【灰原雄】雨音に
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「じゃあ、気を付けて行ってきてね」
そう言って任務に出かける二人の手を握る。
いつものおまじないみたいな願掛け。
無事で帰って来れるように。
そうすると必ず二人は戻ってくるから、安心していた。
忘れていたんだ。
呪術師はいつ死んでもおかしくないってことを。
「椎名さん、灰原が死んだ」
だから、七海君からそう聞かされた時は何かの間違いだって思った。
でも、七海君の瞳が嘘じゃないことを物語っていたし、制服に付いている真っ赤な液体が何よりの証拠で。
私は遺体安置所へと走った。
寝台に横たわる灰原君は、下半身がなかった。
ひゅっと喉が鳴った。
夏油先輩が横目で私を見ていて何かを言っている。
けど、何も聴こえなかった。
「灰原、君?」
固く閉ざされた瞳はピクリとも動かない。
今朝握った血の通ったはずの手はとても冷たくて、死んでしまったんだと認識させられた。
ボロボロと零れる大きな雨粒たちは顎の先で大渋滞を起こして、彼の手やシーツを濡らしていく。
灰原君、灰原君。
私、灰原君に聞きたいことがまだたくさんあるんだよ。
聞いてほしいことがたくさんあるんだよ。
だからまた聞いてほしいな。
太陽みたいに笑ってほしいな。
灰原君。
いますっごい雨が降ってるよ。
この音、聴こえていますか。
こんな土砂降りでも雨は好きですか。
私は、雨は好きでも嫌いでもない。
洗濯が干せないのは嫌だし傘を忘れて濡れてしまうのは嫌だけど、雨が地面に当たったり屋根に当たったりして奏でる音は割と好き。
だから特別天気予報を気にしたことがなかった。
私ずっとおかしいんだよ。
灰原君が笑うとすごく嬉しいのにすごく苦しい。
でも灰原君がこうして目を覚まさなくなってしまったらすごく悲しくて心臓がとても痛い。
おかしいんだよ、なんでだと思う。
「灰原君」
灰原君のことがただの友達だって思ってた。
好きでも嫌いでもない、ただの同級生。
でも、違ったんだよ。
あの日、雨の中私の為に迎えに来てくれたあの日に。
あの日に私は、灰原君の事が。
「好きです」
私の声は、届いてますか。
雨音に、消えていたりしませんか。