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「野薔薇ちゃん!!夢はなんですか、おおきくなったら何になりたいですか、大きくなったら何がしたいですか」
瞬きをすれば、硝子は煙草を吸っておらず、名前も「釘崎」から「野薔薇ちゃん」へと戻り、先ほどの大人のような雰囲気もなく、いつも通りの、釘崎の知る、小学2年生の硝子がそこにいた。
だが、釘崎の頭の中ではずっとさっきまでの異様な硝子の雰囲気と硝子の質問がぐるぐると脳内でリフレインしていた。
【夢はなんですか】
何度も何度も同じ質問が、落ち着いた声で何かを諭すような物言いでずっとずっと繰り返し繰り返し。
頭がおかしくなりそうだった。
釘崎は何も聞きたくないというように力強く己の耳を塞ぎ、そして叫んだ。
「私は……私は、夢なんかない!!!」
勢いよく教室を飛び出す釘崎。
その様子を生徒たちは黙って見ていた。
シン、と静まり返る教室の中。
硝子は再び煙草に火をつけて、煙をくゆらせる。
生徒たちは、子供たちだった彼らは、硝子に目をやった。
彼らの視線を受け止めながら、硝子は教室を出て行った。
流れるも流されるもわからずに、ただがむしゃらにエネルギーを溜め込んでいた。
あの頃はそんな頃だった気がする。
間違いや勘違いを繰り返しながら、正しいものと正しくないもの、まがりなりにもその区別がついた時、彼女たちのエネルギーはゆっくりと弾けた。
友人よりも早く多くの知識を得たい、その気持ちのエネルギーは競争や衝突を繰り返しそして大きくなっていった。
大人たちの囃し立ても助力となり、彼女たちは一歩ずつ慎重に、だけど泣き出したくなるような不安を重ね、突然のスピードで収まりきらないほどの情報を吸収していく。
それから、徐々に、収束するエネルギーと包み込むような自我の存在に気が付くようになった。
それは、大人になるにつれて。
年を重ねていくにつれて。
比例するように。
エネルギーは小さくなっていった。
まるで何かに遮断されるかのように。
家入が教室からいなくなった後。
まるでテレビのチャンネルでも変えたかのように、教室だったその場所は日常の、ごくありふれた、ショッピングモールの中へと変貌した。
生徒たちだった彼らは立ち上がり、子供らしい私服から、大人らしい私服、会社のスーツ、OLのようなオフィスカジュアルと様々な服へと変わった。
そして一斉にどこかへと散り散りになり、姿を消す。
残ったのは西宮一人。
そこへ小学生だったはずの釘崎が、オシャレな服に身を包み歩いてきた。
「あれ、野薔薇ちゃん?久しぶり!!」
ショッピングモールをゆっくりと歩く釘崎の姿を見つけた西宮は、小走りで彼女に近づいた。
釘崎もまた驚いた表情をしたが、それは一瞬のことで次には旧友の姿に笑みを零す。
「桃、お買い物?」
「そそ。子供の服を買いにね」
「あ~、見たよ、インスタで子供の写真。大きくなったわよね」
「今はもっと大きくなったよ。もう一人で立って歩けるようになって。どこにでも行っちゃうから目が離せないのよ」
「大変ね。でも私も早く結婚して子供欲しいな。来年でもう30になるし」
「何言ってんのよ。野薔薇ちゃん、自由で羨ましいって」
「そんなことないって。毎日毎日親から早く孫の顔見せろってうるさくてさ。今時お見合い写真なんて送られてくるんだよ。いい男ならまだしも、全然そんなことないから見てて疲れるし、お前誰だよって言いたくなるし」
「でも、たまに一人の時が恋しくなるよ」
「贅沢者、今幸せなんでしょ」
「まぁね」
西宮は幸せそうに微笑む。
そしてスマホを取り出し時間を確認した後、この後保育園に預けている子供を迎えに行くのだと言う。
子供を預けているこの時間でしか自分の時間を取ることができないという西宮。
忙しく大変で辛い時もあると言うが、それでも彼女の笑顔からは溢れんばかりの幸せな雰囲気が見て取れる。
「今度ゆっくりまた会おうよ。時間作るからさ」
「そんな無理しなくていいのよ」
「全然大丈夫だよ。じゃあ、また今度ね」
二人は手を振って別れた。
小さくなる西宮の背中を見て、彼女の姿が見えなくなるまで、彼女は手を振り続ける。
ザーッ。
テレビの砂嵐のように、目の前のチャンネルが切り替わる。
目を閉じて、目を開ける。たった一瞬の瞬き。
その間に場面はショッピングモールから結婚式場へと移り変わった。