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例えば。
1990年代、ファクシミリというものが普及された。
そこで人々は初めて、文字を電波に変えて送信することができた。
2010年。
人々は音声を電波に変えて送信することを可能にした。
しかしそこまでだった。
結局のところ、電波を使って送信できるものは平面上のものや音だけであり、物体は空間を転移することはできなかった。
つまり、ここで「送信」という分野は壁にぶつかったのだ。
それが今の科学の現状。
「送信」という分野が更なる進歩を遂げるためには、壁を越える新しい鍵が必要だなのだと、五条はそう言った。
「進化は常に偶然に起こりえる訳ではなく、何かきっかけが必要なんです」
それが新しい鍵。
目の前に立ちふさがる「限界」と言う名の扉を開けるための鍵。
硝子は五条の話しを聞きながら問うた。
「じゃあ、送信の分野だけでなく全ての分野において科学は壁にぶつかったのか」
その言葉に、五条は口元を緩め静かに首を横に振った。
確かに科学の進歩という目標を持った科学者たちは、たくさんの壁にぶつかり、その姿を潜めてきた。
だけどかろうじて微細ながら、ベクトルを持つ分野が残っていた。
「それは?」
硝子の言葉に、五条はその唇を歪め弧を描いた。
「サイバネティクス」
知能制御理論と情報理論を中心とする人工頭脳理論。
生物と機械との融合による制御と通信の分野。
五条は高らかに胸を張ってそう言った。
「サイバネティクス……。それがあなたの専門分野なんだね」
「はい」
「その話が聞きたかった」
五条は硝子を見つめる。自分の専門の分野を聞くために彼女はここを訪れた。
硝子は言った。五条が雑誌に書いていたコラムを連載していた。
彼女はそれを読んでいた。
「その雑誌にあなたはあまりにも非常識な展開を書いた。専門的なことについては私はよくわからないが、あれはつまり植物人間のサイバー化だ」
「ええ、確かに載せました」
「実証は」
「いや、あれはあくまで理論上の話しで、それを裏付ける実証はまだありません。しかし、もし、私の理論が正しければ」
「"もし"などという言葉は私の読んだコラムにはなかった」
硝子の言葉に、五条は口を噤んだ。
確かに、「もし」なんて言葉はあのコラムには書かなかった。
保険を掛けてしまうのは、失敗することが怖いから。
可能性と言う名の壁を乗り越えられる自身がないから。
それでも。
「壁を開くことができるんですね」
追い立てる様に放たれる言葉に、逃げ場を失う。
いや、何故逃げる必要があるのか。
自分はずっとそれを望んでいたはずだ。
科学の進歩を。
限界を超えた先の景色を。
ずっとずっと追い続けてきたはずだ。
「……ええ」
だから頷いた。
「開いてみませんか?」
「え?」
「いまだに医学は植物人間の蘇生に成功していない。相変わらず機械で呼吸をさせ、生長えらさせているだけ。あなたの力で呼び戻してみないか」
「いや、でも先生!!」
「あなた自身が鍵となるんだ。閉ざされた扉を再び開くための新しい鍵」
緊張と興奮と不安と心配。
いろんな感情が五条の中で生まれる。
差し伸べられた家入の手をじっと見つめ。
自分が鍵となって新しい扉を開ける事が出来たらという未来を想像して。
五条は生唾を飲み込み、硝子の手を握った。
藤子・F・不二雄の描いた日本の漫画・SF漫画の一つであるドラえもん。
その漫画に出てくる主要キャラクターの一人、ドラえもんは元々21世紀からタイムマシンに乗って現代へとやって来た猫型ロボット。
便利で素敵な道具を持っているドラえもん。
誰でも一度は思った事だろう。
自分もドラえもんに会いたい、と。
そしてタイムマシンに乗って未来へ行ってみたい、と。
今、実際思う事は何だろうか。
ドラえもんの連載初期は確かに21世紀からやってきたのだ。
1969年に連載を開始したドラえもんは。
確かにこの頃から見れば21世紀は遠い未来の出来事。
だけど21世紀はやってきた。
本棚の奥にしまわれたドラえもんをもう一度読み返した時。
人々は一体何を思うのか。
そして子供ができたら。
ドラえもんを知らない子供たちが親の漫画を読んだ時、一体何を思うのか。
その時が訪れたら、きっと人々の中のドラえもんは完結するのだろう。