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「はわわわわわわそそそそんなこと言われちゃったりなんちゃったりしちゃったりしましても…………」
従業員と客を拘束されたこの状態を目の当たりし、酷くテンパる支店長―――家入硝子に、隣にいた従業員2名が声を掛ける。
「どうしよう、困っちゃうな……」
「支店長」
「どうしてこんな時に部長も課長もいないんだ」
「営業にでているからです」
「私もちょっと営業に出てこようかな」
「「支店長!!」」
あまりにも身勝手なその行動に2人は声を張り上げる。
「困ります、支店長。何とかしていただかないと」
と、冷静にそう言うのは従業員の一人―――伏黒恵。
「支店長、お願いします。支店長しか頼れる人がいません」
と、もう一人の従業員―――禪院真依がそう言った。
「伏黒君」
「はい」
「君、ここで働いて何年目かな」
「5年目です」
「そろそろだな。おめでとう、今日から君が支店長だ」
「支店長!!何をバカな事を言っているんですか!」
「冗談だよ」
「こんな時に冗談を言うのはやめてください。お客様もいるんですから」
真依の言葉に硝子は冷静に辺りを見渡した。
拘束され身動きの取れない彼らはずっと脅えている。
それを見て、自分が今できる最善の策を見失っていたことに気が付いた。
「何やってんだよ。警察が来る前にずらかんだから早くしな。下手な真似したら撃つからな」
「……わかった。なんとかしよう。要求額はいくらだ」
「素直じゃねえか。……2億だ」
2億。
その多額の金額に伏黒も真依も大きく目を見開いた。
ただ一人、硝子だけが静かに倉庫の鍵を取り出して、真依に手渡した。
彼等が今最も優先すべきことは従業員と客の命を守ること。
何十人といる命に比べれば2億という金額は、失ったとしても痛くも痒くもなかった。
真依は力強く頷くと倉庫へとまっすぐに向かって行った。
その頃、真希はと言うと。
時計が3時になったのを確認し、シャッターやカーテンが全て降ろされているのも確認した。
警察がここにくるのも時間の問題。
車の手配はもうすでに済んでいるようだった。
あとは真依がバックに金を詰め込むのを待つだけ。
「逃げるのを協力してくれれば悪いことはしないからさ」
クスクスと笑いながら、面白そうに拳銃を一人一人に突きつける。
「悪いな、怖い思いさせて。私だってこんなことしたくなかったんだぜ?この銀行襲ったのだってたまたまだったし。運が悪かったと思って諦めなよ」
「支店長!!2億、持ってきました!!」
丁度その時、真依がお金が詰まったバックを持ってきた。
重たそうにしながら、硝子の所へ向かっていたら緊張して足が固まっていたからなのか、大きくつまずき2億の入ったバックは宙を舞い、客の身体に当たった。
これが2億の重さなのか、と少々場違いな事を考えてしまったがそれほどまでに重たかった。
真希は客に近づきバックを取ろうとした。
が。
「動くな」
一か所に固まっている客のどこからかそんな声が聞こえた。
「銃を置け」
そう言ってゆっくりと立ち上がる2人の男性。
縛っていたはずの縄はどういうわけか解かれていた。
「なにやってんだ、君!」
硝子は慌てたように彼らに大人しくするように説得するが、聞く耳を持たないのか、彼らはポケットからあるものを取り出した。
小さな透明なポリ袋を見せつけるように、男の一人―――禪院直哉はそれを高く持ち上げた。
「これ、オマエらこれに見覚えあるやろ」
「ただのポリ袋じゃねえか」
「その中身や」
大きく上下に振ると、ちゃぷちゃぷと水音が聞こえた。
中に、水でも入っているのだろうか。
そう、誰しもの頭の中で考えた。
「アカンやん、忘れたら。知ってるはずやで」
そのなぞかけにも似たような言葉選びに、真っ先に気が付いたのは恵だった。
「まさか―――」
「そう、そのまさかだ」
今まで黙っていた唇に傷のあるガタイのいい男―――禪院甚爾はにやりと笑った。
彼等が手にしているポリ袋の中身。
それは、1995年3月20日午前7時30分。
地下鉄の電車の中でこの液体がばらまかれ、日本中は恐怖のどん底に突き落とされた。
それを彼らは手にしている。
中身が一体何なのか。
理解した瞬間に銃口を突き付けられた以上の恐怖が空気を震わせた。
銃を持っている真希でさえ、冷汗が全身に噴き出た。
「さぁ、銃を置いてもらおうやないか。俺達は」
「「銀行強盗だ」」
成す術もなく、真希は銃を捨て手を挙げた。