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公共の場である居酒屋で下品な話題で盛り上がる彼らを虎杖は、一歩離れたようなそんな場所で客観的に見ていた。
でっちあげた性癖を暴露したりする彼らをみっともないと思いながら、だけどその輪の中に入りたいような入りたくないような、そんな矛盾を虎杖は抱えていた。
あの頃とは違う。
自分たちは大人になった。
大人になったから、ちゃんとしなければいけない。
ぼうっとそんな風に考えていた虎杖の目に、テーブルに突っ伏す夏油の姿が映った。
珍しく酔いつぶれた夏油に五条は目を丸くした。
それなりにハイペースで飲んでいた上、みんなと会えた事が嬉しかったのかいつもはセーブするはずなのに、抑えが聞かなかったようだ。
顔を真っ赤にさせた夏油は、規則正しく寝息を立てている。
「珍しい。傑が酔っぱらうなんて」
と、五条がいうものだから相当珍しいのだろう。
「嘔吐しないだけましだな」
「それはお前だろ、葵」
「何を言っているんだ、俺は吐いたことなど一度も無いぞ」
「嘘だね。僕が何度お前を介抱してやったと……」
「それは五条も同じだろ……」
ぎりっとにらみ合う二人。
そしていつの間にか飲み比べが始まった。
生ビール二杯を一気飲みする二人だったが口元を抑えトイレへと駆けこんだ。
その様子をずっとみていた伏黒と虎杖は深いため息と乾いた笑みを浮かべたのだった。
「相変わらずだな」
「うん」
「どうした、虎杖。具合悪いのか?」
「え、なんで?」
「元気が、ないように見えたから」
「そんな事、ないけど」
「なんかお前、変わったな」
「え?」
静かになったテーブル席。
二人は向い合せになるように座り、伏黒は冷めきった焼き鳥を口の中に入れた。
伏黒の隣では気持ちよさそうに夏油が眠り続けている。
「学生の時、お前が一番バカ騒ぎしてただろ」
「そう、だっけ……?」
「そうだよ。東堂さ……、東堂や五条……なんかと一緒になって」
「変わってないよ、伏黒がいうほど」
「いや、変わった」
自分が変わっていないと言うのに、伏黒は断固として虎杖の言葉を聞き入れようとしなかった。
実際虎杖は変わった。
学生の頃は、伏黒の言うように誰よりも馬鹿なことをして誰よりも騒いでいた。
それが今はどうだ。
誰よりも落ち着き払っている。
あの伏黒よりもだ。
自分が変わったなどとは思いたくはないが、確かに昔に比べればあまり馬鹿なことはしなくなった。
だけどそれは自分の性格や思考が変わったのではなく。
「年取ったってことだろ」
「年取った?」
「社会でてさ、いろいろあって疲れちゃったのかも」
年を取ってしまったせいで、子供の頃にはわからなかったことがわかるようになった。
見えなかったものが見えるようになった。
激動による変化に虎杖の身体はついて行けず、いろいろ精神的に大人にもなったし疲弊もした。
それがそう見えているだけなのかもしれない。
そう、虎杖は言った。
「だからこそだろ」
「え?」
「こういう時にみんなとバカ騒ぎして、昔に戻ったみたいに骨休みでもなんでもすればいいだろ」
伏黒の言葉に、虎杖は少し俯いた。
それは正論であり曲論だ。
追加で注文したまぐろのたたきと蛸のから揚げ、きゅうりの塩昆布和えを食べる伏黒に、虎杖は静かに口を開いた。
「俺さ、今日伏黒達に会えるのすごい楽しみにしてきたんだよ。あれからすごい時間経ってたしさ。……そしたらなんだよ。お前ら昔のまま何も変わんないで話してんじゃん」
「いいことだろ」
「……正直羨ましかったよ。いつまでもくだらないことで盛り上がって」
「入ってくればいいだろ、輪の中に」
「だから年を取ったんだよ」
「同い年だろ」
何を言っても伏黒は淡々と正論を返してきた。
その通りなのだ。
伏黒の言う通りだ。
だけど、虎杖にはそれができない。
「俺達さ、もう超えちゃったんじゃないのか」
「何をだよ」
虎杖は、視線を少し泳がせた後、空になったグラスを見つめた。
昔、伏黒達と一緒にいた空間と今の空間は別物。
少なくとも虎杖にとっては、彼等との調子の合わせ方を忘れてしまった。
もう何年も前の話しだ。
虎杖のその言葉に、伏黒は口に含んでいた食べ物を飲み込み、酒を呷った。
伏黒は言った。
昔の彼らは何も考えずに、欲望の赴くまま、感情の赴くままに話をしていた。
だけど大人になって。
言っていいことと悪い事、聞いていいことと聞いてはいけないこと、そういう「余計」な気づかいをするようになってしまった。
「だからそれが年を取ったってことだろ」
「違うだろ」
「何がどう違うんだよ」
「なんて言えばいいんだ……」
首を搔きながら眉間に皺を寄せる伏黒。
数秒経っても何も発さない伏黒に、虎杖は身体をテーブルに近づけた。
「寝てる?」
「寝てない」
「あ、よかった」
「……虎杖はさ」
「うん?」
「かっこつけてんじゃねえのか?」
「俺が?そんなことないって」
「じゃあ、"いろいろあって"って言ったけど、何があったんだよ」
「……別にそれ、伏黒にいうことじゃないだろ」
「………かっこつけてんだろ」
ふっ、と静かに笑みを見ぜる伏黒に虎杖はむっと唇を尖らせる。
「いろいろあったなんて言うけど、みんな同じだろ」
「わかってるよ、そんなこと」
「またかっこつけた」
「なにがだよ‼」
思わず声が大きくなってしまった。
寝ている夏油に目をやる二人。
起こしてしまったかと思ったが、彼は今だに深い眠りの中のようだ。
視線を夏油から空になった皿へと移した。