【禪院真希】花吐き病
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真希の机に突っ伏し、香るはずもないのに大きく息を吸った。
うん、やっぱり木の匂いしかしない。
真希が毎日座ってんだから少しぐらいは残り香くらいしろよ。
それでも私は何度も息を吸った。
真希がここに座って棘やパンダ、私とくだらない話をして笑って怒ってまた笑って。
その笑顔が私は大好きで。
自分の芯を曲げずに生きている真希がかっこよくて。
禪院家での仕打ちとかそんなん関係ないとでも言うように、自分の不幸を嘆いたりしないで、「自分」を持っている真希を尊敬していて、そんな真希を好きになった。
気付きたくなかったなぁ。
真希は私の事をただの友達としか見ていない。
そんな友達に、ずっとそばにいた友達に。
告白なんてされたら、どんな気持ちで何を思うんだろう。
やっぱり「いやだ」って思ったり、すんのかな……。
その時、ヒヤリと背筋が冷たくなった。
背中に汗が伝って、酸素が体中から抜けていく。
心臓が、警報を鳴らしている。
吐くのを我慢しようと口を抑えたけどもう遅い。
花弁は手の隙間を滑り落ちて、机の上に転がる。
赤、青、紫、緑。
口から出てくる想いの塊。
その中に、見覚えのある花が落ちた。
昔よく花かんむりを作るために使っていた花。
シロツメクサ。
私の事を想ってください。
花言葉は確かこんなだった気がする
私は唇を噛みしめ、シロツメクサを引き裂いた。
「そんな簡単に言うなっ!!!!」
私の切実な想いは、私自身を苦しめる。
「そんな簡単に言えるほど……ぐすっ、私の気持ちは……軽くないっ……!!」
溢れ出す涙。
どんなに想っても、真希は私のことなんて見てくれない。
真希が好きそうな人間になれたらどんなに良かったか。
悔しい。
哀しい。
苦しい。
この渦巻いた感情を一度に吐き出してしまったらどんなに楽だろう。
だけど、どんなにそう願っても、その感情はなくならない。
その時、タイミング悪く真希が教室に入ってきた。
どうやらなかなかグラウンドに来ない私を呼びに来たらしい。
真希の目と私の目がバチリと合って、私の口から花が零れる。
見られた見られた見られた見られた。
「オマエ、それ……」
「ち、がう……これは……」
言い訳しようにもパニックになった頭では何も思いつかない。
もう、隠し通すことはできない。
気付いてほしいと思いながら、私は自分の気持ちを隠した。
わかって欲しいと思いながら、私は何も言わなかった。
言えないとか、言わないとか。
そんなの自分が傷つきたくな言い訳に過ぎなくて。
何も言わなかったら、気付くわけないじゃんね。
「真希ぃ……」
私は、ポロポロと涙を零しながら真希の名前を呼ぶ。
真希は驚いた顔をしていたけど、何も言わないで私を見ていた。
彼女のことだから、もう薄々気づいてるんじゃないかな。
好きになった人が"普通の人"とは違う。
だから誰からも理解されることも共感されることもない。
同じになんてなれない。
だったらいっそのこと、理解されなくてもいいから、共感されなくていいから、今はただこの気持ちを伝えよう。
どうしてこんなに苦しいんだろう。
悲しいんだろう、辛いんだろう。
後ろ指さされることなんてしてないのに、どうしてそう思ってしまうんだろう。
どうして。
大事なだけなのに。
壊したくないだけなのに。
「好き」というただそれだけで、どうしてこんなにも―――。
「好きなんだ、真希のこと。ずっと好きだった」
はらり、と真っ赤な薔薇が零れ落ちた。