【禪院真希】花吐き病
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
薄暗い部屋の中、えずく様な声が響く。
うえっ、と漏れる声と共に喉の奥から込み上げてくる「それ」は、嘔吐物ではなく、色とりどりの小さな「花びら」たち。
私は、嘔吐中枢花被性疾患という病気を持っていた。
通称、花吐き病と言われている。
室町時代から突然始まった病気で、潜伏、発症を繰り返しながら
現代まで続いている奇病。らしい。
今は患者の数もだいぶ減ってはいるが、"0"ではない。
明確な治療は見つかっておらず、社会の認知度も低く、吐いた花に他人が触れれば、感染してしまう。
発症する理由は、片思いを拗らせ続けること。
両思いになれば、それは治るとのこと。
言葉にすれば簡単そうに見えるけど。
実際問題そんな簡単にいくはずもない。
現に私が花を吐き続けているのだから。
ふぅ、と短く息を吐き濡れてもいない口元を拭う。
何度も吐いているため、痙攣する胃にも苦しさにも気持ち悪さにも慣れた。
手慣れた手つきで、吐いた花を拾いごみ箱に捨てる。
赤や青の色とりどりの花が集まるその中で、一際目立つ真っ赤な薔薇の花びら。
今までで一番吐いた花の花言葉は「貴方を愛している」。
花言葉になんて興味がなかったのに、こんな病気で詳しくなってしまったことが憎たらしい。
「っ……」
唇を噛みしめ、前髪をくしゃりと握った。
深く長い息を吐き、私はゴミ袋の口を固く結び、それをベッドの下に隠し毛布の中に隠れるように眠りについた。
充満する花の甘い匂い。
とうの昔に、この匂いにも慣れた。
翌朝、私はゴミ袋を持って高専から少し離れたゴミ捨て場へと持って行く。
何重にも重ねられたゴミ袋の中には、いろんな色のいろんな種類の花が詰められている。
私の想いはゴミと処理され燃やされる。
花を吐いている時点で想い人がいると言うのに、私は見ない振り知らない振りをするかのように踵を返し、教室へと向かった。
「カァッ」
高専へと戻っている道中、烏が鳴いた。
電信柱。
真っ黒い色のそれは、まるであの人を連想させる。
真っ黒い制服に身を包み、綺麗な黒髪をポニーテールにして束ねる姿はまさに烏の色と似ている。
頭の中に浮かび上がる想い人。
禪院真希。
東京都立呪術高等専門学校2年生で同級生の女の子。
そして私の片思いの相手。
私の病気が治るには、彼女と両思いにならなければならない。
結論から言うと、私のこの花吐き病は治らない。
異性ならまだしも可能性があったかもしれないけど、よりによって同性だ。
どう頑張っても可能性なんて0.1%もない。
私の恋は、叶わない。
「……うっ!!」
私は口元を抑え、その場に蹲った。
口から溢れるはコリウスの葉。
花言葉は「叶わぬ恋」。
うるさい、わかってるよそんなこと。
心の中で毒ついて、あふれる涙をこらえ、コリウスの葉をポケットにしまった。