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「あら、やっぱり野薔薇じゃない。そうじゃないかと思ってたのよね」
「真依~。久しぶり。胸大きくなったんじゃない、また」
結婚式会場の出入り口。
式は既に終わったのか、会場にいる人たちは2次会会場へと行く準備をしている。
2次会に行くつもりがない釘崎は、そのまま帰ろうと歩き出したが、その時に後ろから聞き覚えのある声がして振り向いた。
そこにはかつての旧友の姿があって、思わず釘崎は抱きついていた
。
当たる胸の大きさを確かめて、冗談交じりの言葉に二人ともクスクスと笑いながら昔のことを思い出し、懐かしさに浸りそして現実へと意識は戻る。
「そうなのよ、でも25で成長止まちゃった。Hカップになるんじゃないかってひやひやしたわ」
「もはやホルスタインだね」
「誰が牛よ」
また二人で笑った。
こんな風に冗談を言って笑える友人、滅多にいるものではない。
冷たくなっていた安心が、熱を取り戻していくのがわかった。
「それより、野薔薇も結婚式に出席してただなんてね」
「うん、新婦が会社の同期なの」
「私は新郎の方。こんな珍しいこともあるものなのね」
「偶然ね」
「偶然って言わないの。何分の一の確率で会う事もあるって私の尊敬する人が言ってたわ」
「いいこと言うね、その人」
「でもここだけの話、あんまりいい式じゃなかったわね」
軽いため息と共に真依はそう零した。
「2年前と比べてるんでしょ、桃の結婚式と」
「だって、あの時泣けたじゃない」
「私はあんたのぐっしゃぐしゃな泣き顔に大笑いしたけどね」
「あんたはこの後の2次会行くの?」
「ううん、行かないよ。明日仕事だから。真依は行くの?」
「ええ、付き合いでね」
「それは大事にしないといけないわね」
「面倒だけどね」
「………あのさ、真依」
「何よ」
「また……、5人で集まりたいね」
「そうね。みんな今頃何しているのかしら。……そろそろ行かなくちゃ。みんな待ってる。じゃあ、野薔薇、また今度ね」
手を振って。また、今度ねと。
笑った。
遠くなる背中を見送って。
瞬き一つ。
ザーッ。
砂嵐と共に、再びチャンネルが変わり景色も変わる。
軽快な音楽とともに、賑わう人々のざわめき。
結婚式会場から遊園地へとチャンネルは変えられた。
釘崎の姿を見つけた三輪は、大きく手を振って彼女の元へと走る。
「野薔薇ちゃん、久しぶり!!びっくりした、遊園地で会うなんて!!もしかして彼氏と?いいなぁ。私?私は、メカ……、幸吉……、夫が久しぶりの休みだから家族サービスだって言って張り切ってて。でも結局娘とはしゃぎまわって私一人取り残されちゃった。朝から大変だったよ。早起きして人数分のお弁当作って、来るまででちょっと疲れちゃった。娘も車の中で大はしゃぎして吐きそうになって、もう本当に大変だった~。あ、呼んでる。私カメラ係なの。普通逆だと思わない?うん、今すごく幸せだよ。じゃあ、また今度ね」
ザーッ。
チャンネルが変わる。
遊園地から日常の街並みへ。
歩道を歩く釘崎の後ろから硝子が大きな声で驚かした。
「びっくりした?似てる人いるなって思って後つけてきたの。全然気づかないから。ぼうっとしてた?疲れ溜まってんじゃない?うん?私は今会社の昼休みだよ。そうだよ、私これでも主任よ。ちゃんとやってるんだから。頑張ってるわよ、一応ね。恋人?いないわよ。強いていうなら仕事かな、なんてね。ねぇ、今度飲みに行こうよ。話したいこともたくさんあるし。絶対行こうね。じゃあ、また今度ね」
ザーッ。
チャンネルは切り替わることなく。
ずっと砂嵐のまま釘崎はそこに立っていた。
繰り返しリフレインする「また今度」という言葉に釘崎は寂しさを覚えた。
【じゃあまた今度ね】
そう言って彼女たちは別れて「また今度」を待つ。
忘れた頃に「今度」はやってきて、そしてまたお決まりの再会と喜びと簡単な報告を交わす。
彼女たちの間にできた壁は頑丈でとても背が高く、彼女たちにその壁を壊す力などもうとっくの昔になくなっていた。
広がる遮断の中で、彼女たちはずっとそこに立ち続け、開かぬ扉を見つめ続ける。
釘崎はそれが心苦しかった。
この遮断はもう止められない。
この壁をぶち壊すことなどできない。
自分たちの間にできたこの溝を埋める術を見つけられないまま。
あの頃は、小さい頃はこんなもの平気で飛び越えられたはずなのに。
今はそれができない。
嫌だ、怖い、これ以上、壁を作りたくなんて。
そう思っても、壁は高くなるばかり。
その時、釘崎の持っていたスマホが音を立てて鳴った。
耳に押し付け電話に出ると、聞き覚えのある旧友の声がして。
「久しぶり。ううん、元気だけど。どうしたの、突然。え……?同窓会?来週の土曜日?うん、暇だけど。え⁉みんな来れんの⁉行く行く!!新宿で待ち合わせね!!おけ。めっちゃ楽しみ~!!」
ずっと砂嵐だったチャンネルは、ようやく落ち着ける場所を見つけたのか、かちりと音を鳴らした。
五月蠅い砂嵐から五月蠅い居酒屋へと。
でも、その五月蠅さは釘崎にとっては少しだけ安心できるものだった。