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「あ、やべ」
自分のミスでサリンの入った袋を握りつぶした甚爾は、その場に似つかわしくない間抜けな声を出した。
そして、ポケットからもう一つ袋を取り出し真希たちに突きつける。
「舐めたらこうなるってことだ。覚えとけ!!」
パシャン。
再び、甚爾の馬鹿力により袋は破け直哉の身体を濡らす。
「あ、やべ」
再放送だろうかと見間違うほど先ほどと同じ展開が繰り返される。
「甚爾さん、何してんねん!!」
「ただの水だってバレちまったな」
いたずらっ子のような笑みを浮かべる甚爾の襟首を全身びしょ濡れの直哉が掴む。
水。
ただの水。
その言葉に、銀行内にいる全員が緊張の糸を解いた。
「伏黒君!!今だ!!拳銃を奪うんだ!!」
「はい!!」
「させるか!!」
「行け、直哉!!」
「わかってはります!!」
サリンがただの水だと分かった今。
本当の武器は床に転がる拳銃のみ。
それを先に手にした者が、この場で優位に立てる。
皆がそう思った。
だから一斉に拳銃に向かって走り出す。
そして銃を手にしたのは、真希だった。
「これで元に戻ったな」
真希は近くにいた真依の腕を取る。
「悪いが、空港まで一緒に着いて来てもらおうか」
「真依さん!!」
伏黒が助けようと一歩踏み出すが、銃を突きつけられる。
「そこをどきな。……空港まで一緒にドライブしようじゃねえか」
「い、いやっ!!!」
人質として捕らえた真依のこめかみに銃口を当てる真希。
真依は無我夢中で暴れた。
人質になった恐怖もあったが、それよりも今銃口が自分に向いていることの恐怖が大きく、体を捩じり両手を大きくばたつかせる。
その勢いに押された真希は、思わず捕まえていた手を放してしまった。
気付いたら、真希の手に銃はなく代わりに真依の手に銃口が握られていた。
初めて触る拳銃の感触や先ほどまで捕まっていたこともあってかプチパニックを起こした真依は思い切り拳銃を放り投げる。
綺麗に弧を描いた銃は硝子の手の中に収まった。
「ナイスキャッチです、支店長!!」
形勢逆転と言わんばかりの空気の中、硝子はただ黙って手の中に収まる拳銃を見つめていた。
その間にも甚爾は人質として伏黒を捕らえていた。
伏黒の首にナイフを当て、「拳銃を捨てろ。かわいい部下が死ぬぞ」と脅すが、硝子は言う事を聞かずに、銃口を構えた。
「やめとけよ、支店長さん。アンタにはそんなの撃てねえよ。危ねえから、銃を捨てな!!」
甚爾の声の圧に、硝子は大きく肩を震わせた。
何度も生唾を飲みながら、銃を降ろす硝子。
その様子を見て甚爾は笑みを浮かべた。
が。
何を思ったのか、硝子はもう一人の銀行犯である真希に銃口を突きつけた。
「何してんねん、アンタ!!」
直哉の鋭いツッコミが炸裂するも拳銃を構える姿勢は解かない。
「金をよこせ!!」
「支店長、何言ってんのよ⁉」
「伏黒君、真依さん、悪いね……。私は駄目な支店長だ」
せやろな、この状況見たら誰でも思うわ。
と、直哉は思ったが口には出さなかった。
硝子は言った。
この年になるまで何もなかったと。
地位も名誉も無ければ、子供もいないましてや結婚もしていないしもっと言うなら恋人だっていない。
きっかけがないままただただ生きていた。
もし、自分に何かきっかけがあれば何か変わっていたのかもしれない。
そう思う日々を過ごしていた。
「これが、私のきっかけだ……。私は今日、今までの私から抜け出すんだ……!!動くなああああああ!!金をよこせ!!!」
錯乱でもしたのかと錯覚するほど、普段の硝子からは考えられない行動に部下である伏黒も真依も困惑の色を隠せない。
馬鹿な真似だと言う事は硝子自身わかっていた。
分かっていたけど、それ以上に真剣だった。
きっかけを、今までの自分から脱却するきっかけはここしかないから。
ここを逃せば、また何もない日常が待っている。
そんなのは耐えられなかった。
「動くんじゃない!!!!」
その場にいる全員に銃口を突きつける硝子。
その時。
銀行の外から声が聞こえた。
「警察だ!!人質を解放し無駄な抵抗はやめて大人しく投降しなさい!!」