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真っ暗な闇の中。
5人の男女が息を切らしながら走っていた。
「逃げろ!!」
「逃げろってどこへ!!」
「どこでもいい!!とにかく遠くまでだ!!」
「遠くってだからどこまでだよ‼」
「見て、なんか光ってる!!」
「どこ⁉」
「ちょっと、なんか追って来てる!!」
「本当だ!!」
「なんだ、俺達追われてんのかよ⁉」
「あいつら追いかけてきてる!!走れ!!」
「なんだよ、教えてくれよ!!誰に追われてんだ!!」
「説明しろよ!!」
「どうでもいい!!今は逃げる事だけを考えろ!!」
「近づいてくる!!」
「なんだってんだ!!」
「気を付けて、行き止まり!!」
「なんだ、なんだよ、この壁!!」
「どうしてこんなところに!!」
「どうしよう!!」
「助けてくれ!!」
5人の男女は、目の前に立ちはだかる高い壁を何度も殴ったり蹴ったりするが、びくともしない壁に彼らは絶望の色を隠せない。
奥歯を噛みしめる者、手の平を握りしめる者、頭を抱えしゃがみこむ者と、他者多様に打ちひしがれていた。
その時、眩しい光が彼等を照らす。
光の強さに反射的に目を瞑り細め、そして―――……。
真っ白な部屋。
床も天井も壁も何もかもが白色で統一された大広間のような場所に、5つの白い椅子が並んでいる。
椅子の真後ろには白い扉5つ並び、それぞれの扉の上にネームプレートが貼ら何か文字が書かれている。
大広間の扉の前に白衣を着た女性がヒールの音を鳴らして歩いてきた。
ポケットに手を入れ、煙草を咥えながら扉の小窓から中の様子を窺う。
中を確認すれば一度目を伏せて視線を反らした。
「彼らが私の元へ来てから5年も経つ。最初はひどいものだったよ。だけど、5年という月日は彼らの人格を変えてしまうのに十分な時間だった。彼らは見事に回復を、いや、この場合回復というより成長というべきかな。私はこれからも彼らと付き合っていこうと思うよ」
目の下に濃い隈を作った女性は、咥えていた煙草を携帯灰皿へと押し込んだ。
「そろそろ彼らが起きる時間だけれど、よかったら見ていくかい?」
彼女の言葉と同時に、大広間の5つの扉が勢いよく開いた。
扉を開けたのは、上下真っ白な服を着た5人の男女。
ゆっくりと扉を閉めると彼らは目の前の椅子へと歩いていき、そして静かに座った。
「おはようございます」
一番右端に座っていた男が第一声を発した。
ピンク色の髪の毛に、後ろは狩り上げている男の目はどこか虚ろで、声もまた無機質なものだった。
いや、この男に限ったことではない。
他の人間もまた、目が虚ろで、声は無機質なもの。
ピンク頭の声にまるでオウム返しをするかのように4人は順番に「おはようございます」と返答する。
「いい天気ですね」
と、ピンク頭の男。
「ええ」
と、団子頭の男。
「本当」
と、オレンジ頭の女。
「いい天気」
と、白い頭の男。
「今日も晴れますね」
と、ポニーテールの女。
「そうですね」
と、全員の声が揃った。
静まり返る部屋の中。ピンク頭の男が口を開いた。
「私、今日夢を見ました」
その言葉に4人は「へえ」と感心を示す。どんな夢なのか興味を持った彼らは女にその内容を話すように促した。
男は言った。
「女性の方と手を繋いで、ずっと歩いているんです」
ずっと、ずっと歩いている夢。
歩きながらお互いの思い出を話している夢。
たったそれだけの夢。
それでも彼らの興味は薄まることなく、逆に濃くなっていく。
「羨ましいです」
「すてきです」
「いいですね」
「実は、私も同じような夢をみました」
その時、オレンジ頭の女がそう言った。
「同じような」
「はい、私は立ち止まって彼と昔の話をしていました」
「なるほど。でも、私は歩いていました」
「私は立ち止まっていました」
「ふたりで似たような夢を見たんですね」
団子頭の男が、少しだけ口元を緩めた。
その表情はまるで子供の成長を見守るような。
「あ、先生がいらっしゃったぞ」
白い頭の男の声に一斉に4つの顔が入り口の扉へと向いた。
10個の目が彼女を映す。
白衣の女は、大きく息を吸って扉のドアノブをゆっくりと回し中へと足を踏み入れた。