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ザーッとテレビの砂嵐のように、目の前のチャンネルが切り替わる。
虎杖は一度だけ瞬きをした。
たった一瞬にして、今までいた屋上は夕暮れの教室へと移り変わった。
自分の手を見ると、先ほどよりも小さく背もまた縮んでいる。
どうやらここは中学校の教室の様だった。
一人ぽつんと夕暮れの教室に佇む虎杖。
静寂と赤い夕陽に、何故だかわからないけれど。
虎杖は寂しさを覚えた。
それと同時に懐かしさも。
この感情を人は一体何と呼ぶのか。
感傷に浸ろうとした虎杖だったが、急に廊下から騒がしい声と共に複数人の足音が虎杖の耳に届いた。
勢いよく開けられる教室の扉。
いつもの仲良しメンバーが大声を出しながら笑っていた。
「マイブラザー、どこに行っていたんだ?」
「え、いや……」
虎杖の姿を見つけると真っ先に東堂が彼の肩に腕を組んで、目を細める。
どこに行ったも何も、虎杖はずっとここにいた。
どこかに行ったのは4人の方なのに、と思いながらも虎杖はみんなの輪の中に入る。
「悠仁、そいつから離れろ。そいつうんこマンだぞ」
と、ゲラゲラ笑う五条。
釣られて夏油もくすくすと笑った。
「なに、お前うんこしたの?」
「人は皆、排泄をするものさ、ブラザー」
「……手、洗った?」
「洗ってませーん!!」
ぎゃはははっと声をあげて腹を抑えながら笑う五条。
虎杖は若干引き気味であったが、伏黒が「東堂は、意外とエチケットとか身嗜みに滅茶苦茶気を遣ってるぞ」というセリフに、ホッと胸をなでおろす。
そしてなぜか猥談へと話は発展する。
男という生き物はいつになっても己の性欲に忠実であり、特に思春期ともなれば頭の中は9割性欲で満たされていると言っても過言ではない。
ちょっとした下ネタですら、彼らにとっては妄想するための材料に過ぎない。
三代欲求に、逆らうことなど人間にはできないのだ。
夕暮れの放課後の教室。
彼等は自分の好きな女子のタイプや何をオカズに抜いているのかとか、この前女子と関節ちゅーをしたとか、そんな話で盛り上がる。
こういうどうでもいい時間が、虎杖はすごく好きだった。
楽しかった。ずっとこんな時間が続けばいいのにと、思うほど。
だけど、青い春という儚い時間はすぐに過ぎていく。
下校時刻のチャイムが鳴れば、誰かが「帰るか」と言って、彼らは別れる。
この寂しさが、儚さが、次の日に訪れる再会に喜びと嬉しさに上書きされ、また新しい明日がやってくる。
そうやって時間を過ごした。
そうやって思い出を作った。
そうやって募る感情が日に日に増していった。
ザーッ。
砂嵐が虎杖の前に現れる。
小学校、中学校、高校、と。
ずっと一緒だった。
五条と夏油は一緒の大学に行って。
東堂と伏黒は違う大学ではあったけど、大学自体は近い距離にあったらしく、会える時は会っていたと言う。
虎杖一人だけが、みんなとの会えない時間を過ごした。
それでも夏休みや冬休みになれば5人で会って、くだらない話で盛り上がって、たくさん笑った。
だけど、やはり感じる寂しさと言うものはある。
自分の知らない大学生活を彼らは送っている。
知らない友人と知らない話題で盛り上がって。
共通の話題なんて一つもないから、気を抜けば大学の友人の話をされる。
そんなの聞いてもわからないから聞きたくない。
そう思っても口には出せない。
だから適当に相槌を打って、適当に笑う。
それが虎杖の中の虚しさを大きくさせた。
大学3年の後期ともなれば就職活動やらで忙しくそう簡単に会えない日が多くなった。
大学4年は就職活動に加え卒業論文も加わり、ますます忙しくなった。
卒業後は新社員として新しい事を覚えたりなんだりと忙しく、やっと懐かしい顔ぶれと再会ができたのは、それから数年後の事だった。
今まで砂嵐だったそれは、夕暮れの中学校、進学した桜舞う高校、大学、そして会社と、ぐるぐるとループするように回り続けている。
そしてやっと音を立てて、チャンネルが切り替わった。