【夏油傑】→→→←↑
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「夏油先輩」
「んー?」
「好きです」
「んー……ありがと」
「……‼︎好きです、好き!」
「うん」
「先輩のこと、すっごくすっごくす〜っごく!す」
「あのさ」
わかったから、と勉強机に向かっていた先輩が振り向いた。
正面にある大きな窓によって切り取られた夏の青空。
それを背景にして困ったように少しだけ唇を尖らせる先輩にうっかりきゅんとしてしまった。
好き、と声に出てしまった。
「なんなの、馨構って欲しいのかい?」
「違います。そう言う意味じゃないんです」
勉強机から立ち上がり、こちらのいるベッドの上に来ようとする先輩を手近にあったクッションで慌てて押し返した。
「そう言うんじゃないんです。ただ、本当に好きだなって思って……」
おっかなびっくりそう言うと、先輩は無言のまま首を傾げて机に戻っていった。
椅子に座り直すその背中に向かって、好き好き好き、と視線の弾丸を打ち込んでいく。
ああ、夏油先輩、大好きです。
長い髪の毛を纏めたお団子頭を眺めていたら胸の奥をトン、と優しく押されたような気持ちになる。
私の恋人がこんなに素敵で大丈夫なんだろうか。
格好よすぎて、じっとしてなんていられない。
そろりとベッドから降りて勉強机に近づく。
報告書に文字を書いている横顔を後ろから覗き込むと「何?」と先輩が尋ねてきた。
「なんでもないです。気にしないでください」
「そう言われても、気になるんだけど」
「いいえ、気にしないでください。私見てるだけですから」
「あのねぇ……」
集中できないんだよ、と。
切れ長の瞳が向けられてまた胸がきゅんとなる。
ああ、先輩、大好きです。
「好きです」
心の中で言ったつもりだったのに、知らないうちに口から出ていた。
「好き、先輩。好き」
「それ、さっきも聞いたよ。何回言うの」
「でもだって、本当に好きなんです」
「好きって言われて私はなんて返せばいいの?」
「別になにも返さなくていいです。私の独り言ですから」
「独り言ねぇ……。じゃあ、ちょっと静かにしようか」
その呆れたような顔まで私にとってはツボだった。
だけど懲りない私に「報告書と申請書を書くのに邪魔だから」と、魔法の言葉がかけられる。
休日を返上してまでこの間の任務の報告書と取り込んだ呪霊の申請書を提出しなければいけない先輩に、それでも構わないと押しかけたのは私の方だった。
「わかりました」と小さく言って、背後のベッドにダイブした。
「その"好き"って言うやつだけど」
短い沈黙の後、先輩が背中を向けたまま話しかけてきた。
「少し控えて貰えないかな」
「えっ、なんでですか」
「言い過ぎだから」
「言い、過ぎ……?」
予想外の返しに固まってしまった。
言い過ぎとはどう言うことだろう。
好きという気持ちを素直に伝えて、それがどうして駄目なんだろう。
「何回も口にすると、言葉が軽くなっちゃうよ」
報告書を書きながら先輩は言った。
「有り難みがなくなる、っていうかさ」
「有り難み……」
「そ、有り難み」
何も言い返せなかった。
そんなもののために私は好きって言ってるんじゃないんです。
夏油先輩。
私はただ自分の中に生まれた気持ちが抑え切れなさすぎて、外に吐き出しているだけなんです。
ほんとにほんとに、ただの独り言なんです。
「…………」
「拗ねちゃった?」
「………拗ねて、ないです」
「ん、それならよろしい」
「夏油先輩。私の気持ち、どうやって発散させたらいいんですか」
「さぁ、知らないよ。他のことをしていればいいんじゃないの」
「他のことって……」
ベッドの上から部屋を眺めた。
先輩の部屋は何もない。
物はあるけど、私の暇を潰せるものは何もない。
「私たち、付き合ってどのくらい経つと思う?」
依然こちらを向かないまま、先輩が私に尋ねてきた。
「もうすぐ9ヶ月です」と言うと「だよねぇ」と、のんびりした声が返ってくる。
「そろそろ卒業してもいいんじゃないのかな」
「何をですか?」
「その、私にベタベタなところ」
「面倒な彼女ですか、私って」
「面倒じゃないよ。ただ、言わなくても伝わってるから」
「伝わってないですよ」
重思わず先輩の方に身を乗り出して言い返した。
「絶対、伝わってないです」
シーツの上に両手をつくと、小さな音でベッドが軋んだ。