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ガヤガヤと、うるさいそこは。
どこにでもあるような居酒屋の店内だった。
テーブル席には見知った顔があって。
虎杖はその場所へと歩を進めた。
それぞれが頼んだお酒がテーブルの上に置かれる。
音頭を取ったのは五条だった。
「えー、再会を祝しまして……乾杯!!」
乾杯、と4人も声を合わせた。
ぶつかるグラス同士の音が響き、グラスを大きく傾ける。
ごくごくと鳴る音と共に、アルコールが全身に回る。
ぷはっと息を吐いて濡れた唇を拭った。
「でも、よくみんな集まれたね」
と、夏油が4人の顔を見渡しそう言った。
「何年ぶりになるんだ?」
「7年ぶりだよ、7年!!」
テンションが上がっている五条は伏黒の肩に腕を回した。
五条の頬は既に赤く、目は蕩けている。
グラスは3分の1程度しか減っていないと言うのに、この男は既に酔っぱらっていた。
「五条は酒が弱いのか」
「あー、うん。下戸だから普段は全然飲まないしソフドリばっかりだけど、今日はみんなに会えるからって舞い上がってるみたい」
「夏油さん、この人どうにかしてください」
「あはは、ごめん無理」
生ビールを半分以上飲みながら東堂が夏油に尋ねると、困ったような表情をしながら夏油はそう言った。
伏黒もまた引っ付き虫である五条のウザがらみに耐え兼ね助け船を出したが即答で却下された。
五条をどうにかできる人間は、この中で夏油しかいないというのに、その男が匙を投げたらおしまいだ。
伏黒の目は一気に生気を失くした。
そんなのお構いなしに、五条は伏黒の腕に自分の腕を絡ませながら、まるでぶりっ子な彼女のように頬を摺り寄せる。
「私ぃ~、みんなに~連絡するの大変だったんだよぉ~」
「そのキャラはなんだ五条。気持ち悪いな」
「他の人も葵だけには言われたくないだろうね」
「すみませーん、お冷一つ!!」
伏黒が叫んだ。
その様子を虎杖はケラケラと笑いながらも、どこか客観的に見ていた。
「傑さん、連絡とるの大変ってどういうこと?」
グラスを傾けながら、虎杖は先ほどの夏油の発言で気になった個所を拾った。
「この前機種変をしたんだけど、バックアップを取るのを忘れてね。ラインの履歴も友達も全部なくなってしまったんだよ」
「うわ、悲惨……。でもマジでよく連絡とれたね」
「俺の力を見くびんじゃないよ‼」
「うわ、急に大声出すなよ……」
ガタンと勢いよく立ち上がった五条は、夏油の側に座ってケタケタ笑いながらおつまみを頬張る。
そしてまた笑った。
なにがそんなに面白いのかとそんな目で見ながらも、でも五条の気持ちはわからなくもなかった。
五条のように表には出さずとも、みんな心の中ではテンションは上がっていた。
あの伏黒でさえも。
そして誰かが言った。
「今、みんなは何をしているのか」と。
近況報告のようなそれに、どこからどこまでをどう話そうかと、アルコールで鈍る脳ミソをぐるぐると回し、話の手順を組み立てる。最初に口を開いたのは五条だった。
「傑はねぇ、今、支店長さんなのっ!!」
「なんで君がいうんだよ……」
「えっ、支店長なの夏油!?」
「そんなこと言ったら恵だってすごいだろ、社長さんだろ今」
「えっ!?恵社長なの⁉僕それ知らない!!100万円頂戴っ!!」
「あんたはボンボンだろっ!!!!」
ぎゃあぎゃあ騒ぐ五条を黙らせて、伏黒は息を吐いた。
「別にすごくなんてない。結婚してしばらくしたら親父がどこかに蒸発したんだ。だから俺が親父の跡を引き継いだだけ」
「いやいや、立派なもんだよ」
「よっ、若社長!!」
「その呼び方やめろ……」
すぱん、と勢いよく伏黒は五条の頭をはたいた。
そんな彼らを見ながら東堂は満面の笑みを零しながら口を開いた。
「素晴らしいな、みんな。俺とは大違いだ」
「葵は?今何してるの」
「フリーターになって毎日ぶらぶらしている」
「仕事やめた……のか?」
「俺には、やはり会社勤めは合わなかったようだ」
「胸を張って言う事じゃないでしょう」
と言いながらもくすくすと笑う夏油。
そんな東堂に、今まで黙っていた虎杖がようやく口を開いた。
「だめだよ、東堂。仕事ってのは要領よくやらねえと」
虎杖は言った。
東堂はいつも全力投球をしすぎだと。
少しは力を抜いて、だけど決めるところ決めなければいけない、と。
虎杖らしからぬ発言に、4人は拍手をしながら「かっこいいこというねぇ」「虎杖らしくねえな」などと囃し立てる。
虎杖は目の前のグラスを軽く傾け、そしてテーブルに置いた。
「大切なことだよ。つまんない人生を送っちゃだめだ」
「俺の人生はつまらなくないぞ」
「葵は今なんの仕事をしているんだい?」
「仕事自体は確かにつまらん。だが、副業……そっちの方が楽しくてな」
ふふん、とどこか誇らし気な東堂。
副業を始めたとはいったい何を始めたのか。
4人は東堂の次に出る言葉を待っていた。
たっぷりと、もったいぶるかのように。
東堂はゆっくりと口を開いた。
「役者、だ」
役者……。
役者とはあれか。舞台やテレビ、映画などで演技をする人のことだろうか。
ほわんほわんと4人の脳内では、演技をする東堂の姿が描かれる。想像できるようでできない。
できないようでできる。
このどうにもはっきりとしない感覚に、思わず五条と夏油は笑った。
「役者ってお前!!」
「あははははっ!!」
「何も笑う事ないだろ~」
唇をすぼめて拗ねた顔をする東堂。
その隣に座る伏黒は静かに肩を震わせて笑っていた。
どうやら東堂が演技をする姿を想像して時間差攻撃をくらったらしい。
「よくないぞ、東堂」
「なんだ、マイブラザー」
「一度きりの人生無駄にすんなって。ちゃんと真面目に生きないと、今からちゃんとしておかないと、年を取った時大変だぞ」
東堂は腕を組んで虎杖を見つめる。
その言葉はさんざん周りから言われてきた言葉。
だから「わかっている」と答えた。
「わかってないよ、東堂。そんな一銭の得にもならないこと続けててもなんもいいことないぞ」
「虎杖、何もそこまで言う事は……」
「伏黒。いいんだ。マイブラザーは俺の為に言ってくれているんだからな。ありがとうな、マイブラザー。参考にさせてもらおう」
「いや、真面目にさ……」
「あーもうさ!!もっと楽しい話しようぜ~」
駄々をこねる子供のように、重たくなりそうな雰囲気を五条が止めた。
そして一気に3分の2程残っている酒を一気に飲み干して、テーブルに突っ伏した。
「うあ~~~っ。気持ち悪い~~~」
「一気に飲むからだよ。はい、お冷」
「口移しで飲ませて~」
「はは、ふざけんな」
さわやかな笑顔を顔に張り付けた夏油は五条の手に無理やりコップを持たせた。
なにかぶつくさと言っているが、五条は一気に水を喉に降下させた。
火照った身体に染みる冷たい水が気持ちよくて、大きく息を吐いた。
「そういえばマイブラザー、例の彼女とはどうなったんだ?」
話題を切り替えるように、東堂が虎杖にそう尋ねた。
誰よりも早く反応を見せたのは誰でもない五条だった。
虎杖に彼女がいたことを今初めて知った。
「どうって……今、一緒に住んでるけど」
中身の少なくなったグラスを傾ける虎杖の言葉に、その場にいる全員が驚きを隠せなかった。
「一緒にって……虎杖お前結婚したのか?」
「結婚はしてないよ。同棲してる」
「「「「同棲⁉」」」」
「悠仁、ホモだったのか⁉」
「違うよ、悟」
的外れなセリフを吐く五条にツッコミを入れながら、彼らは虎杖の言葉に耳を傾ける。
5年間付き合ってそして同棲して4年。
かれこれ9年はずっと一緒にいるという虎杖。
結婚式を今さら挙げることはしないと言うが、夏油や東堂は挙げるべきだと言った。
それでもただ笑って追加のお酒を注文してごまかす虎杖。
その時、「あっ」と誰かが声を上げた。
「俺も一つ思い出した」
「なんだい、葵」
「ブラザーたちが童貞君って呼ばれていたこと」
余計な事を思い出してくれたな、という表情をする伏黒だったがもう遅い。
夏油や五条はゲラゲラと笑いながら「あったね」と話している。
流石にもう大人である彼らは童貞ではないが、それでもあの時つけたあだ名は酷かったとか、関節キスで妄想して抜けるなんてありえないとか。
そういう自分たちの若く苦い思い出を語っては、声を上げて笑う。