだら私、誰とも付き合いませんから」
「嘘をつくんじゃない。寂しがり屋のくせに。私が死んだらさっさと良い人を探して幸せになりなさい」
「お断りします。おばあちゃんまで独りで生きて、天国で先輩にドヤ顔してやります」
頭を撫でられながらそう言うと、心臓の音と一緒に「じゃあ、私も」と身体の内側で響く声が聞こえてきた。
「馨が先に死んだら独りで生きていこうかな」
「駄目ですよ、それは」
大好きな匂いのするシャツに額を押し付けて、私は言った。
「先輩は幸せになってください。私が隣にいなくても」
「そうなったらお前、嫉妬するでしょ?」
「しますよ。でもいいんです。幸せになってくださいよ」
長い長い赤信号の前に立って、行き交う車を一人で眺めている先輩を想像したら涙が出てきた。
先輩の胸に顔を寄せる振りをしてこっそりシャツで涙を拭いていたら、鼻を啜る音でバレたのか「げ」と低い声がした。
「何やってんの、汚いな」
あーあー、と起き上がった先輩はどういう訳だか私の上に覆い被さって、「どうした馨」と優しく頬を撫でてくる。
「悲しくなっちゃった?」
「………………は、い」
さっきまでバカみたいに喋っていたのに、今は胸がつっかえてしまって言葉にならない。
黙ってしばらく泣いていたら「しょうがない子だなぁ」と鼻で笑う声がした。
「まぁでも、おかげで気持ちは伝わった…………かな?」
そう言って
私の耳たぶを優しく噛んで先輩は甘い声で囁いた。
「私も好きだよ、馨」
「……………………っ、夏油先輩」
「んー?」
「それ、反則です……」
同じ言葉のはずなのに、どうしてこうも破壊力が違うのか。
顔を覆って悶える私の衣服が勝手にもぞもぞ動き始める。
「ほんっと、かわいいなぁ」と吐息混じりの独り言が聞こえた直後、心臓に一番近い場所にキスが1つ落とされた。