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ニュースでは人質の安否の心配をするキャスターの声が流れる。
警察は何度も犯人に大人しく投降するようにと呼びかける。
人々はただただこの事件の行く末を見守り続ける。
状況は依然として不明なまま心臓を冷やす緊張だけが続いていた。
警察の到着に、硝子は何を思ったのか。
外ではどんな風に騒がれているか知らないが、拳銃を手にし人を脅して銀行の金で逃げようとした。
それはつまり銀行強盗がやったことと同じ。
逃げる気はさらさらなかったが、一時の感情で何もかもが崩れ、拳銃を静かに降ろし、小さな声で語り始めた。
「若い頃は働くのが嫌いだった。なんのために働くのか。自分の自由な時間はいつ取れるのか。辛い仕事、人間関係、早く定年退職したいと思っていた。だけど、定年を間近に迎えるとそれすら臆病になっていた。仕事を辞めてその後毎日どうするのか。今まで粗末に扱ってきた労働は、もうすっかり自分だけの世界を築いてしまっていた。私は定年後、一体何をして生きていけばいいのか。私の相手は一体誰がしてくれるのか。私の今の気持ちはまるで、どこかに逃げ出したい中学生のような。私は逃げ場所を探し求める」
そう言った証拠は、再び拳銃を構えた。
甚爾は直哉に人質である伏黒を連れて先に逃げろと指示を出した。
「動くな!!」
「慣れてねえ武器を使うんじゃねえよ‼」
甚爾はそう言うと、どこに隠し持っていたのか拳銃を硝子に突きつけた。
「おい、そいつ連れて表出て車かっぱらってこい」
何か言いたそうに口を開く直哉だったが、何も言わずに伏黒を連れて外へと逃げだした。
それを逃がすまいと硝子は拳銃の引き金に指をかける。
甚爾は二人の逃走を手助けするように出口を塞ぎ、そして。
乾いた音が鳴り響いた。
外では拳銃の音に驚いた野次馬たちの悲鳴やリポーターの叫ぶような報道、警察の怒鳴る声で混沌としていた。
しかし、中はそんな混沌とした外とは違い静寂で包まれていた。
その静寂を破ったのは、硝子だ。
「これは……この銃は……」
「あー、いってぇ」
「なんで、なんで撃たれたのに、無事なんですか」
鳩尾辺りをさする甚爾に真依と硝子は困惑の色を隠せない。
「あなた……あなたはっ!!」
「どうしたよ、支店長さん。玩具の銃なんか握りしめちゃってよぉ」
ケラケラと笑う真希。
硝子は膝から崩れ落ちた。
一世一代の勇気を振りしぼった結果が、これだ。
「BB弾か。意外といてぇな」
「とか言って。平気そうな顔してんじゃねえかよ」
甚爾と真希は顔を見合わせるとにやりと笑った。
項垂れる硝子の前に真依は近づいた。
「良かったです。支店長が犯罪者にならなくて。よかったです」
何度も何度も。
硝子に言い聞かせるようにそう言った。
再び静寂に包まれる銀行内だったが甚爾の「これからどうすんだよ」という一言に、硝子はゆっくりと立ち上がった。
「私は、自首します」
「……支店長」
「こういうとおかしいけど、満足してるんです。ものすごい興奮が心地よい快感となって私の中に残っているんです」
「別にアンタが罪を被る必要なんてねえだろ」
真希は床に転がる2億の入ったバックを肩にかけた。
「何もしてないだろ、アンタは。最期まで人質だっただけ。銀行強盗しようとしたのは私と……アイツの二人だけだ」
「そんな……そんなわけには!!」
「いいんじゃねえのか、それで」
甚爾もまた硝子に向かってそう言った。
そして今度は真希に向かって言葉を投げる。
「オマエはこれからどうすんだよ」
「私?もちろん逃げるに決まってんだろ、どこまでも永遠に」
「はは、だったら俺と同じだ。どうだ?一緒に逃げねぇか?」
「は?」
「お互いに人質がいた方が逃げやすいだろ」
「……水風船のやつとか?」
「ああ。玩具のピストルのオマエと」
「あの。私も連れて行ってもらえませんか?」
「真依さん⁉」
突然の申し出に真希と甚爾は真依を見た。
「迷惑でしょうか、私が人質役では」
「何を言ってるんだ!!」
「支店長はここに残ってください。そして他の従業員やお客さんを解放してあげて下さい」
真依の言っていることを理解できない硝子だったが、銀行強盗の二人は笑って「いいんじゃねえの?3人で逃げようぜ」とその提案に乗っかった。
「どこまでも逃げようぜ。車に乗って空港まで行って。この金を使えばどこまでだって逃げられる」
「入り口には警察が集まって来てる。どうする?早く決めな」
「違うところから行こう」
「違うところ?」
出口は正面のここにしかない。
だが、真希は口角を上げ裏口へと回った。
従業員だけが使える出口。
「さぁ、行こうじゃねえか!!出口へ!!!!」
「EXIT」と書かれた扉のドアノブを回し、真希は勢いよく開けた。
次の瞬間、裏を張っていた警察の一人が真希に発砲をした。
弾丸は真希の胸を貫き、彼女はそのまま地面に倒れた。
遠い意識の向こうから騒がしい声が聞こえるが、徐々に何も聴こえなくなり、そしてゆっくりと瞼を閉じた。